第19話 漏れた情報
最初に気づいたのは、
外部の動きだった。
「……早すぎる」
リーネが、
水晶盤を睨む。
「この結界再調整、
今朝やったばかりですよね?」
「ああ」
俺は、
視線を落とす。
「まだ、
外には出していない」
にもかかわらず――
『神殿広報:
保守局による結界操作が、
市民生活に悪影響を――』
通信水晶に、
その文言が流れた。
「……内部か」
制御室が、
ざわつく。
「誰が……?」
「分からない」
俺は、
即答しなかった。
「だが」
静かに言う。
「“誰でもあり得る”」
空気が、
一気に冷える。
保守局は、
急遽、作業区画を分断した。
「ログを、
全洗いします」
「記録改竄の痕跡は?」
「……巧妙です」
リーネの声が、
硬い。
「正規権限を、
使っています」
つまり――
内部犯行。
その時。
「管理者」
一人の技術官が、
前に出た。
若い男。
優秀で、
口数は少ない。
「……どうした」
「その、
必要以上の監視は……」
彼は、
言葉を選んでいる。
「職員の信頼を、
損なうのでは」
制御室の視線が、
一斉に集まる。
俺は、
彼を見る。
「信頼は、
前提じゃない」
淡々と言った。
「結果で築くものだ」
男の表情が、
一瞬だけ――
歪んだ。
俺は、
見逃さなかった。
その夜。
外部通信路に、
微細な接続が発生した。
隠蔽。
暗号化。
神殿形式。
「……いたな」
俺は、
影の中へ視線を向ける。
「出てこい」
男が、
現れた。
「……気づいてましたか」
「最初から、
ではない」
俺は、
正直に言う。
「だが、
今は確信している」
男は、
肩を落とした。
「仕方なかったんです」
「何がだ」
「……神殿が」
彼は、
震える声で言う。
「保守局は、
世界を勝手にいじる危険組織だと」
「従わなければ、
家族が――」
脅迫。
ありがちな、
そして最悪の理由。
俺は、
少しだけ目を伏せる。
「……理解はする」
男が、
顔を上げる。
「だが」
続けた。
「許可はしない」
「処罰……ですか」
「隔離だ」
即答した。
「君は、
“悪”ではない」
「だが、
現場に戻すわけにはいかない」
男は、
力なく頷いた。
「……すみません」
彼が、
連れて行かれる。
制御室に、
重い沈黙が落ちた。
リーネが、
小さく言う。
「……これで、
終わりでしょうか」
「いいや」
俺は、
首を振る。
「始まった」
神殿は、
もう引かない。
悪魔は、
もっと巧妙になる。
そして――
「内部の信頼は、
一度壊れた」
それが、
一番厄介だった。




