第15話 世界は、同時に壊れ始める
最初の警報は、小さかった。
『北部結界、出力低下』
だが、
それを皮切りに――
『西方魔導炉、応答遅延』
『水路都市レイナス、流量異常』
『王都外周、結界再同期失敗』
制御室の水晶盤が、
次々と赤く染まる。
「……同時多発?」
リーネの声が、震える。
「いや」
俺は、即答した。
「連動している」
世界全体の構造が、
一気に視界に入る。
《管理者権限:広域監視》
魔力流。
結界網。
都市間同期。
すべてに、
同じ“癖”のズレがある。
「悪魔だ」
確信した。
「神殿の件で、
学習された」
「……じゃあ、
全部、狙われてる?」
「全部は無理だ」
俺は、冷静に言う。
「だが、
全部が壊れそうに見えるようにする」
心理戦だ。
「各班に通達!」
俺は、即座に指示を出す。
「全面復旧を狙うな!
落ちないことを最優先!」
「都市を、
見捨てるんですか!?」
「違う」
はっきり言った。
「順番をつける」
世界を救う時、
すべては守れない。
それを、
理解しているかどうかが、
管理者の資質だ。
「王都と水路都市を優先。
地方は、
安全停止に入れろ」
勇者が、
通信に割り込む。
『俺は、どこへ行けばいい』
「……一番、
“壊しやすい場所”だ」
『了解』
即答だった。
彼は、
もう迷っていない。
制御室の空気が、
張り詰める。
「北部結界、
限界まで下げました!」
「魔導炉、
安全装置解除……でも、
ギリギリです!」
数値が、
赤と黄色を行き来する。
「……来るぞ」
俺は、
静かに言った。
《警告:深層干渉》
世界の奥に、
明確な“意思”を感じる。
「――楽しいね」
どこからともなく、
声が響いた。
「こんなに同時に揺らしたのは、
久しぶりだ」
悪魔。
まだ姿はない。
だが、
確実に見ている。
「管理者」
リーネが、
俺を見る。
「このままだと……」
「ああ」
俺は、
頷いた。
「一か所、
意図的に落とす必要がある」
制御室が、
凍りつく。
「犠牲を、
出すんですか?」
「違う」
俺は、
水晶盤を操作する。
「落ちても、
復旧できる場所だ」
選んだのは、
無人の旧採掘区。
「ここを切る。
世界の負荷を、
一気に逃がす」
数秒の沈黙。
「……やれ」
リーネが、
震える手で操作する。
旧採掘区の表示が、
完全に暗転した。
同時に。
『全系統、
安定域へ復帰!』
制御室に、
歓声が上がる。
だが。
俺は、
安堵しなかった。
《新規アラート:
管理者権限への干渉》
悪魔は、
次を打ってくる。
「……本命は、
ここからだ」
世界は、
まだ――
試されている。




