第14話 剣を振るう理由
勇者は、眠れていなかった。
神殿地下での一件。
悪魔の裂け目。
自分の剣が、状況を悪化させた事実。
「……俺は、何を守ってきた」
訓練場で、
何度も剣を振るう。
速く、強く、
完璧な型。
だが、心は晴れない。
「強ければ、
救えると思っていた」
その背後から、
足音が近づく。
「それで、
救えたものも多い」
勇者は、振り返る。
「……管理者」
「保守局だ」
訂正する。
「用件は?」
俺は、簡潔に言った。
「一緒に、現場を見に行く」
「現場?」
「お前が、
“守ったつもりで壊した場所”だ」
勇者は、
短く息を吸った。
「……行く」
ベルナの街。
復旧は進んでいたが、
痕跡は、まだ残っている。
「この亀裂」
俺が指差す。
「お前の一撃で、
基幹式が歪んだ」
「……すまない」
勇者が、頭を下げた。
それだけで、
街の人々がざわつく。
「勇者様が……?」
「謝った……?」
俺は、何も言わない。
代わりに、
現場を歩かせる。
水路。
魔導灯。
仮設の結界。
「これを直したのが、
保守局だ」
「……派手じゃないな」
「ああ」
俺は頷く。
「だが、
壊さない」
勇者は、拳を握る。
「俺は……
斬ることしか、考えていなかった」
その時。
小さな警報が鳴る。
『魔力波形、乱れあり』
「……またか」
勇者が、
即座に剣に手をかける。
「待て」
俺は、手を上げる。
「今回は、
お前は斬らない」
「じゃあ、
どうする」
「守れ」
小規模な魔獣が、
街外れに現れた。
勇者は、
前に立つ。
剣を抜くが、
振るわない。
「……来るなら、
俺を越えていけ」
魔獣が、
突進する。
勇者は、
受け止めた。
衝撃。
だが、
地面は割れない。
結界も、揺れない。
「これが……
守る戦い方か」
「ああ」
俺は答える。
「壊さずに、終わらせる」
数秒後。
保守局の封印式が発動し、
魔獣は無力化された。
勇者は、剣を収める。
「……俺は」
彼は、俺を見る。
「保守局の判断に、
従う」
「命令じゃない」
俺は首を振る。
「選択だ」
勇者は、頷いた。
「なら、
俺は――守る側に立つ」
街の人々が、
静かに拍手する。
その音は、
剣戟より、ずっと重かった。




