第12話 神の名を騙る者たち
神殿内部は、割れていた。
「最近の一連の騒動、
明らかに異常です」
若い司祭が、声を抑えて言う。
「保守局の行動は、
結果として人々を救っている」
「だが――」
年配の司祭が、強く杖を鳴らした。
「神殿の権威が揺らいでいる」
円卓の空気が、張り詰める。
「信仰とは、
疑われた瞬間に崩れるものだ」
「だからこそ、
強さを示す必要がある」
その言葉に、
何人かが頷いた。
――過激派。
彼らは、信仰を守るためなら、
多少の犠牲は必要だと本気で信じている。
「神は、沈黙しておられる」
一人の司祭が、静かに言った。
「ならば我々が、
神の代行を務めればよい」
その瞬間。
床の下で、
不気味な魔力が蠢いた。
誰にも気づかれず、
誰にも疑われない形で。
――悪魔は、祈りの影に潜む。
一方、その頃。
「……来ます」
保守局の監視盤を見て、
リーネが言った。
「神殿管轄区で、
急激な魔力濃度上昇」
「儀式だな」
俺は、即座に判断する。
「しかも、
正規の神術じゃない」
数値が、
危険域に踏み込んでいく。
「現地に勇者が向かっています!」
「最悪の組み合わせだ」
俺は、立ち上がった。
「出るぞ。
止める準備をしながら」
神殿地下。
祭壇の前で、
過激派司祭たちが詠唱を続けていた。
「顕現せよ、
神の力を――」
だが、応えたのは。
黒い裂け目。
空間が歪み、
異形の腕が這い出てくる。
「な……何だ、これは……?」
司祭の一人が、声を震わせる。
次の瞬間。
勇者が、斬り込んだ。
「邪悪発見!
一刀両断!」
剣閃。
だが、裂け目は消えない。
むしろ――
広がった。
「力をぶつけるな!」
俺の声が、空間に響く。
《管理者権限:干渉制限展開》
時間が、
わずかに引き延ばされる。
「これは悪魔召喚だ。
神術じゃない」
勇者が、歯を食いしばる。
「なら、倒せばいい!」
「違う」
俺は即答した。
「封じる」
裂け目の構造が、
完全に見えた。
祈りを媒介にした、
不安定な接続。
「詠唱を止めろ!」
リーネと技師たちが、
結界を展開。
勇者は、
悪魔の触手を斬り伏せる。
だが。
「……ああ、そうだ」
裂け目の奥から、
声が響いた。
「争え。
疑え。
世界を壊すのは、いつも信仰だ」
悪魔の笑い。
俺は、静かに指を動かす。
「接続遮断。
世界側から、切る」
裂け目が、
悲鳴のような音を立てて閉じた。
悪魔は、
完全に弾かれる。
沈黙。
床に崩れ落ちる司祭たち。
勇者が、剣を下ろす。
「……俺は」
彼は、呟く。
「守ろうとしただけなんだ」
「知ってる」
俺は、短く答えた。
「だが、
利用された」
神殿内部の対立は、
この夜、決定的になった。
信仰の名を騙る者と、
それを止められなかった者。
そして――
悪魔は、まだ笑っている。
世界のどこかで。




