表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放火  作者: 聞池 該


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/6

ほほほほほほほほほ!

 男は酒をちびりちびりと飲みながら、小太りの編集者からの電話を待っていた。23時を回ってもまだかかってこない──


「おいおい……。読んでないのか?」

 苛々して呟く。

「読んだなら必ずかかってくるはずだ……。それともまた……斜め読みしたんじゃないだろうな? それではあの原稿の価値がわからな──」


 スマートフォンの着信音が鳴った。


『クールー! キット、クルー!』


 有名な歌詞に少し似ているが、男が自作した着信メロディーである。大体あの曲の歌詞は『クールー』に聞こえるだろうがじつは『ウー、ウー……』なので、別物だ。


 興奮してスマートフォンを手に取ると、男はごくりと唾を呑み込む。そして、震える手でゆっくりと、電話を受けた。


 電話のむこうから、あの小太りの編集者の、のんびりとした声が聞こえた。


『あー……。“桐谷リョウジ”さん? 私、丸海マルウミ出版の──』


「はい! そうです」

 男がひきつった笑顔で話を急かす。

「原稿──、読んでいただけましたか?」


『読んだけどさぁ……つまんない。だめだね、全然だめだめ』


 あぁ……。

 また斜め読みで適当にあしらわれたかと思った。


「……わかりました。じゃあ、原稿を返してもらいに明日伺っても──」

『原稿は捨てちゃいました』

「ええっ!?」

『基本的に受け取った原稿はお返ししてないんですよ。もうシュレッダーにかけてしまいました。すみませんね。それじゃ──』


「なんてことを……!」


 一方的に電話は切られてしまった。

 男は頭を抱えながら、部屋中を歩き回った。


「あの原稿は……! バヌアツの村の酋長に、特別な呪いをかけてもらったものなんだぞ!」

 一人暮らしの部屋に、男の独り言が飛び散った。

「この世にひとつしかないものなのに……! なんてことをしてくれたんだ! あれは文章に呪いがこめられている──。あの文章を読んだ者は、自分の最愛のものを壊す白昼夢を見るんだ! 斜め読みしたってわからないだろ! 言葉と言葉の繋がりを読み解くことで呪いは発動するんだから!」


 最愛のものをその手にかけることは恐怖を産むだろう。

 しかし、誰しも愛情の裏には不満や憎しみを抱えているものだ。

 夢でそれを壊せるなら、心の裏側に抱える憎悪を昇華させ、表側の愛が補強される。

 呪いの力はあの原稿を読んだ者を恐怖させ、のちに陶酔させ、再び己の愛するものと向かい合った時、大いなるカタルシスを産むはずのものであった。


 しかし、その原稿は、失われてしまった。


「……呪いの力に頼ろうとした俺がバカだったのだ」

 男は無理やり自分に言い聞かせた。

「俺は天才だろ。自分の力だけでデビューを勝ち取るんだ」


 そして未練を断ち切るように、公募に出すための作品を書きはじめる。




 それから数日後──


 男はネットで気になる話を目にした。


丸海マルウミ出版の編集者が、桐谷きりたにリョウジというペンネームで発表した小説が、凄いらしい』

『なんでも読んだ者を白昼夢に誘い、恍惚とした世界に導く不思議な力があるらしいぞ』

『来月、単行本が出版されるらしい』


 男はすぐにスマートフォンを取り、電話をした。


『あぁ……。ハハハ……』

 電話の向こうの小太りの編集者の声は、オロオロと言った。

『気づいちゃいました? ハハハ……。はい、あの原稿、他の作家さんのホラーとまとめてアンソロジーにして、出版することになりました。あの作品をトップに収録します』


「なぜ嘘をついたんですか!」


『集客能力ですよ』

 編集者の声が一転、落ち着いたものとなり、皮肉な笑いを含んだ口調で説明する。

『無名の素人作家が書いたということにするより、僕が書いたことにしたほうがいいんです。僕は職業柄、色んな方面にコネクションがありますし、小説に関わるプロですから──』


「あれは俺が書いた小説だ!」


『えぇ……。不思議な力はありますが、文章は素人レベルです。だからプロの作家の先生の作品とするよりは、プロの編集者だけど小説家ではない僕の作品としたほうが……』


「書いたのは俺だと、きちんと発表しろ!」


『証拠……、ありますか?』

 電話の向こうで編集者がニヤリと笑ったように思えた。

『あぁ……。もしかしてこの電話の内容を録音してるんですか? 無駄ですよ。今どきこんな会話、テクノロジーでいくらでも捏造できますからね』


 録音はしていなかった。

 男は畜生と歯噛みする。


『契約しましょう』

 編集者が、言った。

『印税の6割を払います。それでどうです? 足りないなら7割でも──』


 男は叩きつけるように電話を切った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ツッコミどころはいろいろあるけど、 呪いがかかった危険な原稿を出版したらアカンやろ!
ちょい待てやっ! え、っと、これってあの事件っぽくならない、ひょっとして? あれは完全に言い掛かりだったけど。
 出た! 社会的信用度による事実の上書きという暴力!  多分いつの時代でもこれが二番目に強力な力。  なお、もちろん一番なのは直接的暴力ですけどね。(これを認めるのはコンプライアンスに違反するのかな?…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ