表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/50

第6話 命より大切な村③

「魔王だ! みんな起きろ! 逃げろ!」


 俺は急いでみんなを呼びに行った。



 夜が明けたばかりだが、歳のせいかみんな起きるのが早いので、すぐに俺の声に反応してくれた。



「本当か!?」

「どこだ!?」


「道の向こうにいる!! こっちへ向かってるんだ!!」


 集まった村人たちの顔が強張る。


「どうする? 洞窟へ逃げるか?」

「そうだな。それしかない」

「急ごう! まず動けない人を運ぶぞ!」



 みんなが手分けして準備に取り掛かる。

 だがここにいるのは年寄りばかりだ。急ぐのにも限界がある。

 今から避難して、間に合うか?



 俺は再び道を見に行く。

 影は確実に村に近づいていた。


「くそっ……」


 みんなの避難はまだ終わっていない。

 俺が、足止めできれば。



「ロジ! そんなところで何してるんだい! 早くこっち来な!」


 母さんが後ろから声をかけてきた。


「俺が足止めするから、その間に避難してくれ!」


「何言ってんだい! あんたこそ逃げるんだよ! あたしたちは速く走れないけど、あんた一人なら遠くまで逃げられる」


「嫌だ。俺はここを守る」


「あんたが逃げられれば、他の街に魔王が来てることを知らせられる! みんなを救える!」


「よその場所なんてどーでもいいんだよ。俺はこの村のみんながいないなら、国だろうが世界だろうが、どうなってもいいんだ」



「さすがローさん。良いこと言うね」



 振り向くとリレットがいた。

 寝起きなのだろう。髪の毛はボサボサで、アホ毛が十本くらい立っていた。


 母さんから借りた寝巻き姿でまだ眠たそうにしているが、花飾りやペンダント、剣はしっかりと持っていた。


「おまえも逃げろ! 母さんを連れて行ってくれ!」


「ふぁああー、なんで?」


「なんでって、魔王がこっちに来てるんだよ! わかんねえのか!?」


 俺はリレットの目が見えないことを忘れ、のんきにあくびをする少女に怒鳴っていた。


「それはわかってるけど、逃げる必要はないよ? わたしのほうが強いんだから」


「そうかもしれねえが、けどおまえその魔法使うつもりないんだろ!? 逃げねえと攻撃されるんだよ!!」


「されないよ。昨日もされなかったでしょ?」


「なんで今回も大丈夫って言い切れるんだよ!」


「なんでと言われても、大丈夫なものは大丈夫なの」


 そう言うと、リレットは俺の前に立った。



 魔王が、村に着いてしまった。


 俺だけでなく、誰一人としてその場から動けなくなった。

 物音一つたてると殺されるんじゃないかと思うほどの緊迫感。


 リレットと魔王は少しの間、無言で対峙していた。


「オマエ、オレに何をした」


「あなたには何も」


「ウソをつくな。何かしたはずだ」


「へえー。何かあったの?」


「……」


 リレットは意地悪そうにニヤリと笑った。


「あなたが今何もできないのは、単純にあなたが弱いせいだよ」


「なんだと?」




「あの子、殺されちまうよ!」


「いや、どう、なんだろ……」


「どうなんだろうって、そんな呑気に!」


 母さんの声は、はじめて魔王を見たときの自分と同じように震えていたが、俺はというと意外と落ち着いていた。



「助けないと!」

「でもなんか、魔王が全然攻撃してこないよな」

「おい! リレットちゃんはいったい何者なんだ」


 村人たちは顔面蒼白で、パニックになっていた。


「なんか、魔王より強い、らしい……」


 俺の言葉にみんな一瞬かたまった。


「そんなバカな!」


 そうだよな。

 そんなバカな話があるわけがない。

 だが、今こうしていられるのは、間違いなくあいつのおかげなのだ。


「本当に、魔王より強いのか? だから魔王は攻撃してこないのか?」


「たぶん、そうだと思う」


「本当なら、すごいじゃないか!」


「そう、だよな」


 みんなの顔に少しばかり生気が戻った。

 不安と期待が入り交じった目で、リレットを見ていた。



 結局、魔王はリレットに攻撃することも、村人に攻撃することもしなかった。

 またしても魔王はその場に突っ立って、銅像のように動かなかった。



「ねえ、この縄であの人の手を縛ってくれる?」


 リレットが荷物袋から縄を取り出した。


「ええ!? 俺が!?」


「そだよ」


「殺されるだろ!?」


「殺されないよ。単純な腕力でいえば、ローさんのほうが強いから、安心して」


「ムリムリムリムリムリムリ」


 俺は首を振りまくる。


「意気地なしだなあ」


 リレットはやれやれとため息をつくと、魔王に近づいた。

 リレットが何やら魔王に言うと、魔王はマントからゆっくりと両腕をだした。


「はい。これで大丈夫」


 リレットは手際よく縄を魔王に巻きつけた。

 魔王は抵抗する素振りを見せず、されるがままだった。

 その光景は、あまりにも異様だった。



「おまえ、いったい何者なんだ?」


「ただの女の子だよ。故郷をなくして、目が見えなくて、行方不明のお姉ちゃんを探してて、魔王より強くて、なんなら世界だって滅ぼせる、ただの女の子」



 それのどこが『ただの女の子』なんだよ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ