第48話 最強の魔法使い⑤
旅?
目をパチパチとさせ、元魔王をまじまじと見る。いたって真剣なまなざしだ。どうやら冗談ではないらしい。まあ、こいつはそんな冗談を言うやつじゃないか。
「旅にって……。なんでいきなりそんな話に。つーか、それは質問の答えと関係ねえじゃねえか」
「いきなり攻撃したことは、悪かった。オレの実力を知ってもらいたかったんだ」
元魔王が、謝っただと!?
「今の攻撃が、今のオレの実力だ。おまえから見てどうだ? オレは強いと思うか?」
元魔王が謝ったことに動揺して話が入ってこない。
「あ、悪い。もっかい言ってくれ」
「オレは、強いと思うか?」
魔王は嫌な顔一つせず、もう一度言ってくれた。
強いかどうか、か。
俺は腕を組み、うーんと唸る。
「強いか強くないかで言ったら、強いと思う。昔何人かの影と対峙したことがあるが、少なくともそいつらよりは強い。だから、一般的な強さの指数だと、結構強い部類に入るんじゃないか? なんとなくだが」
影は高い魔法の技術を持つ者の集まりだとアイガーが言っていた。あいつらより上なのは間違いないと思う。
「そうか。レーネも、同じようなことを言っていた。昔のオレは、言霊のおかげで想像すればどんな魔法でも使えた。だからこそ魔法の知識や使い方なんてものは一切知らなかったんだ。魔法の天才ではないが、努力次第では上を目指せる素質はあるとレーネが言ってくれたおかげで、オレはイチから魔法を練習し始めた」
この数年でここまでの実力をつけるには、そうとうの鍛錬が必要なはずだ。
「オレは自分の目で世界を見たい。それにはそれ相応の力がなければならない。だから修行をしたのだが、世界にはオレより強いやつは大勢いた。少し見て回っただけだが、それを痛感した。そしてなによりオレに足りないものがあった。知識だ」
「知識? 魔法のじゃなくて?」
「オレには魔法以外の知識がない。人生のほとんどを一人で過ごし、殺すこと以外を知ってこなかった。ここ数年学んだことといえば、魔法の使い方と、バカに見えない話し方と、謝罪の仕方くらいだ。嫌と言うほどたたき込まれた」
元魔王は遠い目をする。
こいつを見ていると、レーネは相当厳しく接したんだろうなと思う。
魔法の技術だけでなく、もっと基本的なところから指導したに違いない。
優しい笑みを浮かべながら、「あと素振り千回ね」とか言いそうだ。反論しようもんなら、ぐうの音も出ないほどにコテンパンにされそうだ。
「世界を見て回るには、オレはあまりにも知らなすぎる。何が分からないのかも分からないまま無駄に時間を過ごすより、気がついたり指摘してくれたりする人間と行動をともにしたほうがいいのではないかと思った」
それが、俺だっていうのか。
赤い瞳がまっすぐ俺を見ている。こいつが真剣なのはわかる。
だが……。
「俺の力は、条件が整って初めて発動する。俺のことを知っている人がいる場所ならまだしも、そうじゃないところに行くこともあるだろう。おまえとの二人旅じゃ、俺は最強から役立たずに戻る。足手まといになるだけだ」
言霊の魔法がなければ、俺は何もできない。こいつにとってはお荷物だろう。
「そこは心配するな。オレがいる。オレの力はさっき示したとおりだ。この程度の強さでは不安だと思うなら、断ってくれて構わない。だが、共に行ってくれるというのなら、オレがおまえを守ると約束する」
「お、おまえっ。よくそんな恥ずかしことを恥ずかしげもなく……」
元魔王は「なにがだ?」と首をかしげる。
さっき街にいた女性たちが聞いたら、悲鳴をあげてぶっ倒れるんじゃないだろうか。
「これは強制ではない。オレのやりたいことに付き合わせてしまうことになる。すぐに答えがほしいわけじゃない。もし、おまえにも何かやりたいことができて旅をしたくなったら、そのときでも構わない」
やりたいこと……。
そういえば昔、リレットに聞かれたな。
あのときは、何て答えたっけ。
「オレはとりあえずレーネの家を片付ける。他にも何か手伝うことがあれば言ってくれ」
「おっ、おまえがそんなことを言うなんて」
思わずたじろいだ。今日は何度こいつに驚かされていることか。
「これはおまえを真似てるんだ」
「俺?」
元魔王は少し呆れたように息を吐く。
「おまえは本当に自分のことを語らないな。無自覚だからなのか? オマエは自分のことを低く評価しすぎだ。レーネも言っていたぞ」
そういえば、レーネにもなんか言われたな。
自分のことは何一つ話そうとはしない、と。
「昔旅をしていたころ、オレはおまえの行動が理解できなかった。立ち寄った村で毎度パンや果物をもらった。『お礼にくれた』だとリレットやダートは言っていたが、何の礼なのかわからなかった。
ダートに聞いたら、おまえのおかげだと言った。オレは知らなかったのだが、おまえは立ち寄った場所で必ず人助けをしていたそうだな。世話になった人や、困っていそうな人に声をかけ、力をかしていた。夜中もだ。
そんな素振りは全く見せていなかっただろう? むしろ普段のおまえはめんどくさそうな顔をして、余計なことには首をつっこみたくない、といった具合だった」
まあ、自慢することでもなんでもないからな。
「自分のしたことを誰に言うわけでもなく、ひけらかすこともせず、厚かましく感謝を求めるわけでもない。見返りを一切求めず、ただひたすら、誰かのために何かをしていた。おまえにとってそれは、当たり前の行動だったんだ」
これは褒められているのか?
なんか胸のあたりがモゾモゾしてきた。
「ロジ。おまえはさっき、自分が役立たずに戻ると言ったが、今も昔もおまえは役立たずではない。できることを精一杯している。それは魔法が使える使えないに関わらず、なによりも大切なことのはずだ。だからオレはおまえを誘っているんだ。オレにないものをたくさん持っているオマエと一緒なら、得られるものがあると思っている」




