第47話 最強の魔法使い④
衝撃が胸を貫いた。俺の大声に、村人たちがこちらを見る。
レーネが殺した? 全員を?
「レーネの目的は復讐だった。一族を殺したやつらを根絶やしにすること。それが望みであり、願いだった」
自分の顔がどんどんこわばっていくのがわかった。
「レーネはずっとその機会を伺っていたのだが、誰が影なのかがわからなかったらしい。まあ、あいつらはみんな同じ格好だし、普段は散らばっているから仕方のないことだが。
そこで、首飾りを魔道具へと進化させる作戦の中で、影をあぶり出せないかと考えたんだ。
ロジ。おまえがリレットを撃ったとき、周りには影がいただろう?」
「あ、ああ。確か全員揃っていたと思うが」
やつらは俺とリレットを遠目から見ていた。俺がリレットに殺されたあと、全員でリレットを殺す予定だったはずだ。
まさか、それもリレットとレーネの計画の内だったっていうのか?
「レーネは影をおびき寄せるために、リレットとおまえを利用したんだ。そのとき、レーネも離れた場所からおまえたちと影を見ていたそうだ。そして、影たちに魔法で印をつけ、後を追えるようにしたんだ」
五年前、リレットが死んだ日、レーネはやることがあると言っていた。
「一人ずつ、およそ二年かけて、全員を殺していった。オレはずっと影に監視されながら生きていたんだが、一年がたったくらいから、影たちの様子がおかしくなっていったんだ。何かにおびえるようになり、オレの監視役も次第に減っていった。
数日間誰も来なくなって、何かあったのかと思っていたとき、突然レーネがオレのもとやって来た。『あなたはもう自由です』と伝えにきてくれたんだ」
違和感があったのを思い出した。
計画のことは『私たちの計画』といい、魔道具を作りたいという願いは『リレットの願い』だと言った。まるで、自分の願いではないかのような言い方だった。
恨まずにいられるわけがない。
復讐をしたいとは思わないのかと聞いたとき、レーネは何も言わず、困ったように、とても悲しそうに笑うだけだった。
俺はてっきり、耐える道を選んだのだと思っていた。いったいどうすればその怒りを抑えながら生きていけるのかと不思議に感じながらも、俺が口を出すことではないからと、それ以降聞くことをしなかった。
だが、そうではなかった。
彼女は、きちんと恨んでいたのだ。
「レーネは熟練の魔法使いだった。オレたちが初めて会った日のことを覚えているか? リレットとオマエがいきなり屋敷に訪ねて来た日だ。あの時、オマエたちがすんなり屋敷に入れたのは、手下の影がいなかったからだ。影たちは、すでに殺されていたのだ。レーネが先回りして、影たちを殺したらしい」
そうだったのか。
いろいろと腑に落ちてきた。
他の人間たちは魔王を死なせるために命を捧げたが、レーネは復讐のために生きることを選んだ。
だが復讐はレーネだけの願いじゃなかったと思う。先に死んだ仲間も、影たちに憎しみを抱いていたはずだ。その仲間の憎悪を一手に引き受け、レーネは一人戦った。
いったいどんな想いで生きていたんだろう。
「オレはここを片付けにきたんだ」
「片付け?」
「レーネ、はもうもどらない」
俺はハッとした。
「まさか…」
元魔王は視線を落とす。
「今、生きているか死んできるのか、オレは知らない。だが最後に会った時、もう長くはないと言っていた。故郷があった場所に戻り、ゆっくりと過ごしたいと。『もういつ死んでもいい』が、レーネの口癖だった。リレットが死んで、本当に一人になったんだ。オレが一人前になったことき、ホッとしたような顔をしてどこかへ行った。『ようやく死ねる』と笑いながら」
レーネは、満足しただろうか。
少しでも心が軽くなっていてくれたらいいのにと、願わずにはいられなかった。
最後に言葉をかわしたのはいつだったか。レーネが出かけようとしていたので、いつものように「気を付けて」と声をかけたのは覚えている。
「いってきます」と優しく微笑むレーネの姿を思い出すと、何かがこみ上げてきて胸が熱くなった。
「ゆっくり、休めてるといいな」
「ああ」
レーネの家の前にある花たちは、枯れることなく咲き続けている。帰ってこない主人の帰りを、今でも待ち続けていた。
「そういえば、片付けのためだけにここに来たのか?」
元魔王の背中に問いかけるも、反応がない。
どうしたんだと声をかけようとしたとき、前から一発の砲撃が飛んできた。
俺は小さなシールドを張り攻撃を防いだが、攻撃はそれだけでは終わらなかった。
あいつはくるっと俺のほうを向くと、自身の周りに複数の魔法の弾丸を作り出した。赤く光るそれは、俺めがけて一斉に発射された。
俺はシールドの範囲を広げ、またしても攻撃を防ぐ。なかなか力強い攻撃だ。
いきなり始まった戦闘に、村人がどうしたんだとこちらを気にしている。
「大丈夫だ。軽く手合わせしてるだけだから、気にしないでくれ」
俺は村人にそう伝え、手をふる。
村人はそうかそうかと各々の作業を再開した。数人の子供たちは戦いが気になるようで、ワクワクしたような目でこちらを見ていた。
「軽く手合わせ、か」
元魔王はそう呟くと、今度は右手に魔法で作った剣を出現させた。
赤い剣先を俺に向けると、地面を蹴って突っ込んできた。
俺のシールドにガンガンと剣が振り下ろされるが、シールドにはヒビ一つ入らない。
埒が明かないと判断した元魔王は、少し後退し距離をとった。
剣を空へとかかげると、先端から真っ赤な炎が噴き出した。炎は巨大な火の塊となり、あたりの気温がぐっと上がった。
「おいおい、それはやり過ぎじゃねえか?」
困惑する俺をよそに、子供たちは大興奮だった。規模の大きな魔法に、大人もこちらにくぎ付けになっていた。
「すげえ! ここまで熱いのがくる!」
「家くらいでかい炎だ!」
「当たったらどうなるのかなあ」
子供たちは呑気なもんだ。当たったら灰すら残らねえと思うぞ。
元魔王は攻撃をやめるつもりはないらしく、炎の威力は増すばかりだった。
これをぶつけられたんじゃ、周りにも被害が及ぶな。
「やれやれ」
俺は右手を炎のほうへと向け、魔力を込めた。
元魔王は俺の魔力を感じとったのか、ゆっくりと頭上をみあげ、そして目を見開いた。
さすがの元魔王も驚きを隠せないようだった。
なんせ、巨大な炎の上に、さらに巨大な水の塊が浮かんでいるのだから。
「すげえ! やっぱりすげえ!」
「うおーー!! シールド以外の魔法使ってることろ、久しぶりに見た! かっこよすぎる」
「さすがですね。我々の英雄は」
「ああ。どんな相手だろうと、彼より強い者はいないのさ」
子供だけでなく、大人たちも興奮していた。そしてどこか自慢げだった。
確かにシールド魔法以外を使うのは久しぶりだった。俺は基本的には防御しかしないことにしている。
俺は戦いたいわけじゃない。守りたいだけだから。
「おまえが攻撃をやめないなら、俺も手加減しない。ただ、この量の水を落とすともれなくあいつらまでビショビショになっちまうから、できればこの辺でやめにしたいんだが」
元魔王はじっとそこちらを見る。
そして観念したというように、ため息をついた。
「強いな。想像の遥か上をいく。まさに『最強』だ。手を抜いた状態でこれほどの水を作り出せる人間など、ほとんどいないだろう」
そうなのか? 普通がわからねえんだが
全力でないことを見抜いている時点で、元魔王はなかなかの手練れなのではないだろうか。
これまでそれを指摘されたことはなかった。
いや、そういえば、レーネは気がついていたっけな。
元魔王が剣をおろすと、炎はパッと消えた。
俺も水の塊を消すと、
「えーっ! もっと見たかったのに」
「せっかくいいところだったのになあ」
と、子供たちが一斉に残念がった。
「なんでこんなことをした?」
元魔王は視線を落とし、何かを決心したかのように顔をあげた。
「ロジ。一緒に旅に出ないか?」




