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第46話 最強の魔法使い③

「手紙?」


「ダートは死ぬことがわかっていたから、オレ宛に手紙を書いていたんだ。レーネが持っていた。ダートがいつ渡したのかは知らないが、リレット経由で渡してもらったんだろう」


 相変わらず、用意周到だな。レーネがふふっと笑っている顔が思い出された。


「ダートは子供のころからオレの側にいたらしい。もちろん影としてだが。ダートは言霊の魔法の使い手として、昔から偽の魔王計画に参加していたんだそうだ。そのときにオレと自分が同じ歳だと知って、ずっと気にかけてくれていたと」


 ブレイズも言っていた。

 ダートは自分と同じ歳の魔王のことを昔から気にかけていて、計画にもずっと疑問を抱いていたと。


「段々と魔王計画に否定的になったダートは、オレの側からはずされ、少し離れた場所でオレのことを見守っていたんだ」


 それでダートはあの街にいたのか。


「手紙は何枚にも及んでいた。『あのとき僕は隣にいたんですよ』『あのご飯を運んでいたの、僕だったんですよ』。オレとの接点を事細かに書き記していた。

 オレはずっと一人だった。それをさみしいと思うことはなかった。一人だったことしかないオレにとって、さみしいという感情は知らない感情だったからだ。

 だが、ダートがずっと側にいてくれたのだと知り、もうどこにもダートはいないのだとわかって初めて、さみしいと感じた」


 元魔王の言葉に熱がこもる。


「ダートはオレと友達になりたかったらしい。ダートがオレのために命をかけたのは、もちろん罪滅ぼしの意味もあったと思うが、それだけじゃないとわかった。

 だからオレは、『オレなんかのために』と思うことをやめた。命をかけてもらったことに報いるために、前を向こうと決めた」



 元魔王とダート。

 二人が普通に出会っていれば、良き友になっていたはずだ。

 こいつの本来の性格は、やんちゃで騒がしくて好奇心旺盛、少し頭が悪い。

 ダートは聡明だが、臆病で消極的。


 元魔王はダートの手を引き、いろんな場所に連れ回すんだ。ダートはオロオロしながらも、内心嬉しくて。元魔王が弾けたように笑うと、ダートはきっとつられて笑ってしまうだろう。


 こんなにも簡単に想像できてしまうのに、そんな世界はどこにもないんだ。



「これはおまえがやったのか?」


 まもなく村に着くというとき、元魔王は岩壁を指差した。岩壁の上が抉れている。

 それは五年前、影と戦ったときに俺が放った攻撃の跡だった。


「ああ。昔、影とやりやったときのやつだ」


「なかなかの攻撃だな」


「そうか? 自分じゃよくわからねえけどな」


 今じゃここは名所みたいになっている。灰の街の人はよそから来た人を必ずここに案内しては、俺のこと言いふらしている。良いんだか悪いんだか。


「オレはレーネに魔法を教わりながら過ごしたんだ。おかげでかなり強くなったし、魔法のことも詳しくなった。今は転送魔法を使ってあちこち見て回ってる。自分がこれまで何をしてきたのか、それを確認するために」


 レーネはやはりかなり強い魔法使いのようだ。アイガーの攻撃を軽々防げたのも納得だな。


 俺の村に到着すると、

「レーネの家はどこだ?」と元魔王が言うので、村の奥へと向かった。


 村のみんなは珍しい赤い客人をちらっと見るも、声をかけてくることはせず、各々畑仕事などをしていた。



「実はな」


 魔王はそう言うと再び手首の縄を俺に見せてきた。


「実はこの縄、他者からの攻撃は防ぐんだが、自分で自分を傷つける分には働かないんだ」


 俺が目を見開くと、元魔王は頷いた。



「つまり、オレは死のうと思えば死ねるんだ」



 その言葉の意味を飲み込むのに、少し時間がかかった。そして、こいつが今から何を言おうとしているのかを、聞きたくないと思っている自分がいた。



「オレは多くの人間を殺した。それをなかったことにはできないし、今後オレが何をしたって、何にもならないとわかっている。だから、それなら死んだほうがいいんじゃないかと考えたときもあったし、今もまだ考えている途中だ。

 旅をして、もう少し世界を見て、結論をだそうと思っている。ダートの縄の魔法の効力がいつ切れるのかはまだわからないが、もしそれが切れれば、誰かがオレを殺すことも可能になる。オレを恨んでいる者にそれをしてもらうか、もしくは自分で終わらせるか」


「生き続けるっていう選択肢もあるだろう?」


「それを願うのは、許されないことだ」


「誰が許さないんだ?」


「オレが殺した者たちが」



 俺は何も言わなかった。

 どうするのがよいのかなんて、答えられるわけがない。


 死んだ人間のことなんて気にするな、おまえは洗脳されていたんだからおまえのせいじゃない、なんて言えない。

 俺がもしこいつに家族を殺されていたら、この手で絶望のどん底に落としてやりたいと思うだろう。


 その場しのぎの励ましなど無意味だ。そんな言葉で笑って前を向けるなら、こいつはこんなふうにはなっていないだろう。



 ダートとリレットには、こいつがいつか死にたくなる日がくる、という予感があったのかもしれない。


 死ぬことでしか解決できないのなら、その手段を残しておこうと思ったにちがいない。

 それは明らかに二人の優しさだ。

 本当に辛いのは、死にたくても死ねないことだと思うから。


 その時どうするのか、決めるのはこいつだ。



「ここがレーネの家か?」


 村の奥にある小さな家についた。


「そうだ。たまに帰ってくるくらいで、いないことのほうが多い。おまえの話を聞いて、理由がわかったよ。そういや、さっき聞きそびれたんだが、レーネはどうしておまえを訪ねたんだ? 何か用事があったのか?」


「オレに用があったわけではない。オレに会いに来たのはついでだろう」


「ついで? なんの?」


 元魔王は少し間をおいて口を開いた。


「ロジ。最近この村に影が来ることはあったか?」


「影? いや、ここ二、三年はまったく。最初の一年と少しくらいは、俺のことを見に来てたよ。魔法を使える状態のときは、あいつらが来たら感知できるようになっていたんだが、最近は音沙汰はないなあ」


 俺にとっては好都合だ。

 もう俺があのことを誰にも話さないと確信を持ってくれたのかもしれない。


「あいつらは、全滅した」


「……全滅!?」


「レーネが全員殺した」


「なっ!?」

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