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第43話 いつかうまれてくるあなたのために⑤

 にわかには信じられない話だった。

 そんなことが可能なのか?


「それが完成するのに、三百年あれば足りるか?」


「わかりません。我々はどうしたってそれを確認することはできませんから。それがどうなったのかは、未来の魔王のみぞ知る、といったところですね」


 俺たちの誰も、そのときには生きていない。誰も確かめることはできない。


「我々ができることは、『信じること』だけですよ。言霊の魔法があってもなくても、我々は信じて託すのです。きっといつか、それが届くように」


 それでも、レーネの意思は固く、瞳には力強い光が宿っていた。きっとリレットも、リレットの故郷の人々も、同じ気持ちを抱いてこの世を去っていったのだろう。



「ちなみに、あなたに掛けられた言霊の魔法ですが、解除する方法があります」


 レーネは俺が背負っている剣に視線を移す。


 剣に何かあるのか?

 リレットが今日は抜かないでと言っていたが、真意までは聞くことができなかった。


「この剣がなんなんだ?」


「その剣を鞘から抜けば、あなたの言霊の魔法は消滅します。万が一、あなたがその力を重荷に感じたとき、解除できるようにと、リレットが考えたんです」


 解除? そんなことができるのか。


「俺にしか抜けないのか?」


「ええ。今抜きますか?」


「いやいや、あいつが命をかけてまでしてくれたんだ。抜いたらそれを無駄にしちまう」


 俺は慌てて首を振る。


「リレットは気にしませんよ。だからこそ、解除方法を設定したのですから」


「どうして、わざわざそんなことをしたんだ?」


「あなたはこれから、力持つ者となります。限られた条件下ではありますが。それはときには誇らしく、ときにはとても辛いものになるはずです。こんな力、なければよかったのにと、思うときが来るかもしれません」


 レーネはどこか辛そうだ。

 彼女にも、そういう経験があるのだろうか。


「ですがこれらはすべてリレットが勝手にしたことです。あなたはそれに感謝する必要も、責任を感じる必要もありません。力を使わないという選択肢があって当然です。そのために解除方法を考えたのです」


 リレットは、俺が怖気づいてこの力を放棄するかもしれないと思っていたのだろうか。それを背負う勇気も度胸もない人間に見えていたんだろうか。


 昔出会ったときは、あいつの目には、俺はきっと英雄みたいにうつっていたんだろう。それが年月が経ってこんなどうしようもない男になっていたんだ。さぞ幻滅しただろうな。



「なあ、一つお願いがあるんだが」


「なんでしょう?」


「灰の人たちにさ、伝えてほしいんだ。あの街に引っ越すのはどうかって」


 俺は滅びた街を指さす。

 灰の人たちは引っ越し先を探していた。


「魔王にぐしゃぐしゃにされた街になんか住みたくねえかもしれねえが、俺も片付けとか協力するからさ。嫌ならいいんだ。聞くだけ聞いてみてくれ」


 勝手にこんなこと提案していいものなのかはわからない。かつてあの街に住んでいた人が聞いたら、嫌だと言うかもしれない。

 それでも、そうするのがいいと思ったんだ。


「それは、彼らにとってもとても心強いことですね。喜んで引っ越してきますよ」


「心強い? なんでだ?」


「彼らはすでにあなたのことを『とても強い魔法使い』だと認識しているからです」


「えっ? いや、あいつらを助けたのはリレットだぞ?」


「『彼はリレットの師匠です。彼はリレットより強いんですよ』と、私が言いふらしておきましたから」


 レーネは口元に手を当てて笑う。


「なっ!? なんで!?」


「先ほども言いましたが、リレットは言霊を赤の国全土で発動できるようにしました。あなたが力を発揮できる範囲が少しでも広いほうがいいからと、そうしたのです。ちなみに、一番最初に訪れた街でも言霊を使えますよ。リレットがこそっと言いふらしていますか」


 こそっと言いふらすってどんなだよ。


「『最強の魔法使い』が近くにいる。これほど心強いことはありません」


「なんで、そんなことしたんだ。まだ俺がこの力を使うかどうかわからないのに。あいつも、最初は俺に期待していたかもしれないが、最後にはきっと……」


 情けなくて声がどんどん小さくなっていく。


「リレットは言っていました。『あの人は、やっぱりわたしの光だった』と」


 どこをどう見てそう思えたんだ。


「俺は本当にクソみたいなやつだ。それを痛感したばっかりだよ」


 うなだれる俺を見てもなお、レーネは「そんなことはありません」と言ってくれる。


「あなたは、ご自分のことは何一つ話そうとはしないのですね。ご自身がこれまでしてきたことは、他人から見ればとても素晴らしい行いですよ。だからこそリレットは信じ、託したのです」 


 俺がしてきたこと?

 俺は別に、何もしていないが。



「あんたはこれからどうするんだ?」


「私にはまだやることがありますから」


 やること?

 レーネの表情に少し影が見えた気がして、不安が襲ってきた。


「なんか、手伝えることあるか?」


 まさか、死ぬつもりじゃないよな?


「あなたは、本当に優しいですね。ですが、大丈夫です。一人でできますから」


「あんたも引っ越してくるだろ? 家はどこにする? この村でもよければ、空き家かある。使ってくれていい。村のみんなのことは大丈夫だ。事情を話せば、受け入れてくれる」


 俺はなんとかレーネを引き留めようと、村にくることを提案した。でないと、このまますぐに消えてしまいそうに、儚げに見えたから。


「ありがとうございます。お言葉に甘えて、使わせていただきます。少し外にでることが多くなると思いますが」



 レーネが言ったとおり、灰の人たちはすぐに引っ越しをしてきた。 


 俺の村のみんなはレーネのことや灰の人を見ても嫌な顔一つせず、むしろこのあたりが賑わいを取り戻すことをとても喜んでいた。

 みんなで協力して、街を立て直していった。


 彼らが俺のことを最強だと思っているのは本当のようで、

「あなたはとても強いんでしょう?」

「あの女の子の師匠なんだってな!」

 と言ってくるたんびに胸の奥が熱くなって、ああ、魔法が使えるんだ、とわかった。


 レーネは家をあけることが多かったが、度々戻ってきていた。

 だが、ここ最近はかなり長く姿をみていない。無事だといいのだが。



 そんなこんなで月日はあっという間に流れ五年がたったある日、ある人物が現れた。



「久しぶりだな。ロジ」



 そこにいたのは、かつて偽者の魔王として生き、あのとき死んだはずの元魔王だった。

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