第39話 いつかうまれてくるあなたのために
風が吹き、レーネの髪が揺れる。
リレットと同じ深く暗い色は、朝日に照らされてツヤツヤと輝いて見えた。
以前会ったときと同じ無地の薄黄色のワンピースを着ていて、茶色の杖を持っている。
レーネは穏やかな笑みを浮かべながら俺を見たが、その表情がどこか悲しげに見えて、罪悪感が押し寄せてきた。
「すまない。俺は」
「待ってください」
頭を下げようとした俺を、レーネは制した。
「謝らなければならないのは、こちらです」
そう言って、レーネが頭を下げた。
「申し訳ございませんでした」
「なんで……、あんたが謝るんだよ」
胸が締め付けられる。
まだ事情を話していないのに、レーネは何が起こったのかを知っているように見えた。
「ご迷惑をおかけしたからです」
「迷惑なんてかけられてない。少なくとも、あんたには何もされない」
「いいえ、私とリレットの計画に、あなたを巻き込みました」
レーネは『私とリレットの計画』と言った。
「あんたは、リレットの家族だよな?」
「はい。一緒に暮らしていました。故郷が滅んだ後も、ともに行動していました」
「ってことはまさか、あいつも灰の村に住んでいたことがあるのか?」
「はい。ですがリレットがいたことを知っている人はごくわずかです。私たちの計画を伝えたところ、この見た目にもかかわらず村に招き入れてくださったのです」
レーネの話によると、結界が張られていた村に俺たちがすんなり入れたのは、あらかじめ村の人に伝えていたからだという。
だが灰の人は度々村を襲撃されてかなり警戒心が強かった。それなのに、知りもしない俺たちを招き入れることを許可するだろうか。
「何事もなく入れたのは、計画に必要な人たちだと説明したからです」
レーネはまたしても『計画』という言葉を使った。
ドゥール教の隠れ家に行くことができたのも、リレットが行ったことがある場所であり、かつ彼らと親交があったおかげなのだそうだ。
話をしてくれた男性はリレットのことを知っているようには見えなかったが、そう振る舞ってほしいとお願いしていたのだそうだ。
レーネの言うことが本当なら、これまでの旅はあらかじめ『計画されていた旅』だったということだ。行く場所も、集められた人間も、あらかじめ決められていたんだ。
頭のなかは聞きたいことで溢れていた。次々と言葉が押し寄せてくる。欲しかった答えは、レーネがすべて持っているという確信があった。真実が、すぐそこにある。
急ぐ気持ちを落ち着かせ、レーネに尋ねる。
「教えてほしい。いったい何があったのか。何が起こっているのか。わざわざ姉を探していると嘘をついてまで、旅をした理由は何なのか。リレットの姉は、もう……死んでいるんだろ?」
それを言うのを少し躊躇った。リレットの姉ということは、レーネにとっても家族ということだ。
「ええ。死んでいます。姉を探していると言っていたのは、旅をするための口実です。女の子が一人で旅をしていれば怪しまれますから」
レーネは変わらず優しい口調だった。丁寧に俺の質問に答えてくれている。
魔王がいるこのご時世に一人旅なんて、変に思われるのは当然だ。一見ただの女の子にしか見えないんだから。
「あいつの、リレットの願いはなんだったんだ?」
ずっと知りたかった。
あいつには目的があった。そのために自身のすべてをかけているようだった。
リレットに聞いてもはぐらかされるばかりだったが、ようやく答えがわかる。
全身の神経を研ぎ澄ませ、レーネの言葉を待った。
「はい。それをお伝えするために、参りました。少し長くなりますが、お付き合いください」
「あー、なら、家に来るか?」
こんな道の途中で杖を持ったまま立ち話もなんだろうと思ったが、レーネは首を振る。
「ご家族の皆様を混乱させるわけにはいきませんから」
俺の家族ならきっと気にしないと言おうと思ったが、誰かに聞かれるとマズイ話なのかもしれない。俺たちはこのまま話を続けた。
「まず、リレットの願いがなんだったのかということについてですが」
緊張で周りの音がすべて消えた。息をとめ、レーネの言葉を待つ。
「リレットの願いは、首飾りです」
……首飾り?
レーネの言葉が予想外のものだったので、思考が数秒間止まってしまった。
レーネは俺の困惑を感じ取ったのか、続きを話すのを待ってくれていた。
首飾りって、あれのことだでいいんだよな?
「あいつがずっとつけてた、絵が入ったペンダントのことか?」
「そうです」
「あれはいま赤の国に保管されてるんだ。偽魔王の力を封印した首飾りとして」
「はい。それこそが、リレットの願いなんです」
ここまで言われてもピンとこなかった。どういう意味なんだと困惑した目でレーネを見た。
「『魔王の力を封印できる首飾り』を作ること。それが、リレットの願いだったんです」




