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第38話 夜の空へ③

 俺は目の前のシールドを凝視する。


 これは、俺がやったのか?

 後ろを振り返るも、母さんとじじいたちがビックリしてるだけで、誰かが何かをしてくれた様子はない。


 じゃあ、本当に俺が?


 アイガーたちが一瞬ひるんだ。

 間違いなく動揺している。まさか防がれるとは思ってもみなかったのだろう。


 アイガーは再び砲撃してきた。先ほどより威力もスピードもある攻撃だったが、シールドはそれをやすやすと受け止めた。


「くそっ!」


 アイガーは苛立ちながら、三度目の砲撃を放った。より強い砲撃だったが、はやりシールドは破れなかった。


「三人で攻撃するぞ!」


「でもおまえの砲撃が防がれた」


「オレたちがやっても無理なんじゃ」


「うるさい! さっさとしろ!」


 アイガーのこんなにも取り乱した声を聞くのは初めてだった。仲間たちも平静を装うのが限界のようだ。

 アイガーは影のなかではおそらくかなり強いほうなのだろう。そいつの攻撃が効かなかったせいで焦っているんだ。


 全員で砲撃してきたが、俺のシールドはヒビ一つはいることなく、それらを防いだ。


 俺はというと、上手く行きすぎなことに不安を感じていた。

 大丈夫かこれ? 次打たれたら割れるかもしれない。どれくらいの強度なんだよ。

 心臓バクバクなんだが。

 顔がこわばって仕方ないんだが。



『強くみせるのがコツだよ。胸を張って、まっすぐ前をみて、この世界で誰よりも強いんだぞっていう顔するの。そしたらもう、無敵なんだから』


 リレットの言葉が、俺の背中を押してくれた。そうだ。あいつはずっと、そうしていたんだ。


 攻撃が一旦止むと、俺はシールドを解除し、背筋を伸ばした。



「今から、おまえたちは死ぬ」



 俺の言葉に、影たちのマントがかすかに揺れる。


「おまえらが俺たちを殺すというのなら、俺は抵抗しないといけない。これまでは力を隠していたが、今の俺は、おまえたちを一瞬で殺すことができる」


 自分で言っててなんだが、突拍子もない話だな。


「できるはずがない。おまえは弱い」


 アイガーの声は明らかに震えている。自分自身に言い聞かせているようだった。


「そうか。じゃあやるぞ? 家族に挨拶しなくてもいいのか? もう会えないぞ」


「……なんだと?」


「だからさ、俺がいまかからおまえらを殺すだろ? おまえらは死ぬ。その前に、大切な人に何か伝えときたいことはないのかって言ってんだよ」


 アイガーと、初めて目が合った気がする。マントで顔は見えてねえけど。


「ふざけているのか? 我々をからかってなんの意味がある」


「ふざけてねえよ。いたって真剣だ。殺されそうになっているから、おまえらを殺すってだけだ」


「おまえにできるはずがない」


「おれはなんだってできるんだよ」


「黙れ! おまえは弱い!」


 アイガーは怒鳴ると、手を前に出した。それは俺ではなく、後ろにいる母さんたちに向けられていた。


 俺も手を出した。だがアイガーに向けてではなく、右側の岩壁にだ。


 体中に充満している力を手に集め、たまりきったところで思いっきり放出する。

 手から放たれた砲撃は轟音とともに岩壁の上部分を砕いた。

 岩壁は巨大な石でも落ちてきたかのように大きく抉れ、岩の残骸があたりに飛び散った。


 それを見たアイガーは、ゆっくりと手を下ろした。


 いったいどうしてこんなことができてるのか自分でも不思議でならなかったが、今は考えるのは後回しだ。この好機を逃してはならない。


 俺は今度は手をアイガーたちに向ける。


「じゃあ、やるぞ」


「くっ……」



 プレッシャーがアイガーたちを覆っていく。

 そんなことできるわけがないと自分に言い聞かせていても、言いようもない不安が押し寄せているのだろう。俺にも経験がある。


 アイガーたちは後ずさった。先ほどの俺の攻撃を見たあとだ。俺のことを自分たちよりも格上の相手だと認識を改めたのかもしれない。



 俺の手が微かに光りだす。

 そしてアイガーたちは――。



「わ、わかった」


「……えっ?」


 声が裏返ったので、ゴホンと咳をしてごまかし、一旦手を下ろした。

 聞き間違いか?

 わかったって、言ったような。


「我々は退散する」


 アイガーの声は弱々しかった。


「ただし、一つ条件がある。あのことについて、他言しないと約束してほしい。それさえ守ってくれれば、今後この村を襲わないと約束しよう」


「あのことって、つまり、魔王のことか?」


「そうだ」


 約束、か。

 俺は腕を組み、少し考える。


「今朝、俺もある人物に提案したんだ。力で解決するんじゃなくて、話し合えばいいだけだって。そしたら分かってくれるからって。けど、そいつは約束を守ってくれるかどうか信じることはできないから、殺すって言ったんだよ」


 アイガーの肩がビクッと動いた。

 そうだ。おまえが俺に言った言葉だ。


「俺もおまえらの言ってることをどう信じたらいいのかわからねえ。村を襲わない? 本当か? 確信がもてないなら、殺しておくほうが確実だよな」


 アイガーたちは黙り込む。

 いまから俺に殺されるのかもと、怯えているのかもしれない。

 きっと、今後のことを考えれば、こいつらを殺したほうがいいのだろう。危険は少ないほうがいいに決まってる。


 だが、そんなことする気はなかった。


「俺はさ、家族さえ無事ならそれでいいんだ。家族以外はどーでもいいんだ。魔王のことを誰かに言ったりしねえよ。まじでどーでもいいからな」


 どーでもいいを強調してみる。

 アイガーたちは俺の言葉が本当かを見極めるかのように、こちらを凝視した。


「信じるのは難しいよな。俺だっておまえらを信じてねえし。もし不安なら、ずっと監視をつけてくれてもいい。念押ししとくが、俺は誰かに話そうとは思ってねえし、話したところで混乱させるだけだ。せっかく世界が平和になったのに、また乱す必要があるか? さっきも言ったが、俺は家族が大事なんだ。家族を守るためなら、手段を選ばないほどにな」


 俺は握っていたリレットの花飾りに視線を落とす。アイガーたちは今では完全に俺がリレットを殺したと思っているだろう。


「わかった。時々、様子を見にくることにする。決して手出しはしないと約束しよう。だからおまえも、約束しろ」


「そっちが破らねえなら、俺も破ることはしねえよ」



 アイガーたちの足元が光出す。転送魔法だ。

 光が三人を包み込むと、一瞬にして消え去った。




「はあー」


 膝に手をつき、息を吐く。

 おそろしく長い時間だった。本当にあいつらを退けられたのか? 上手くいったのが実は夢でしたなんてことにはならないでくれよ。


「ロジ! すごいじゃないか!」

「おまえはやっぱり、村の英雄だな」

「わしはわかっていたぞ! おまえの強さを! 昔からだ!」


 じじいたちが俺を褒めちぎり、俺の頭をワシャワシャと撫で、嬉しそうにはしゃいでいた。


「よしてくれ。別に俺は英雄になりたいわけじゃない」


 手でそれをそっと払いのける。


「いいじゃないか。みんな、嬉しいんだよ。おまえの強さを証明できて」


 母さんはいつも通りといった様子だが、今どんな気持ちなのだろう。

 ぐーたらしていた息子がすごい魔法使いだったとしたら、嬉しいだろうか。少しでも、誇りに思ってくれるだろうか。


「ところでロジ、リレットは一緒じゃないのかい?」


 リレットの名前をだされ、体が固まった。


「あいつは……」


 母さんは真剣な表情になり、じっと俺の言葉を待った。

 本当のことを言っても、きっと誰も俺を責めない。だがみんなリレットのことを気にいっていた。死んでしまったとわかれば、どれほど悲しむだろう。


「姉ちゃんを見つけたんだ。あいつは、姉ちゃんと一緒に旅にでたよ」


 俺は嘘をついた。リレットが死んだことは、俺と影しか知らない。俺が黙ってさえいれば、リレットはみんなの中では元気な姿で生き続けられるんだ。


「そうかい。リレットは、頑張ったんだね」


 母さんの顔を見ることができなかったが、母さんはそれ以上聞いてくることはなかった。なんとなく察していたのかもしれない。



 空を見上げる。

 夜の空はどこまでも暗いが、何も見えない闇ではなかった。


 決して触れることはできないのに、空に手を伸ばし、何かを掴みたくなる。

 握り返してくれるはずもないが、今日のこの夜だけは、あたたかい何かがそっと肌を撫でてくれた気がした。




 俺は夜が明けるまでそこにいた。

 影が戻って来る可能もある。

 やっぱり戦うことにした、なんて言われたら、次はうまく対処できるかわからない。


 俺はリレットが消えたあたりに座り込み、ぼーっと前を見ていた。


 考えなければならないことはあった。

 リレットのことと、俺が使った魔法のこと。

 だがそれについて考えようとすると、糸が絡まるみたいに思考がぐちゃぐちゃになっていく。


 自分では答えに辿り着けないとわかっているからだろうか。

 頭が考えることを拒否している。ぼーっとしたいわけじゃないのに、結果そうなってしまう。


 日が昇り、あたりが明るくなってきた頃、誰かが道の向こうのほうから歩いてくるのが見えた。


 誰だ? あっちから来るなんて。

 あっちには滅んだ街しかないのに。俺は急いで立ち上がり、目を凝らす。


 服装からして影ではなさそうだが……。

 数メートルまで近づいてきて、ようやくわかった。



「おはようございます。突然の訪問ですみません」


 そうだ。

 どうして忘れていたんだ。


 この人も、リレットと同じ色だった。

 灰の人の村にいたレーネが、俺の目の前に現れた。


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