第27話 世界のための嘘③
偽者――。
ブレイズと騎士たちはただ下を向きだんまりだったが、その表情にはどこか諦めの色が見えた。
「偽物って、ちょっと待ってくれ。何がどうして」
俺の頭はグルグルと混乱していた。
「俺は見た。あいつの力を。あの力は本物だろ? 幻なんかじゃなかった」
魔王が人を殺すところを見た。
建物を破壊するところも見た。
「ローさん、言霊の魔法って知ってる?」
言霊?
「ダートが、言っていたが」
信じる力がどうとかって。詳しくは教えてくれなかったけど。
「言霊は、言葉にしたことが現実になるんだけど、すべてはそれが原因なの。ね、ブレイズさん?」
話しかけられたブレイズはちらっとリレットを見るも、また視線を下に落とし、「そうじゃ」と弱々しく呟いた。
「それってつまり、あいつが自分のことを魔王だって言っただけで、あいつは本当に魔王になるのかよ?」
そんな馬鹿な話があるか?
魔法ってなんでもありなのかよ。
「うーん、ざっくり言うとそうなんだけど、実際にはいろいろと条件があるの。ね、ブレイズさん?」
「……ああ」
おまえが全部お見通しなのはわかったから、もう同意を求めるのはやめてやれ。うなだれてるじゃないか。
「まあ、その話は今はおいておいて、わたしが言いたいのは、もうやめにしない? ってことなの」
リレットはブレイズに問いかける。
「あなたも、いつかはやめなきゃって、思ってたんじゃないの?」
リレットの言葉にブレイズの瞳は揺れ、唇をかみしめた。
「わしは……、ただ」
先ほどまで威厳のあった軍師は、いまでは普通の老人に見える。
「ただ、国を、世界を、守ろうと」
「それと偽物の魔王と、なんの関係があるんだよ。その偽物のせいで、どれだけの人が悲しんだと思ってる」
思わず二人の会話に割って入ってしまった。
ブレイズは申し訳なさそうに目を伏せる。
「ローさんは別に悲しんでないじゃない。魔王に何かされたの? 家族を殺されたわけじゃないでしょ」
「俺は一般的な意見を言ってるんだ。これまで行った村や街のやつらは、みんな魔王のせいで大変な思いをしていた」
「あの人たちはね。でもローさんとは何の関係もない人たちでしょう? たった少しおしゃべりしただけで、もうその人たちのことが大切な存在になったの?」
リレットは少し驚いた様子だった。
つーか、なんでそこが気になるんだよ。
「その言い方だと、俺がまるで他人なんてどうでもいい人間みたいじゃねえか」
「そうじゃないよ。ただローさんは、家族以外はどうでもいい人でしょう?」
「いやまあそうだが……。今それどうでもいいだろ。俺が他人を気遣ったらなんか問題でもあんのかよ」
「ううん。さすがだなあって思って」
リレットは関心した様子だったが、皮肉を言われているようにしか思えなかった。
「そんなことより、偽物の魔王がいることが、どう世界のためになるんだ?」
俺はそれた話をもとに戻す。
「おぬしは、それについても、知っているのか?」
ブレイズはリレットに尋ねる。
「魔王が現れないようにするために、人間を減らしたかったんでしょ?」
「その通りじゃ」
ますますわけがわからない。
俺の困惑した目つきを見て、ブレイズが説明を始めてくれた。
「こんな言い伝えがある。
『すべての光を揃えて
一つ一つ混ぜていって
新しい光を作ろう
すべてが輝きだせば
いつか影が現れるから』
これはある詩の一節だ。大昔から伝わるもので、知っている者はあまりおらんが」
聞いたことのない詩だ。
「どういう意味なんだ?」
「光とは、人間の色のことだと言われておる。人種じゃな。この大陸には七つの国があり、七つの種族がいる。最初に赤、青、緑があり、それらが混ざり黄、紫、水色が生まれ、最後に白が現れた」
ブレイズが話しているのは、この世界の成り立ちのようなもので、誰もが知っている昔話だった。
「今は、それ以外の人種も生まれておるが」
ブレイズはちらっと俺を見る。
「俺みたいな茶色とか、灰色とかだな。ま、詩の光には含まれてねえだろうけど」
「……」
俺は嫌味を言ったつもりはなく、あくまで詩の意味を考察しての言葉だったのだが、ブレイズは気まずそうに目を逸らした。
「じゃ、輝くってのはなんだ?」
「それらが輝きだす、ということは、人間が増え、力を持つことだと言われている」
「影は、まさか魔王か?」
「そうじゃ。予測では、ここ百年の間に魔王が生まれるのではないかと言われていたのじゃ。七つの国は力をつけ、それ以外の人種も生まれているこの状況は、影が生まれる条件に限りなく近づいておる」
「だから、人間を少しでも減らして、魔王が生まれる可能性を減らそうとしたんだよ。偽物の魔王を作り上げて、人間をたくさん殺してもらって。ねっ?」




