第26話 世界のための嘘②
「ここでなら話をしてもいいよ。みんなに聞かれたくないなら、結界で声を遮断すればいいんじゃない? もし転送魔法とか使ってわたしをどこかに連れて行こうとしたら、その前にあなたたちを半殺しにして、ついでにみんなに全部バラしちゃうからね」
その声に怒りの色はなかった。
明らかに脅し文句なのだが、俺からすればいつも通りの口調だった。
「どうする? 決めてくれていいよ?」
だがブレイズたちには効果抜群だったようだ。顔面蒼白で、騎士たちも体を石のようにかたくしていた。
「……結界を張れ」
ブレイズが諦めたように呟くと、騎士たちは周りに小さな結界を張った。
薄いベールのような膜が俺たちの周りを覆った。
「これで外から話は聞こえん」
ブレイズの声は微かに震えていた。リレットの脅しが聞いているようだ。
本当はリレットは一度しか魔法を使えないのだが、それは俺しか知らないことだ。みんないいように騙されてるな。
あれ? そういや、ダートはそのことを知ってたっけ?
魔王より強いことは知っているはずだが、世界を滅ぼせるほど強いことや、それが一度だけの魔法だということをリレットから聞かされていたのだろうか。
リレットに肘で小突かれ、俺の考え事は中断させられた。
「ローさん、ぼーっとしないで。ちゃんと聞いててよ」
「いや、そりゃ聞くけどよ、俺が聞いたことろでどうしようもねえだろ」
「きみたちは、どういう関係なのだ?」
ブレイズは警戒しながら、慎重に尋ねた。
「俺はこいつにこき使われてる可哀想な男さ。友達でもなんでもねえ。一緒にいるのも脅されて仕方なくだ」
今のあんたらと一緒だよ、とは言わなかったが。
「きみは、知っているのか? その……」
「悪いが俺は何にも知らねえ。こいつが何言ってんのかさっぱりだ」
教えてほしいのはこっちのほうだ。
「だってローさんに言ったらいろいろと上手くいかなさそうなんだもん」
「俺がいつおまえの邪魔をしたんだよ。こんなけ従順にしてるってのに」
「よく言うよ。魔王の根城に向かってるとき、逃げようとしたくせに」
あ、そういえばそうだったな。
こいつの目が見えないのをいいことに逃げようとしたら、目の前に剣が降ってきたんだった。その剣は、今は俺が背負っているが。
「魔王の根城だと?」
ブレイズが食いついた。
「ああ、俺の村、魔王が住み着いてた場所のすぐ近くなんだよ」
「おぬしもそこの出身か?」
「わたしは違うよ。立ち寄ったその村でローさんと出会ったの」
あれからまだ数日しかたっていないことに驚く。もうずっと長く旅をしている気分だ。
一日一日が濃すぎるせいだな。
「魔王に会いにいったのか?」
「ああ」
「手下はいなかったのか?」
「そんときはいなかったぞ。魔王しか」
あの時は魔王以外いなかった。
そのおかげで何事もなくあの場から退散することができたんだ。
だがなぜ誰もいなかったのだろう。
「そんなはずは」と言いかけて、ブレイズは口を噤んだ。
「どうしたんだ?」
「ローさん。ローさんがあまりにも鈍くていろんなことに気がついてないからもう言っちゃうけどね、この人たちが、魔王を操っている張本人なの」
「な」
「何を言い出すんだこいつはって顔してると思うけどね、ついでに言うと、魔王なんていないからね」
「……はあ!? 魔王はいるだろ? 何言ってんだ?」
「いないよ。あれは偽物。まーさんは、偽物の魔王なの」




