第25話 世界のための嘘
広場は人でごった返していた。
魔王を退けた英雄を一目見ようと、次々と人が集まってきていたのだ。
「押すなー。危ないから、一人ずつ来てくれ。じいさん長いって。次のやつと代わってくれ」
俺はリレットの隣に立ち、リレットと握手したがる人を順番にさばいていた。
俺が泥の人だということなど、今は誰も気にとめていない。
「はいはい、終わりだ離れろ。短くねえよ、みんなこうだよ。おいガキ足蹴んな!」
何してんだ俺。
イライラが募りに募っていた。
俺は早くここから逃げ出したかったのだが、リレットは嫌な顔一つせず永遠と握手を繰り返していた。
「もうすぐ魔王が死ぬと思うと、嬉しくってしょうがないよ。本当に強いんだなあ」
「本気を出せば、世界だって滅ぼせますよ」
「はははっ! そりゃ心強いなあ!」
「そのペンダントきれいだねえ」
「これは特別なものなんです」
「おねえちゃん魔法みせて魔法!」
「魔法はいまはダメなの。ごめんね」
リレットは律儀に質問に答えていく。
死んでしまったダートのことなど、みな忘れてしまったかのようだ。
村に帰りたい。心底帰りたい。とにかく疲れた。俺は別に何もしていないが、とにかく心が疲れた。
リレットに聞きたいことはたくさんあった。魔王のこと、ダートのこと、魔王の計画のこと。だが今はいったんすべてを忘れて、村で休みたかった。
今日落ち着いたら絶対帰ってやる。ダートにもらったリングで……。
と思ったが、ダートが死んでしまったばかりで、とてもじゃないが今これを使おうという気分にならなかった。
一時間くらいそうしていただろか。
列の後方あたりがざわつき、人々が道をあけた。
赤のローブを身にまとった小柄な老人と、護衛らしき赤い騎士が二人が、こちらに近づいてきた。
「順番を無視して申し訳ないのだが、お嬢さん、少しわしと話をしてくれんかな?」
物腰の柔らかそうな老人だが、身なりからして、かなり地位の高い人物なのは分かった。
赤のローブはところどころ黄色の刺繍が施されていて、使われている布も上等そうなものだった。
赤い髪を後ろでまとめ、青いリボンで結んでいる。
護衛の二人も赤の人間だ。よく日に焼けた肌の色とずっと眉間にシワをよせているような強面な表情は、いかにも騎士といった雰囲気だった。赤い甲冑は触ると火傷しそうなほど赤々としていた。
「あなたは誰?」
「わしはブレイズ。まあ軍師のようなことをしておる。魔王が現れてからは、いろいろと忙しくしておるよ」
そんな重要人物がお出ましとは。魔王を退けた英雄を勧誘でもしにきたのか?
「ブレイズさんは、今日はどうしてここにいるの?」
「たまたまこの街の視察に来ておったのじゃ」
「軍師さんがいたのに、あの魔王をどうにもできなかったの?」
「力及ばずで申し訳ない。外から結界の解除を試みていたのじゃが、間に合わんかった」
「へえーーー」
へえーーー、て。なんでこいつちょっと不機嫌なんだ。
「きみが魔王を退けたと聞いた。ぜひ話を聞きたいと思っての。屋敷でゆっくり話をしたいのじゃが、どうかのお?」
これは、なんかすごいことになってきたな。いよいよ国のお偉い人の目に止まったか。
ま、こんだけのことしてたら、リレットの存在が知られるのも時間の問題だよな。
これって、俺も行かなきゃダメなやつか?
だがリレットが「お断りします」と即答したので、俺もブレイズも「あれっ?」という顔になった。
「ここでお話するなら、いいよ」
リレットは地面を指差す。
「ここはさすがにのお」
老人はあたりを見回し、苦笑いする。
「大切な話じゃ。できればきちんとした場所で話し合いたい。きみ自身のことも聞きたいのじゃ。ここでは、話したくないこともあるのではないかの?」
「ないよ。話したくないことがあるのは、そっちでしょう?」
リレットの言葉に、ブレイズと後ろの騎士二人の顔が強張った。
「もう魔王ごっこはおしまいにしない? もういいでしょう?」
リレットがそういうやいなや、騎士二人がバッと腰の剣に手を添える。
「それ以上動いたら殺すよ」
だがリレットの一言に、彼らはピタッと動きを止めた。
ブレイズは目を見開き、リレットを凝視する。
「おぬしは、どこまで……」
揺れる赤い瞳には、恐れの色が見えた。
「全部、だよ」




