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第23話 命をかける覚悟③

 その顔は、あまりにも醜かった。

 人々は声を出すことを忘れ、魔王を凝視した。



 顔全部ヤケドでもしたかのようなただれ、痩せこけた頬、眉はなく、窪んだ目は左右で大きさが違い、瞼が重くのっている。

 尖った黄色い歯は何本か抜けていて汚く、耳はくしゃっとつぶれていて、肩にかかる黒髪は使い古したほうきのようにバサバサだった。



「う、うわあ!!」

「何あの顔」

「化物だ!」


 人々は我に帰り、また悲鳴をあげる。



 その反応を見た魔王は、震える両手でゆっくりと自分の顔を触った。

 まるで一つ一つ確認するかのように、髪や目や頬を触った。




「う………、うわあああ!!」




 魔王は両手で顔を覆い、叫んだ。

 何かが裂けるような、悲痛な叫びだった。



 魔王はこれまで頑なに自身の顔を見せたがらなかった。

 どうしてあんなにもあの赤い姿を気に入っていたのか、ようやくわかった。



「見るな!! 見るなあ!!」



 魔王は体を震わせ、パニックに陥った。

 魔王の周りにいくつもの光の弾丸が現れ、いまにもこちらに発射されそうだった。



「魔王!」


 そのとき、誰かが叫んだ。

 一人の男性が魔王の前に出た。声も足も震えていたが、怒りに満ちた目はしっかりと魔王を睨みつけていた。


「おまえのせいで、オレの家族は死んだ! ここで殺されるくらいなら、いっそ」


 そう言うと、男性は魔王めがけて魔法で砲撃をした。

 魔王は顔を押さえていた手を離し、まるでハエを払うかのように片手で砲撃をやすやすと弾いた。


「くっ」


 そんな攻撃では、魔王にはかすり傷すら負わせられないだろう。


「もういい」


 魔王は俯いたまま、ポツリと呟いた。


「やはり、終わらせるべきだ。コロしてやる。ぜんぶ、コロしてやる」


 魔王が右手を男性に向けると、魔王の周りにあった黒い光の弾丸が手の前に集まり、一つになっていった。



 男性は死を覚悟したのか、恐怖で固まり、その場から動けずにいた。

 魔王は男性に向かって光の弾丸を飛ばしたのだが、その砲撃は男性にはあたらなかった。




 魔王が放った砲撃は、間に割り込んできたダートの胸を貫いた。




 俺と魔王は目を見開いた。

 ゆっくりと膝を折り倒れていくダートを、ただただ目で追っていた。


 倒れるダートの横顔がちらっと見えた。



 笑っていた。



 安心したかのように、何かから解放されたかのように。


 ダートがバタリと倒れ、胸からあふれ出た血が赤土を赤黒く染めていく。


 ダートがやられたことであちこちから悲鳴が飛び交い、少しでも遠くへ逃げようと誰もがもがいていたが、俺は唖然として足が動かなかった。



 息ができない。



 ダートのもとへと駆けつけなければと思うのと同時に、行ったところでどうすることもできないという無力感が襲ってきた。


 その場に突っ立ったまま、ダートに手を伸ばそうとした。だがその手は誰かにつかまれた。


「ローさん、今行ったら危ないよ? わたしが行ってくるから、ここにいてね」


 そこにはいつもと変わらない様子のリレットがいた。


「おまえ、今までどこで何を。いや、それより、あいつが……」


 俺の声は震えていた。話そうとするも、つっかえてでてこない。


「この騒ぎで門番がいなかったから、入ってこれたの。ところでローさん、どうしてそんなに怯えているの?」


 リレットはそんな俺を不思議に感じたのか、首をかしげた。


 どうして……?


 どうしてだって? この状況で、俺が怯えている理由がわからないのか?


「まーさんのことが怖いの? それとも、ダーさんが死んだことが怖いの?」


 リレットは事も無げにダートの死を口にした。まだダートの生死は確認していないのに、リレットが言うと死が確定したような気がして、胸に穴が空いたような虚しさに襲われた。



「ローさんが一番怖いのは、村に戻れず今ここで死んじゃうことでしょう? なら、怯える必要なんてないじゃない。わたしがいる限り、ローさんは安全なんだから」


 リレットはニコッと笑うと、背負っていた剣を俺に渡し、倒れているダートのもとへと歩き出した。


「あ、ローさんはいつもみたいに見ててね」


 俺は一言も発せず、リレットの後ろ姿を見ていた。


 俺はさっきまで、魔王が怖かった。

 ダートが死んだことが怖かった。

 俺もここで死ぬのではないかとよぎり、怖かった。



 だが今は、この状況で平然としている盲目の少女が、なによりも恐ろしかった。


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