第22話 命をかける覚悟②
「どういうことなんだ? なんでおまえが手下になってる!」
「ロジさん、落ち着いてください。それと、声を押さえてください」
俺の声に道行く人々が狂人でも見るような目でこちらを見ているが、そんなの気にしてられるか。
「落ち着いていられるわけねえだろ? 説明してくれ! あいつが連れてかれたんだ!」
「ロジさん、ちょっとこちらへ」
ダートはフードをかぶり直し、俺の腕をひいて急いで人けのない場所に移動した。
「驚かせてしまい、本当に申し訳ございません」
ダートは再度頭を下げたが、俺はふとあることが気になり、ダートから少し距離をとった。
「その前にちょっと待て。おまえ、本当にダートか? 俺はまだ魔法の知識は浅いが、変身魔法ってのがあることは知っている。誰かがダートに化けて、俺から情報を盗もうとしてんじゃねえだろな?」
俺が疑いの視線を向けると、ダートは目をパチクリさせた。
「そうですね。疑われて当然です。そしてそう考えることは、とても良いことです。ロジさんはよく魔法について学ばれていますね。証明になるかわかりませんが、これをお渡しします」
ダートはそう言うと、ポケットから何かを取り出した。
それは、水色のリングだった。
「これは、転送魔法の術式を組み込んだ魔道具です。今朝作ったので、お渡ししておきます」
ダートの髪と瞳と同じ色をしたリング。
昨日頼んだばかりなのに、もう作ってくれたのか。
「それから、以前ロジさんは、僕は味方なのかと聞きましたね? 覚えていますか?」
「あ? ああ」
会ったばかりの日に、ダートに尋ねた。
おまえは俺たちの味方なのかと。
「僕は、まーさんの味方になりたいと思っています。なので、ロジさんの味方かどうかは、やっぱりわからないです」
ダートは困ったように、少し申し訳なさそうに笑った。だけどその顔は、何か吹っ切れたような感じに見えた。
「聞きたいことはいろいろとあるが、おまえが本物だってことはわかった。怒鳴って悪かった。あとこれ、ありがとな。礼は必ずするから」
「いえ、いいんです」
俺はリングを腕につけた。きれいな色だ。晴れた日の空みたいな。
「んで、どうなってんだ?」
「いろいろと起こっていますが、安心してください。こうなった場合の対処法について、事前にリレットさんと作戦を練っています」
「あいつと? こんな事態を想定してたっていうのか?」
リレットの作戦とわかると、なんだか急にすべてが上手くいくような安心感に襲われ、重たかった体が少し軽くなった。
「はい。まーさんの居場所が知られてしまうのは時間の問題でしたから。いつまでも隠し通せるものではありません」
「そりゃ、まあ、そうだな……」
冷静になって考えてみれば、これまで上手く行きすぎだった。今までよく手下に見つかっていなかったな。訪れた村であんな派手に暴れてたのに。
「今からこの先にある広場にまーさんが魔王として降り立ちます。広場には結界が張られ、中にいる人々は逃げられません。手下は魔王の恐ろしさを人々に見せつけたいんです」
「その情報は手下から聞いたのか? よくバレずに紛れられたな。どんな手を使ったんだ?」
「それについては、後ほど説明します」
ダートは苦笑いをした。
「まーさんが建物を破壊している間になんとか近づいて、まーさんを連れて転送魔法で逃げだします。その後ロジさんはタイミングを見計らって、その魔道具で移動してください」
ダートが俺の腕のリングを見る。
「行き先を念じれば移動できるようにしてあります。行ったことのある場所であれば、行くことができます。ただ、込めている魔力量はそれほど多くのありません。距離が遠くなるほど、消費する魔力量も多くなります。近い場所であれば、何度か使用できます」
「それってつまり……」
俺はその先を言えなかった。
そのタイミングで家に帰ることができるんじゃないのか?
数日前の俺なら、迷わず帰っていただろう。このリングを作ってもらったのも、そのためだ。だがいざそれができるかもしれないと思うと、本当に今帰っていいのか、という迷いが生まれた。
別に同志だとか友達だとかは思っていない。名前のない奇妙な関係だが、こいつらを放っていくことを俺の中の何かが許さないでいた。
いいようのないモヤモヤがわき上がってきて、リングをぎゅっと握る。
「大丈夫ですよ」
ダートが優しく声をかけてくれる。
どことなくだが、今のダートはリレットと似ている。安心感というか、すべてお見通し、といった雰囲気が。
「さあ、行きましょう。まーさんを、助けに」
広場には多くの店があった。
食べ物や日用品などを売っているテントがいくつも並び、人々がそれを買い求め、賑わっていた。
そんな中、広場の中心が淡く光だし、人々がなんだなんだとそちらを見る。
地面に魔法陣が浮かび上がり、一瞬強く光ったかと思うと、そこにはすでに、黒いマント姿の魔王がいた。
突然の出来事に人々は動くことができず、ただ魔王を見ていた。
静寂のなか、魔王はすっと右手を上にあげる。その手のひらが黒く光だし、次の瞬間、空へと砲撃した。
ドンッ!!
という大きな音を合図に、人々は何が起こったかをようやく理解し、悲鳴をあげ逃げだした。
「魔王だ!」」
「逃げろ!
「魔王がでたぞ!」
人々は広場から逃げようと走り出した。
テントが倒れ、売り物の食べ物や服がぐじゃぐじゃに踏みつぶされていく。
だがダートが言っていたとおり、広場に結界が現れ、退路が断たれてしまった。
「なんだこれ!」
「壁が!」
「出れない!」
閉じ込められた人々はさらにパニックに陥っていく。殴り合い押し合いつぶしあい、魔王に殺されるより先に人間同士の殺し合いが始まりそうなほど、あたりは狂気に包まれていた。
「これは、手下どもの思うつぼなんだろうな」
「ですね」
俺とダートは結界の外を目指す集団の後方、つまり魔王からは一番近い場所で、群衆に紛れていた。
ダートは赤いフードをかぶっているため、魔王は俺の隣にいるのがダートだと気がついていないだろう。
「手下もこの結界内にいます。ギリギリまで様子をみます」
魔王は人々のパニックには動じず、人には当てないように攻撃してた。
傍から見れば魔王がそんな気遣いをしているなど微塵も思わないだろうが、極力家の屋根や人がいない地面などを狙っていた。
それに砲撃の威力もそれほど強くなさそうに見える。手加減しているのだろう。
だが手下どもは本当にこれで満足しているのだろうか。
逃げられない状況で、いつまでも魔王が人間を殺さないと気づけば、さすがに何かおかしいと思うやつもでてくるんじゃないか。
などと考えながら魔王のほうを見ていた時だった。
それは俺にはよくわからないものだった。
攻撃なのか、風なのか、物が飛んできたのか、何かはわからなかったが、何かが魔王の顔に当たったのはわかった。
そしてその何かが魔王の顔を隠しているフードをめくってしまったことで、事態は急変した。
魔王の顔が見えたのだ。




