第21話 命をかける覚悟
ダートがいない?
珍しいな。
ダートはなんだかんだ魔王の側を離れようとしなかったのに。
「なんか言ってなかったか? どっか行くとか」
「いいや」
魔王は腕を組み、少しむすっとした。黙ってどこかに行かれたことをすねているのか?
機嫌が悪くなって暴れでもしたら大変だ。
「俺が探してくるから、ここで大人しく」
「オレも行くぞ」
まあ……、そう言うと思ったけど。
魔王の赤の髪はぐちゃぐちゃで、マントもシワだらけだった。ダートなら整えてやっただろうが、魔王は俺には触られたくないはずだ。早いとこダートを見つけよう。
俺は急いで支度したが、手が少し震えた。
今はダートとリレットがいないんだ。魔王と俺だけ。何事もなければいいが。
宿を出て、さあどこに行こうかと考えていると、
「この道が怪しいぞ」と魔王が指をさす。
宿と隣の建物の間の細い路地だった。
薄暗く人気のない道は怪しそうに見ようと思えば見えるが、こういう路地はそういうもんだ。
「なんで怪しいと思う?」
魔王の思いつきの発想だろうと思いながら、一応理由を聞いてみた。
「昨日の夜、ダートがここで何かをしていた」
「何かって?」
「それは知らん。俺は部屋の窓から見ていただけだ。立ち止まって、地面を触っていた」
「それは……、かなり怪しいな」
さっそく路地に入ってみる。
地面をよく観察しながら進むも、とくに変わったものは見つからない。魔法でなんかしてるなら、俺にわかるはずもないが。
ダートが触っていたという場所を歩いても何もなかった。
だがそこを通り過ぎた直後、背後から声がした。
「魔王様、お元気そうでなによりです」
刺されたような衝撃をうけた。
恐怖が全身を包み、背後を見ることができなかった。
魔王は振り返るとため息をつき、「オマエたちか」と、とても残念そうに言った。
「ロジ、こいつらはオレの手下だ」
俺は恐る恐る後ろを見る。
灰色のマントに身を包んだ魔王の手下が五人。顔は見えないが、怪しげな臭いはプンプンしていた。
この細い路地に急に現れるなんて、不自然すぎる。なんでここにいるだ。しかも、こいつが魔王の姿ではないにも関わらず、魔王だとわかっているようだ。
「魔王様、お仕事です。この街を壊していただきたいのです」
手下は俺がいるにも関わらず話を始めた。
「今はそんな気分ではない。他にすることがある。やりたければオマエたちでやれ」
魔王は即答した。
早くダートを探しに行きたいようだ。
「そうは行きません。破壊、殺戮。これこそが、あなた様の役割なのです」
「そんなのはいつでもできる。今はやらん。何度も言わせるな」
魔王が苛立ち始める。
魔王が怒りで攻撃しないうちにさっさとどっかに行ってくれと願うしかなかった。
「魔王様、その者は?」
手下の視線が突然俺に集まり、心臓がギュッとなった。
「一緒に行動している人間だ」
手下たちが俺を凝視する。
「おまえが、魔王様をたぶらかしたのだな」
殺気を帯びた声だった。
「こいつは関係ない」
魔王が否定するも、手下たちは「いいえ、処分します」と答えた。
「魔王様はそいつに毒されておらります。元に戻るには、そいつは殺さねばなりません」
手下は俺を指さす。
「オレは正気だ。変わってなどいない」
「それを証明できますか?」
証明、と言われ、魔王は少し考える。
「何をすれば証明になるんだ?」
「もちろん、破壊です」
手下は即答する。
「なら、街を破壊してやる。だが、今は殺しをする気分じゃない。適当に建物を壊すだけならやってもいい」
「かしこまりました。それだけで十分でございます」
「なにが十分だ! いいわけねえだろ! そんなことする必要ねえ! 嫌なら、うっ!」
急に息ができなくなり、胸が苦しくなった。俺は胸を押さえ、倒れそうになるのを足を踏ん張ってなんとか耐える。
「黙れ。それ以上口を開くなら、殺すぞ」
一人の手下が俺に手を向けていた。俺に何かの魔法をかけているようだ。
「やめろ。コイツに手を出すな。でなければ、建物と一緒にオマエたちを消してもいいんだぞ?」
魔王の言葉に手下はすっと手を下ろし、魔法を解除した。
「はあっ、はあっ……」
俺は壁にもたれかかり、肩で息をする。
こいつらにとっちゃ、俺なんてすぐに殺せるんだ。小さな虫を殺すのと同じくらい、簡単なことなんだ。
「それで、今からやればいいのか?」
「はい。ただ、その男には一人監視をつけさせていただきます。ご安心ください。手荒な真似はしません。魔王様の邪魔になるようなことをしないか、見張っておくだけです」
手下の一人がこちらに歩いてきて、俺の腕を掴み、路地から連れ出した。
振り返ると、手下が魔王に黒のマントを手渡しているのが見えた。
魔王の象徴である、黒いマントを。
手下は路地を出てすぐにマントの色を魔法で赤に変え、俺の腕を掴んだままどこかへ歩き出した。
俺に対する差別の視線が今日も刺さってくるが、今はそれどころではなかった。
いったいどこに連れてかれるんだと不安に思っていると、隣からふと聞き覚えのある声が聞こえた。
「ロジさん、大丈夫ですよ」
手下が顔のフードをめくった。
「おまえっ! なんで」
「すみません。いろいろありまして」
申し訳なさそうに頭を下げるダートがいた。




