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第2話 世界を滅ぼせる少女②

「なあ」

「なあに?」

「さっきは悪かった」

「うん」

「だから、その、手を掴むのをやめてくれないか?」


 少女が俺の手首をガシっと掴んで離さない。


「でも、逃げるでしょ?」

「もうしねえよ」

「でもさっき逃げようとしたじゃない」

「うっ……」



 それは数分前のこと――。



 俺は少女の後ろを大人しくトボトボと歩いていた。

 だが正直言って、魔王のところに行くなんて死んでも嫌だった。村に帰りたかった。

 なんとか少女をまけないかと考えていた。


 そこで俺は、少女の目が見えていないのをいいことに、ある行動にでた。

 小石を拾い、それらを思いっきり地面に打ち付ける。それと同時に来た方向へと走り出したのだ。


 少女は音を頼りにしている。

 小石の音が邪魔で俺の足音は聞こえにくかったはずだ。


 岩山に沿うように道の端に寄り、全力でダッシュした。

 完全にだしぬけたと思った。


 だが直後、空から何か降ってきて、目の前の地面にグサリと刺さった。

 砂が舞い咄嗟に身構えたが、よく見るとそれは見覚えのある物だった。


 少女の剣だ。


 鞘から抜かれた剣はきれいに研いであり、刃には俺の姿がうつっていた。


 まずい……。


 後ろから足音が聞こえ、血の気が引いていった。振り向くのが怖い。殺されるんじゃないだろうか。


 そんな心配をよそに、少女は硬直する俺の横を通り過ぎ、ズボッと剣を抜いた。


「あんまり変なことされちゃうと、感覚が惑わされて手元が狂うからしないでほしい。剣をあなたの頭に刺しちゃったかと思ってヒヤヒヤしちゃった」


 少女は剣を鞘にしまう。

 ヒヤヒヤしたとは思えないほど落ち着いているように見えるのだが。


「モウ、シマセン」


 とりあえず、逆らうのはやめようと誓った。




 ということがあり、俺は手首を掴まれることとなった。少女の歩幅は小さく、それに合わせてゆっくりと歩いていく。


「なあ、俺はまだ死にたくないんだが」


「向こうにいる魔王よりわたしのほうが強いから、何も心配はいらないよ?」


 なんで言い切れるんだ。


「だけど、どうして死にたくないの?」


「どうしてって、死にたくないと思うのは普通だろ?」


「理由はないの?」


 理由……。



 死にたくない理由か。

 いざ言葉にしようと思うと、なんと言えばいいのかわからなくなるな。


 答えに詰まっていると、少女が質問してきた。


「夢があるから?」


「夢は、とくにない」


「世界を見て回りたいとか? したいことがある?」


「別に、やりたいこともないが」


「長生きしたいだけ?」


「いや、そういうわけでもない」


「大切な人がいるから?」



 大切な人――。



「……まあ、そうだな。それが一番しっくりくるかもしれない」


「大切な人と一緒にいたいの?」


「一緒にいたいというか、みんなに元気でいてほしいっていう感じだな。みんなが長生きしてくれたら、それでいい」


 村のみんなを思い浮かべた。



「俺の村は小さくて、年寄りばっかなんだ。若いやつらはみんなよそへ移って、誰も帰ってこない。魔王の根城が近くにある村になんか、誰もいたくないからな」


「どうして今村にいる人たちは、他の場所へ移動しないの?」


「みんな村が好きなんだ。生まれ育った場所だから出たくない人たちだけが残ってる。歳だから、どうせ死ぬならここで死にたいって、みんなそう言ってる。要は、頑固なんだよ」


「あなたの家族もそこにいるの?」


「ああ、両親と、ばあちゃんじいちゃんがいる」


「あなたは村の人たちが心配だから、村にいるの?」


「ああ。年寄りばっかじゃ、できねえこともあんだろ。一人くらい若者がいたほうが、安心することもあるだろうし」


「あなた何歳なの?」


「三十だ。そういうおまえは?」


「十五かな」


 若いな。


「そっか。ふーん」


 少女はなにか考え事をしているのか、しばらく黙ったまま歩いた。



「じゃあ、その大切なみんなが死んじゃったら、あなたは死にたくなる?」


 なんだその質問は。

 どうしていきなりそんなことを聞くんだ。


「おまえはなんてことを言い出すんだよ」


「今の話を聞いて、そうなのかなって」



 みんながいなくなったら――。

 


「そう、だな。そうなったら、もう生きる意味は、ないのかもしれないな」


 俺はふっと笑った。

 それだけで生きる意味を失くすなんて、我ながらどうかしてる。



「わたしと同じだね」


 少女はぼそっと呟いた。


 同じ?

 そういえば、まだこの子のことを何も知らない。


「おまえはどうしてこんなとこに来たんだ?」


「お姉ちゃんを探してるの」


「お姉ちゃん?」


「うん」


「わたしの故郷、魔王のせいで滅んじゃって、みんな死んじゃったの。でも、お姉ちゃんはどこかにいるの」


「そうだったのか。姉ちゃんは何歳だ?」


「二つ違い」


 もう少し詳しく聞こうとしたところで、目の前の道が開けていることに気がついた。



 ついに、魔王のいる場所に来てしまったのだ。




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