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第八話「赤帽魔法師の懸念材料」

 夕方になりゼクスたちは討伐を切り上げて国に戻る。

 ヴィヴィアンは帰国に同行せずどこかに消えていった。


 街の人々はゼクスたちを見て嬉しそうに声をかけ魔法祭のスコアの話で盛り上がる。

 しかし皆が手放しで喜ぶことはなく、ブリッジ・コアの白帽魔法師は不正をしているなどと陰口を言う者もいた。


 エノアが怒って市民と喧嘩しそうなり、慌ててロニたちがなだめる。

 ゼクスとイェナの近くにいるとどうしても陰口が聞こえてしまうため、一旦他のメンバーは二人と離れることとなった。


 ロニたちがエノアを引っ張って先にギルドへ戻り、ゼクスとイェナは魔法祭初日の晩餐のための買い物をする。

 その途中、後ろから男が話しかけてきてゼクスの肩に手を回した。


「おいおいゼクスくーん。つれないじゃあないか。黒帽大魔法師様を利用してポイント荒稼ぎするなら、俺たちも一緒につれてってくれよー」


 ゼクスは「利用」と聞いて一瞬眉を寄せるが、すぐに無表情に戻る。


 店前で数人の男達がゼクスとイェナを取り囲んだ。

 店員は怖がって巻き込まれないよう視線を下げる。

 ゼクスたちは不愉快に感じつつも、手は出さず黙っていた。


 魔法祭中、国の中で参加者が別の参加者に攻撃行動を取ると、罰則が下される。

 最悪は脱落処分となってしまうため、彼らのようにわざと他の参加者を煽って手を出させ脱落させようとする者もいた。


「黒帽と赤帽の腰巾着は楽でいいなー。ギルドの奴が魔獣を瀕死に追いやったところで、止めを刺してるんだろ?」

「帽逆の魔女はイカサマし放題だもんなあ? なあイェナ、お前のその力、いったいどういう仕組みなんだ? いま俺らに見せてみろよ」


 男の一人がイェナの腰に触れ胸を掴もうとした瞬間、ゼクスが拳を振るった。

 しかし当たる直前で誰かに手首を掴まれる。

 男の手もイェナの胸に触れる前に何者かに押さえられた。


 驚いてそちらを見れば、ゼクスの手をロクセスが、男の手をラフィリアが掴んでいた。


 ロクセスの碧眼に映るゼクスは冷めた表情をしていたが、瞳孔が開ききり惜しみなく殺気を放っている。


「ゼクス。顔、怖いぞ」

「……悪い」


 諭されてゼクスは体の力を抜き、ロクセスは手を離した。


 ラフィリアの方は相変わらず男の手を掴んでいる。

 笑顔でその力を少しずつ強くして、男は苦悶の表情を浮かべた。


「君たち、なんだか楽しそうなことやってるね」

「俺たちも混ぜてくれよ」

「ッ、赤雷の団長と光剣のリーダーが何でこんなとこに……チッ、帰るぞ」


 手を掴まれていた男は舌打ちをしてラフィリアの手を振り払う。

 恨めしそうに他の魔法師と共に去っていった。


 ロクセスはゼクスに視線を向け、肩をすくめてため息をつく。

 立ち話も程々に、ゼクスとイェナを誘って喫茶店に向かった。


「にしても、予想はしていたがやっぱ二人とも魔法祭に参加すると絡まれてしまうな」


 喫茶店でコーヒーを煽り、ロクセスは困ったように眉を下げる。

 丸テーブルを囲んでゼクスとラフィリアはソーダ、イェナはココアを飲んでいた。


「私たちが近くにいれば他の魔法師を牽制できるけど、ずっと一緒に居られるわけじゃないからね」

「いつも悪いな。ただまあ……ありがたいが、あまり俺たちを庇い過ぎるとお前たちも恨みを買うことになるぞ」


 四六時中、護衛につきそうな勢いの二人にゼクスは苦笑いする。


 魔法師たちの中にはゼクスを貶し嘲笑することでストレスを発散している者も多い。

 それを邪魔したとなると、矛先がラフェリア達たちに向いてしまうかもしれない。


「その辺は私もロクセスも、あまり気にしてないよ。だからできる限り君たちのサポートをする」

「なんでそこまで……」

「私たちは単純に君たちの強さを認めているから、君たちが悪く言われているのは嫌なんだよ」

「俺はお前と、いつか同じステージで戦ってみたい。それを邪魔する奴がいるなら、それは俺たちにとっても不利益な存在だ」

「同じステージねえ……二人とも買い被り過ぎだと思うがな」


 高く評価されていてゼクスは困ったように眉を下げた。

 投影魔法で魔法祭のランキング表を映し出す。


 四人のスコアはイェナが29700点、ゼクスは30150点、ラフィリアが51300点、ロクセスが54000点である。


「二万点差だねー」


 イェナが体を寄せてランキング表を確認してきてゼクスは驚く。

 顔が少し赤くなり、そんな彼を見てロクセスとラフィリアはわざとらしい笑みを浮かべた。


 二人の笑みにゼクスは目をそらし、咳払いして甘くなった空気を戻す。


「んんっ……初日のスコアを見ても差は歴然だろ。やっぱお前らには敵わない」

「そうとも言えないよ」

「むしろすぐ二人に追い越されそうでヒヤヒヤしてるところだぞ」


 ゼクスたちの点は、白帽魔法師ではどう頑張っても到底出せないものである。


 ロクセスは一等黒魔を六十体倒して、魔獣の巣窟を三つ破壊した。

 ラフィリアも同じように、黒魔五十数体と三ヶ所の巣窟破壊で加点されている。

 二人とも腐魔領域の正常化も試したようだが、腐魔に耐えられず途中で断念していた。


 彼らに追い付くには黒魔を何体も倒さねばならない。

 しかし赤帽はともかく青帽ですら黒魔の討伐は難しい。白帽ならもっと難易度は高くなる。


 世間的に二人の得点が高いのは、仲間の強い魔法師のサポートとおこぼれを貰っているからだと思われている。

 しかしラフィリアもロクセスもそうではないと分かっていた。


(この二人は、他者のサポートがなくても黒魔を討伐できる実力を持っている。今回ギルドの仲間がいたことでむしろ魔獣の得点が人数分に分散されているから、二人だけで討伐に行ったらすぐに逆転されかねない)

(魔獣だけじゃない。おそらくゼクスとイェナは腐魔領域の正常化を難なくできるはずだ。そうなったら逆に、俺たちが点を離される。そしてその点差を埋めるのは難しいだろう)


 ラフィリアとロクセスは、にっこりと微笑んでゼクスたちを見る。


「ゼクス、イェナ。今度は私たち『赤雷魔導士団』と討伐に出かけない?」

「俺も一緒に旅をしたいと思っていたから、『光剣の翼』に同行してみないか?」


 にこにこしている二人に、ゼクスは(こいつらめちゃくちゃ警戒してるな)と少し呆れた表情を浮かべる。

 しかしこの二人なら嫌ではないので、ふっと眉を下げて笑った。


「別にいいが、仲間たちのやる気が下がるかもしれないぞ」

「そこは団をまとめるリーダーの見せどころね」

「イェナは構わないか? もしかしたら無礼な発言をする奴もいるかもしれないんだが……」

「大丈夫っ。むしろロクセス達と一緒に討伐いったことないから楽しみだよ。お菓子もっていったら皆と一緒に食べられるかな」


 討伐部隊や旅団の人たちと仲良くなれたらいいなと、イェナは楽しみにしていた。

 純粋な彼女にラフィリアとロクセスは自身の顔を手で押さえる。


「イェナが楽しめるように団員たちに目を光らせておくね……」

「二人にとって楽しい思い出にできるように俺、頑張るわ……」

「アンタらは過保護な親か」


 ゼクスは二人の反応を見て呆れた表情でツッコんだ。



 魔法祭三日目、ゼクスとイェナは『赤雷魔導士団』と共に魔獣討伐に出かけた。


 魔導士団ということもあって全員が自動車を使わず、ほうきや飛行魔法を移動手段としている。

 先頭でゼクスたちがバイクで走る横を、ラフィリアがほうきに乗って並走する。


「団長は何でわざわざ白帽なんか連れてきたんだよ」

「絶対、足引っ張るだろ」


 後ろから団員たちの文句が聞こえてきてラフィリアは困ったようにため息をつく。

 移動しながら手元に魔法陣を出して通信魔法を全員に繋いだ。


「皆、事前に話したけどゼクスたちは同行者だよ。お客ではないから丁寧すぎる扱いはしなくていいけど、無駄な対立は自分たちのスコアを落とすだけだからね。ただ、魔法祭の通例通り自分の身は自分で守ること。同行者が危険な状況であっても君たちに助ける義務はない。そこで助けに行って団員に死なれたら団としての不利益につながる。同行者への救助と支援は、各自の判断に任せるよ」


 団員全員が同意の声をあげ、ラフィリアは通信魔法を切る。


 赤雷魔法師団は一番下でも青帽魔法師しかいない。

 団員は強い魔法師が多く、実力のない白帽魔法師への当たりが強い。


 支援は自己判断といったものの、おそらくほとんどの団員がゼクスたちに何があろうと助けないだろう。

 ラフィリアが団員に出した指示はゼクスにとって不利益なものだったが、彼へ視線を向ければ小さく笑みが返ってくる。


 ラフィリアは、ゼクスたちが支援なしでもうまくやっていけると信じていた。

 ゼクスも彼女の信頼を分かっていてそれを受け入れているのである。


(団員たちの信頼を得られるかどうかは、俺たちの行動と実力次第だな)


 やる気が少し上がりゼクスは口元に笑みを浮かべた。

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