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第六話「フォスト森林にて」

 ゼクスたちは、魔法師たちの波が収まってから国を出る。

 バイクを走らせながら西の方へ視線を向けた。

 多くの魔法師たちがそちらに向かっているのが見える。


「やっぱ西側に行く奴らが多いな」

「あっちは魔獣が大量発生しているけど、比較的倒しやすい二等赤魔がほとんどだからね」


 イェナは魔法で手元に世界地図を出す。

 地図に指で円をかくと、紙面上に魔法陣が浮き出てきた。

 そこに魔力を注ぎ、魔獣の探索魔法を付与する。


 魔法陣が消え、代わりに地図の中に点がいくつも現れた。

 点は黒や赤、青、茶に光っている。

 魔獣の等級を表すものであり、魔法で魔獣を感知した際に腐敗魔力の質と量から自動的に識別されるようになっていた。


 西側の山川や森には赤の点が密集している。

 その一帯は定期的に二等赤魔が出るところであり、赤帽もしくは青帽魔法師が無理をせずに討伐数を稼げる場所である。


「赤魔を十五体倒せば黒魔一体分にはなるが……」

「黒帽魔法師ならその間に黒魔を何体も倒すだろうねー」

「二ケタと三ケタじゃスコアを離されるだけだ。狙うなら黒魔のいるフォスト森林とアデクルス山、ニヴライト神殿か」


 地図の北側、ここからそう遠くない広大な森林地帯には黒い点がいくつか光っている。


「最初は、ここから一番近いフォスト森林だね」

「ああ。アイツらもそこにいるだろうしな」


 ゼクスは脳内に数人、知人を思い浮かべる。

 エンジンをふかし、北のフォスト森林に向かった。


 道中、横に投影魔法で画面が出現して司会が顔を見せる。


《皆々様! さっそくポイントをゲットしてる魔法師がいるよー!》

《続々とランキングに表示されていますねー。ですが、まだ一体も倒していないそこのあなた! 安心してください! 腐魔領域を正常化させればすぐ逆転できますよ!》


 ゼクスはセーズの極論に呆れた表情をする。

 もっともセーズを含めて皆、腐魔領域の正常化など簡単にはできないと分かっているためジョークとして流されていった。


 司会がずっと喋っていてうるさいので、ランキングだけ確認して画面を閉じた。


 しばらくして森林に入り、魔獣の反応がする場所へバイクを走らせる。

 しかしそこには車が停車していて、倒れた猪の魔獣を十数人の魔法師が囲っていた。


 屈強な男連中で、ほとんどが赤帽魔法師である。

 その中に二人ほど青帽魔法師がいた。


(先約か……まあスタートが遅かったからな)


 他より遅れて出国したので同じ場所を狙う者がいれば当然、先を越されるだろう。


 魔法師たちはバイクの走行音を耳にしてゼクスの方へ目を向ける。

 皆、唖然として、すぐに大きな声で笑い出した。


「ぶははは!! おいおい! こんなところに白帽がいるぜ!」

「どうしたー? 迷子か? ここは赤帽様と黒帽様の狩場だぞ」

「せめて狙うなら四等茶魔にしとけよ」


 馬鹿にされてはいるものの、二人とも特に表情を変えることはない。


(黒魔の発生区域なら、もう少しマシな奴らがいると思ったんだがな)


 ゼクスは内心ため息をつく。

 黒魔に対抗しうる黒帽魔法師の多くは、煽りや罵倒を無駄に喚かない。


 そして一等黒魔は他と違って危険度も高いため、討伐しに行く魔法師は赤帽であったとしてもそれなりに冷静な者が多い。

 それが、ゼクスが黒魔を狙う理由の一つである。


 面倒な魔法師との遭遇を避けるために上位の魔獣を狙ったが、どうやら思惑が外れてしまったらしい。

 初っ端からハズレが出た、と内心ぼやいていた。

 表情は変えないが目つきで呆れ具合がもれていて、男の反感を買ってしまう。


「なんだその顔は」

「いや、別に」


 至って冷静に返す。

 ここで何か言えば余計に面倒くさくなりそうで言い返したりはしない。


 その反応がつまらなかったのか男は投影魔法を使い、運営の映像を出してランキングを仲間たちに見せた。


「見ろよこのランキング表。コイツら二人だけまだゼロだってよ!」

「おいおい大丈夫かよ。早く魔獣倒さねえと昇級は見込めねえぜ?」

「ばっか、白帽はどれだけ頑張っても上位には入れないんだ。魔法祭の参加自体が無意味なんだよ。可哀想になあ」


 魔法師たちはニヤニヤと笑いながら円状にゼクスたちのバイクを囲み、何人かが拳銃をこちらに向けてくる。


 回転式拳銃のバレルに魔法陣が刻まれていた。

 少し距離があって陣の構成は明確に分からないが、おそらく威力強化の魔法陣だろう。

 その効果が付与されれば、通常の魔法結界は簡単に破砕されてしまう。


 バイクから下りるよう男が命令し、ゼクスたちは大人しく従った。


「いま持っている武器と金を全部出せ。銀行の預金も魔法でここに転移させろ」

「ギルドの給与は安定しているらしいからな。さぞ大金貯めこんでんだろ? これを機にお前らの資金を根こそぎ奪ってやるよ」


 ゼクスは大きくため息をつき、イェナと共に荷物を全て明け渡す。


 運営は魔法師たちの行動を中継・監視しているので、もちろんコレも見られている。

 しかし魔法祭において、禁止されているのは殺害行為のみ。


 魔法祭の一か月間、強奪などの犯罪行為は国の外で行われたものに限り罪に問われない。

 この期間中は外が無法地帯になるのである。

 祭事が終わったあとも処罰は下されない。


 ただし前述したように、魔法師たちの行動は全ての国で中継されている。

 利得のために他の魔法師たちを襲うのは良いが、その分、国内で観戦している市民たちからは嫌われてしまう。

 もっともそういうことをする者は、市民からの評判など気にしていないだろうが。


「イェナは置いてけ。コイツの力は使えるからな」

(やってること賊じゃねーか)


 ゼクスは男たちの要求を聞いて呆れてしまう。


 イェナのことは彼女自身に任せるため、ゼクスは視線だけ彼女に向けて黙っていた。

 イェナはその視線で、発言を促されているのを察して男の方を見る。


「普通に嫌だよ? 私はゼクスと一緒に魔獣討伐したいから」


 イェナは怪訝そうな顔をして、臆せず平然と言ってのけた。


「だそうだ」


 ゼクスも彼女がどう返答するかは分かっていたので淡々と男へ言葉を投げる。

 しかしだからといって、男たちが自分よりも下級の魔法師相手に引き下がることもなく。


「お前ら自分の立場分かってんのか? お前らみたいな羽虫、俺らはいつでも殺せるんだぞ」


 長身の男が円陣の中に入ってゼクスに近づき、右手で彼の襟首を掴み上げた。


 ゼクスは少し不快げに顔をしかめ、一瞬イェナへ視線を向ける。

 彼女が小さくうなずくと、ゼクスは男の手首を押さえた。

 瞬間、ボキッと骨折音が明確に響く。


 男の手に力が入らなくなって、そこからゼクスの襟がするりと落ちた。

「は?」と男は間抜けな声を出して視線を手の方へ下げる。


 右手首の全ての骨が粉砕され、力なく垂れさがっていた。


「味方以外にヘタに近づくからだ。たとえ弱そうな相手でも、もうちょい警戒心もてよ」

「てめえ!! がふッ!!」


 ゼクスは殴りかかられ、男の拳を腕で流して体勢を崩し下から顎に掌底を打ち当てた。

 強い衝撃で歯茎から血が出て脳が揺れ、男はふらついて地面に後ろ向きに倒れてしまった。


 対格差があるのにゼクスが相手を一瞬で伸してしまい、周りの魔法師たちは驚いて固まっていた。

 男は軽くうめいて地面にうつ伏せになり、目頭に涙を溜めゼクスを睨む。


「お前、なんでっ」

「なんでって……確かに俺は魔力がないが、別に戦えないとは言ってないぞ。あと、お前らと同じもん使っただけだ」


 ゼクスは少し舌を出して右手の平を見せる。

 そこには、男たちの拳銃にあるものと同じ、威力強化の魔法陣が描かれていた。


 男は驚愕して目を見開く。


「だがその魔法を使っても魔力がカスみたいなお前にさっきの威力が出せるはずねえだろ!」


 男は困惑したように吠えた。


 威力強化魔法の効果は、陣に注ぐ魔力量に左右される。

 大幅に増強するのだとしたら、相応の魔力を込めなければならない。

 地で保有魔力の多い者以外はコスパの悪い魔法である。


 理論上、ゼクスの持つ魔力量では発動することができない。

 そこでゼクスは帽逆の力でイェナの魔力を自分の身体に入れ、それを使って普通の打撃では与えられない衝撃と痛みをお見舞いしたのである。


 だが男たちは帽逆の魔法師をイェナだと思っているので、まったく状況を理解できていなかった。

 ゼクスは殴ってきた男に一歩ずつ近づき、彼は少し怯えて後ずさりする。


「おい動くな! お前が一時的に格闘で強くなろうが、こっちは銃持ってんだよ」


 周りが我に返ってゼクスとイェナに銃口を向けた。しかし二人とも特に焦った様子もない。


「別に撃ちたきゃ撃てばいい」

「は、はあ? お前も見えてんだろ。この銃にはお前がさっき使った威力強化魔法が付与されるんだよ。結界じゃ防げねえぞ!」

「だろうな」

「だろうなって……」


 ゼクスが平然と突っ立っていて、銃を持つ魔法師たちは戸惑ってしまう。

 倒れた男はゼクスの行動に違和感を覚えて考え込む。


(なんだ。何でコイツ、こんなに冷静にしてやがる)


 そして、ある予想が浮かんで目を見開いた。

 仲間の魔法師の一人が業を煮やして射撃しようとして。


「そんなに撃たれたきゃ、やってやるよ。存分に鉛を味わえ!!」

「! 待てッ!!」


 男がすぐに発した制止の声もむなしく、銃口から弾丸が射出される。

 それと同時に、ゼクスは倒れた男の襟を掴んで持ち上げ盾にした。


 男の胸に着弾して血が吹き上がり、一緒に男の濁った悲鳴が森に響き渡る。

 弾は彼の肉体を貫通するが、軌道がそれてゼクスの身体の横を通り抜ける。


 そして、その先で円陣の一つを担っていた魔法師が被弾して、また一つ悲鳴が上がった。


「せっかく徒党組んで敵を追い込んで、銃まで持ってたのに。わざわざその射程圏内に入ったら円陣の意味ねえだろ。何してんだよ」


 ゼクスは呆れて、盾にした男を魔法師たちの方に投げる。


「『俺からは』何もしていないからな。そいつが死んでも俺を殺人罪には問えないぞ」

「お、お前ギルドの従業員だろ! 普段の利用者に対してこんなことして良いのかよ! ギルドの名に傷が付くぞ!」

「いや、強盗するような奴に加減とかしないって。つか早く治療してやれよ」


 ゼクスに促されて魔法師達は男の治療するが、相変わらずゼクスに吠える。


 何人かが剣や拳で、魔法を放ってきた。

 ゼクスとイェナは近距離攻撃を避けて魔法師を蹴り飛ばし、結界を張って魔法を防ぐ。


「お前らちょっとは静かにしろよ。そんなギャーギャ叫んでたら……」


 ゼクスの言葉を遮るように、地面が揺れて重低音が響いた。

 その場にいた全員が動きを止め、辺りを見回す。


 周囲をいくつもの影が現れ、十数体の一等黒魔がゼクスたちを取り囲んだ。

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