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第十四話「帽逆の代償」


 一箇所に何体ものドラゴンが集まって四方からの攻撃が止まず、灯聖騎士団も光剣の翼の面々もうまく動けずにいた。


「敵を引き剥がすぞ!」


 ベルバレットが声を上げ、彼とゼクス、ロクセスとハオランがそれぞれの竜に強烈な魔法を放って引き離した。


 ノーマゼイトはクレイオスと灯聖騎士団の十数名が抑え込み、他の騎士団員とハオランでハスティエイトを叩く。

 ロクセスと光剣の翼の面々はクゥインチネイトに対峙していた。


 ヘルヒャタイトは灯聖騎士団の茶髪の男性と残りの団員が討伐に当たる。

 ヒュドレイト三体はゼクスとイェナ、ベルバレットと光剣の翼のメンバーで討伐を試みた。


 ヒュドレイトは毒性魔法が使えるため、毒にあてられて戦えなくなる可能性が高い。

 ゼクスとベルバレットは防毒特化の結界魔法を全員に張った。


「シグニス! セノン!」


 イェナが先行してヒュドレイトに光属性の砲撃魔法を一発放つ。

 撃たれてひるんでいる隙に背後に転移し、光属性の打撃魔法を打ち当てて地面に叩きつけた。


 ベルバレットはもう一体のヒュドレイトの上に転移し、剣を振り下ろして斬り込む。

 光剣の翼の面々が援護し、ゼクスは三体目のヒュドレイトに電撃魔法を放った。


 三体が同時に上空に飛んで距離を取り、高火力の闇魔法を放つ。

 皆に張られた防毒結界が魔法を弾くが、結界はボロボロになってしまった。


 連続で今と同じ火力を受ければ防ぎきれない。

 だがヒュドレイト三体とも続けて同じ魔法を放とうとしていた。


 ゼクスは舌打ちして帽逆の力でヒュドレイトの魔力を奪い、魔法を発動できないようにする。

 しかし帽逆を使った途端、嘔吐感に襲われて口元を手で覆った。


(ぐっ……やっぱり、慣れないッ)


 めまいがしてふらつき地面に膝をつく。


 魔獣は腐敗魔力で構成されているため、体内にある魔力ももちろん腐敗しきっている。

 魔獣相手に帽逆を使えば、彼の体に腐敗魔力が流れ込んでくる。


 腐魔は瞬く間に全身に広がって肉体を中から食い散らかし、身体に異変を引き起こしてしまうのである。

 その腐魔を体内で浄化することで、ようやく魔獣から奪った魔力を自身が使えるようになるが、浄化に時間がかかりその間に体は蝕まれて激痛を伴う。


 帽逆で魔獣の魔力を奪っても、そう簡単に魔力を使えるわけではなかった。

 しかも今はヒュドレイト三体分の腐魔を体に押し込んでいる状態で、ゼクスは体を少し動かすことすら難しい。


 ヒュドレイトがゼクスに鋭い爪を振るい、ベルバレットはすぐに彼へ結界を張る。


(やはり、帽逆の力も万能ではないか)


「お、おい大丈夫か!」


 光剣の翼のメンバーは守るようにしてゼクスの前に出て、ヒュドレイトに攻撃をしかけ牽制する。

 ヒュドレイトは魔法が使えず、手足や牙や尻尾などの物理攻撃を繰り返していた。

 光剣の翼の者たちは竜の動きに怪訝そうにする。


「どういうことだ。ヒュドレイトが魔法を撃ってこなくなったぞ」

「ヒュドレイトは、毒性魔法が厄介だから、たぶんイェナが帽逆使ったんだろ。魔法は使えなくなってる、はずだ」


 ゼクスは荒い息を吐きながら魔法師たちの疑問を嘘で流す。

 冷や汗を流し、頭を押さえて立ち上がった。


「お前、急にどうしたんだよ。本当に大丈夫か?」

「気にするな。ちょっと腐魔酔いしてるだけだ」


 また嘘をついて剣を握るが、一歩足を前に出すのもやっとで今は戦える状態ではなかった。


 一体はイェナが制止し、もう一体はベルバレットが食い止める。

 しかし先ほどまでゼクスが相手取っていた一体は、他の魔法師では抑えきれなかった。

 そのヒュドレイトが魔法師たちを尻尾で薙ぎ飛ばし、大きく口を開けて前方にいる魔法師に食らいかかる。


「うあああ!!」

「ッ!!」

(ダメだ間に合わない!)


 魔法師が悲鳴を上げ、イェナとベルバレットはそちらへ目を向ける。

 しかしヒュドレイトは既に魔法師の目の前で。


「――ヒドラ」


 ゼクスが短く術の名を口にした。


 瞬間、地面に巨大な黒い魔法陣が刻まれる。

 地面から黒紫の大蛇が大量に現れ、三体のヒュドレイトの肉体を食いちぎった。


 襲いかかられていた魔法師は間一髪のところで助かり、恐怖と困惑で地に尻をつく。


「これは、ヒュドレイトが使う魔法……」


 ベルバレットはゼクスの魔法に驚愕していた。


 「ヒドラ」は魔獣ヒュドレイトだけが使うことのできる闇属性の魔法である。

 しかし彼が驚いているのはそれだけではない。


 闇魔法は普通に発動するときも他の属性より必要魔力量が多い。

 範囲を広くし速射性や威力を高めようとすればさらに多くの魔力を要する。


 今ゼクスが放った魔法には通常の倍以上の魔力が込められていた。


「ベルさん、ゼクスは凄いでしょ。何かあっても大丈夫だよ」

「……ああ、確かに凄い」


 だが、とベルバレットはゼクスの方へ視線を向ける。

 彼は荒い息を吐いて冷や汗を拭い、地面に腰を下ろした。


 ヒュドレイトから奪った魔力を使い切ってしまったらしい。


(おそらく今のゼクスには、魔力粒子が一粒も残っていない……倒せたから良かったものの、魔獣が残っていれば命取りになる)


 ベルバレットは眉を寄せて大きくため息をついた。


 大蛇に食い散らかされたヒュドレイトの肉片が、紫の液体を散らしながら地面に落ちて音を立てる。

 安心したのもつかの間、三体分の肉片が一ヶ所に集まって一体分のヒュドレイトの肉体を再構築し、近くにいたベルバレットを勢いよく横に叩き飛ばした。


「ベルさ……ぐッ!」


 イェナは名を叫ぶが一瞬でヒュドレイトに背後を取られてしまい、彼女も薙ぎ飛ばされてしまった。


 イェナは木に衝突して地面に滑り落ちる。

 咳と共に血を吐き出し、頭からも血が流れて片目をつむった。

 もう片方の緑眼には、よだれを垂らしながら近づくヒュドレイトの姿が映る。


 帽逆で魔力を奪われたヒュドレイトは魔力量の多いイェナから魔力を奪うため、他の魔法師には目もくれず彼女に猛攻を叩きつけた。


(さっきよりも、力が増している)


 イェナは結界で防御するが、たびたび結界が破壊され再生成を繰り返した。

 魔法を発動させる余裕もなく、足の骨が折れて体中に痛みが走り、動けず逃げることもままならない。


 ベルバレットは血を流し、足を引きずりながらイェナの近くに来る。

 それと同時に、彼女の結界が配され、わずかに隙ができてしまった。

 ヒュドレイトの巨手が振り上げられる。


「イェナ!!」


 ベルバレットが叫び魔法を発動させようとする。

 しかしそれより早く、ゼクスが彼女の前に来てヒュドレイトの爪を剣で受け止めた。

 圧を受けてゼクスは後ろに押される。


(ダメだ。帽逆で入れ替えた魔力はさっきので使い切ったはず。魔法を発動できるほどの魔力はない。今の彼にアレは倒せない。だからこういうとき帽逆は危険なんだ!)


 結界を張ってもすぐに壊される状況のなか、剣だけで特定警戒魔獣を倒すのは不可能。

 そうベルバレットは心中で断定し加勢しようとした。


 だがゼクスはヒュドレイトの手を剣で横に流し、襲い来る尻尾を上に大きく跳び避ける。

 体が浮いたままヒュドレイトの頭上に片手を置き、体を反転させて竜の固い肉体に剣を突き刺した。


 ヒュドレイトが濁った声を大きく響かせ暴れ回る。

 ゼクスは飛び降りてヒュドレイトの腕を近距離で斬り付け、攻撃を避けながら着実に竜の硬質な四肢と尾に傷を刻んだ。


 普通、竜体は特殊な武器や魔法でしか切り離すことができない。

 だが時間はかかりながらも、ゼクスはヒュドレイトの四肢と尾を斬り飛ばした。


 攻撃も移動もできなくなったヒュドレイトに最後の一撃を振るう。

 竜体が大きく斬り裂かれ、紫の液体が大量に噴きあがった。


 勢いよく飛び散る紫の液体はベルバレットの頬を濡らす。

 彼は目の前の光景に驚愕して固まってしまっていた。


 イェナは自分に治癒魔法をかけながらベルバレットの方へ向く。


「ねっ? 大丈夫だったでしょ。ベルさんと同じで、ゼクスって凄く強いんだよっ」


 凄いでしょー、とイェナは自慢するように胸を張って笑った。


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