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第十三話「ニヴライト神殿」

本日2回更新。22時に次話更新します。

 ニヴライト神殿に近づくごとに大気魔力量が多くなり、その中に腐魔が混ざって滞留していた。


 神殿から少し離れた場所に船を停車させ、見張りを数人残して下船する。

 右手側に別の飛空艇が見えた。


 ロクセスたちのものよりかなり大きく、細かい装飾や金のラインが入る豪華な飛空艇である。


「やっぱあの人も来てるか……」


 ゼクスは苦い顔をして呟いた。


 この豪華な船は、おそらく灯聖騎士団が所有しているもの。

 ということはベルバレットも神殿に来ているのだろう。


 ロクセスが辺りを見回すと、木々に隠れて小型のヘリコプターや自動車が停められていた。


「他の魔法師たちも来ているみたいだな。なるべく協力できるといいが」


 神殿の方へと歩いていき、近づくにつれて剣戟の音や魔法の衝撃音が聞こえてくる。


 既に魔物と戦っているのだろうと予測し、ロクセス達は魔法で武器を出して神殿へ走り足を速めた。

 しかし到着して見えたのは、予想とは違った光景だった。


 神殿では灯聖騎士団や他の参加者たち数組が戦いを繰り広げていた。

 灯聖騎士団以外のパーティや単独で参戦している魔法師もいて、それぞれが自分以外の魔法師を攻撃している。


 魔獣も現れるためその対処もしているが、他の魔法師が邪魔をして横取りしたりと混戦していた。


「おいおい、得点になるのは魔獣討伐だけだろうが」


 戦闘の衝撃音に混ざって怒声が飛び交いゼクスは呆れてしまう。


 応戦していたベルバレットがゼクスたちに気づき、襲いかかってくる魔法師達を風魔法で吹っ飛ばした。


「君たちも来たのか」

「ベルバレットさん……」


 冷めた目を向けられてゼクスは苦い表情を浮かべる。

 ベルバレットは一度イェナへ目を移し、ゼクスに視線を戻して剣を突き向けた。


「悪いが、君たちにも黒魔は渡さないよ」

「……別に気にしなくていいですよ。俺たちは遠慮なく、自分から狩りに行くんでね」


 ゼクスが手を微動させ、ベルバレットの背後に魔法陣が出現する。

 そこにはガーゴイルの魔獣がいて後ろから彼を攻撃しようとしていた。

 しかしそれより先にゼクスが斬撃魔法でガーゴイルを斬り裂いた。


 ベルバレットはガーゴイルに気づいていず、後ろで斬撃音と落下音がして驚き目を見開く。

 しかしフッと口元に笑みを浮かべた。


「そうこなくちゃ、張り合いがない」


 ベルバレットは襲いくる魔法師や魔獣を蹴散らしていく。

 他の魔法師もゼクスたちに気づいたようで魔法を放ってきた。


 ゼクスは味方のいる範囲で結界を生成して魔法師の攻撃を防ぐ。

 魔法師だけでなく周囲から赤魔や黒魔も襲いかかってきて、ロクセスやミェンリンたちも応戦し始めた。


 戦いながら、ベルバレットはイェナが気になるようで彼女の様子をうかがう。


 魔法師がナイフでイェナに斬りかかり、彼女は横に避け魔法師の手を強打してナイフを落とす。

 腹部に膝蹴りを入れると魔法師は濁った声をもらして倒れてきた。

 イェナは魔法師の身体を支え、そこに二体の黒魔が襲いくる。


「イェナ!!」


 ベルバレットは邪魔な魔法師を蹴り飛ばし魔法を発動させようとする。

 だがそれよりも早く、イェナが魔獣の一体を電撃魔法で倒した。


 魔法師を片腕で抱えながら、もう一体の魔獣の攻撃を一歩下がって回避する。

 地面に落ちているナイフの柄を勢いよく踏んで上に飛ばし、手に取って即座にナイフで魔獣を斬り倒した。


 彼女の判断の速さや回避と攻撃の動きは戦い慣れた人間のもので。

 ベルバレットは今まで、イェナの戦いを間近で見たことがあまりなかったため唖然としていた。


「ベルさーん! お互い頑張ろうねー!」

「あ、ああ……」


 人に攻撃されて魔獣に襲われている状況だというのに、イェナは笑顔で手を振っていた。

 少し離れた安全な場所に魔法師を置いて魔獣討伐に戻る。


 彼女は他の魔法師の攻撃をいなし、光剣の翼のメンバーを守りつつ、仲間と連携を取って楽しそうに魔獣を狩っていた。


「なんかあの人、楽しそうっすね」


 灯聖騎士団のクレイオスはイェナを少し呆れた様子で見ていた。


 茶髪オールバックの黒帽魔法師がベルバレットのそばに来てイェナの戦いを目に映す。


「団長は俺らにすら詳しい事情を話してくれないが……あの子を監視下に置いたら、あの笑顔を見られる機会は少なくなりそうだな」

「……分かっている」


 ベルバレットは苦い表情で目をそらし、逃げるように戦いに戻った。


 灯聖騎士団も光剣の翼もゼクスたちも、他の魔法師を殺さないように調整している。

 しかしミェンリンだけは、他の魔法師を殺すほどの魔法や物理攻撃をためらいなく放っており、ゼクスとイェナが止めに入っていた。


 敵対する魔法師に威力の高い魔法で応戦しているおかげか、敵対者たちは徐々に後退している。

 しかし魔獣の数は全く減る様子がない。


「腐魔領域じゃないのに、どっからこんなに魔獣が生成されているんだ」


 ゼクスは疑念を覚えて呟く。


 突如、大気中の魔力が波打ち荒れ始めた。

 その場にいる皆が大気魔力の荒れに影響され、頭を割られるような激痛が走る。


 頭を押さえて地に膝をつき苦悶し、悲鳴や唸り声が飛び交う。

 耐えられない者は気絶してしまっていた。


 しかし魔獣には影響がないようで、ためらいなく攻撃を仕掛けてくる。

 ゼクスは頭を押さえ眉を寄せながら、敵味方含めて全員に結界を張った。


「ッ、大気魔力が……いったい何なんだよ」


 大気魔力の荒れに呼応するように神殿の中央から多量の魔力が生成され始めた。

 急激に飽和状態になり、大気中の魔力が衝突して一気に腐敗していく。


 膨大な腐敗魔力が周囲を浸食して、ニヴライト神殿一帯が腐魔領域と化してしまった。

 頭を襲う激痛はなくなるが、腐魔領域化したことで周囲に一等黒魔が大量に生み出されている。


「何で急にこんな大量の魔力が」


 ゼクスが全体を覆う結界を複数張り直すなか、ベルバレットは驚いて神殿の中央へ目を向けた。

 中央にはわずかだが、空間に何か亀裂のようなものが入っているのが見える。


「まさか……こんなに早くに崩壊が始まったっていうのか」

「崩壊? いったい何のことだよ」

「それは……」


 ゼクスに問われてベルバレットは言葉を詰まらせる。

 黙ってしまったその合間に、魔法師が「おいアレ!」と声をあげて上空を指さした。


 全員の視線が上に向き、ゼクスは目を見開く。

 神殿の上空で、特定警戒魔獣のドラゴンが何体も飛んでいた。


 風属性の特性を持つ緑の飛竜ハスティエイトと青い水属性の飛竜クゥインチネイト、火属性の赤いルニベデイト、光属性の白竜ヘルヒャタイト、土属性の茶色い飛竜ノーマゼイトが一体ずつ。

 闇属性の黒竜ヒュドレイトは三体もいた。


「ドラゴンが、八体も……」


 呆然としていた魔法師たちは状況を理解し叫び声を上げた。


 普通、特定警戒魔獣が同じ場所に現れるのは多くて二体までである。

 おそらく急増した腐魔が原因でこれほどの数が生み出されてしまったのだろう。


「特定警戒魔獣がこんなに……お、おい! 撤退だ!!」

「どうせこいつらは点稼ぎにはならないわ! 私たちもさっさと逃げるわよ!」


 特定警戒魔獣は得点に直接関係がないため、魔法師たちは身の安全を考えて続々と撤退していく。

 しかしゼクスたちと、灯聖騎士団の面々はその場から動こうとしない。


 この数の特定警戒魔獣が一挙に襲撃してきたら国はすぐに滅びてしまう。

 このまま放置できず、ゼクスたちにとっては魔法祭の成績など二の次だった。


 ゼクスとイェナ、ベルバレット、ロクセス、ミェンリンは同時に同じ魔法陣を展開させる。


 神殿周囲を覆うように、五人分の結界が生成され四層の壁になった。


 それは外からの攻撃を遮断する結界ではなく、内側からの攻撃やあらゆるものを外に逃がさない効力を持っていた。

 特定警戒魔獣との戦闘で周囲に影響が及ばないようにするためである。


 ゼクスたちは全員、強化した武器を生成し構えた。


「ルニベデイトは私に任せて。他の人たちはそれ以外の竜を」


 ミェンリンは一人でルニベデイトを仕留めるつもりらしい。

 いくら精霊イフリートの転生体であっても、特定警戒魔獣を一人で倒すのは厳しいだろう。

 ゼクスは彼女の提案を却下しようとした。


「イフリートの生まれ変わりでもさすがに危険すぎる」

「大丈夫。あまり明かしたくはなかったけど……精霊はそれぞれ己の属性を支配できるの。イフリートの私だったら、火を操り火属性の魔法に干渉することもできる」


 魔法の威力低減や発動阻止だけでなく、火属性魔法の陣を書き換えることも暴発させることも可能なのである。

 彼女相手では一等黒帽魔法師であっても、火属性魔法だけで戦うと勝ち目はない。


 ミェンリンならルニベデイトのブレスの火砲も、放つ火属性魔法も抑え込めるだろう。


「他の赤帽魔法師や黒帽魔法師なら苦戦するかもしれないけど、私ならルニベデイトを簡単に制圧できる」

「……分かった。無茶だけはするなよ」

「君こそね」


 ミェンリンはルニベデイトに向かって氷魔法を放つ。

 結界で防がれてしまうが、背後に転移し強烈な蹴りを入れた。

 ルニベデイトが遠くに吹っ飛ばされ、ミェンリンはそれを追う。


 他の竜たち彼女を追撃しようとして、ハオランが電撃魔法で妨害した。

 それを合図に皆が攻撃に移った。

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