「『察する』と『自分ならこうする』は万能ではない」と彼女は言った
「『それって、保険金殺人の話ですか?』と彼女は言った」(https://ncode.syosetu.com/n2640ir/)の続編のような話。これだけでも読めます。
自己責任でお読み下さい。
つまらない場合の感想は不要です。
主人公以外がイニシャルなのが読みにくいという御意見がありましたが、続編はあまり読まれないと思いますので、そのままにします。すみません。
昼休み直前にかかってきた電話への対応を終えた宮前早苗が、社員食堂に来ると、もう空いている席が無かった。
「宮前さん。こっち、良かったら」
キョロキョロしていると、同僚達にはまだ内緒で付き合っている営業のN島が、声をかけてきた。
N島は、同じく営業主任のS本と向かい合わせに座っている。
(あっ、どうしよう?)
そう思ったのは、交際を秘密にしているからというよりは、同じテーブルにK崎も居たからだ。
研究部の才媛、K崎は、ちょっと癖のある人物だ。
正しい事は正しいが、面と向かって口にするのは憚られる、そういう事を強調して言ってしまうところがある。
数か月前、早苗は、この食堂でまさにそんな場面に出くわしてしまった。
尤も、それがきっかけで、N島と付き合い出したのだが。
とは言え、空いている席は他に見つからず、声をかけられたのに断るのもおかしいので、素直にN島の方へ向かった。
先に居た3人へ目礼して、食べ始める。
雲行きが怪しくなったのは、それからだ。
「はぁ」
S本が、ため息を吐いて、箸を置いた。見ると結構、食べ残している。
「今日、なんだか元気ないですね。体調でも悪いんですか?」
N島が気遣う。
「実は、昨日、奥さんと喧嘩しちゃってさ」
S本が話し出した。多分、元々聞いて欲しかったのだろう。N島は結構聞き上手なのだ。
(穏便な話だといいな)
早苗は、チラリとK崎の方を見る。今は黙って食事をしているだけだが、口を開いた時の彼女の攻撃力は高い。発揮される機会がなければいいと思う。
「奥さんとは、前から子供2人目が欲しいって話をしてたんだけどさ。
奥さんの勤め先、忙しそうでね」
興味は無いが、S本が既婚で、妻が社外の人間だとは知っていた。
N島が頷きながら聞いている。
「それで、気を遣って、言ったんだ。『仕事辞めたら?』って。
そしたらさ、『私の事、なんだと思ってるの!?』って。それっきり、口きいてくれなくなったんだよ。酷くないか? こっちは親切で言ってるのにさ」
「え?」
思わず、声が漏れた。S本の様子を窺うと、聞かれずに済んだらしい。ついでにK崎の方を見ると、少し目が丸くなっていた。
「それは……、だって、奥さん、やりたくてやってる仕事なんですよね?」
N島は、S本の妻の事情を多少なりとも知っている様だ。
「そうだけど、他にどうしようもなくないか? 男は子供産めないんだし。
ああ、そう言えば、前にも同じ様な事、あったんだよな。奥さんが熱を出した時、洗ってない食器の事を気にしてたから、『熱が下がったら、洗えばいいよ』って言ってあげたんだ。
でも、やっぱり、しばらく無視されるようになって。具合が悪いからかなって思って、放っておいてあげたら、起きられる様になってから、『私の事、なんだと思ってるの?』ってさ」
S本との心理的な距離はもう、この社員食堂の端から端位までは離れているが、残念ながら物理的な距離は変わっていないので、こちらの反応に構わず話す声は十分に届いていた。
「もしかして、結局、食器、洗ってあげなかったんですか?」
たまらず口を挟んでしまう。
「看病は、流石にしましたよね?」
N島が恐る恐る尋ねる。
「え? 起き上がれないみたいだったから、お義母さんを呼んであげたよ。その時に、食器も洗ってくれてた。
でも、本来、本人の仕事じゃない? 仕事だって、急ぎだったら他の人に頼まざるを得ないけど、それ以外は残してもらって、復帰後にやるよね?」
悪びれないS本。
「それは、じゃあ、奥さんが悪いですね」
何とも言えず固まる早苗達に、K崎のため息交じりの声が響いた。
「あ、そう思う?」
S本が嬉しそうに、K崎を振り返る。
「ええ、思います。自分の結婚相手が、常識の通じない人間のクズだって分かった時点で、リスク回避行動を取らなかったから、今、人権を剥奪される様な事態になってるんですよね」
(言葉のチョイス! 言葉のチョイスが強すぎるのよ! 言ってる事は、尤もなんだけども!)
妙に明るいK崎の声で、数か月前の出来事がフラッシュバックする。あの時も、その場に居合わせず他人事として聞く事が出来たなら、さぞ痛快だっただろうが、リアルタイムで聞くには胃に悪い事件だった。
「え? 人間のクズ? 人権を剝奪? ちょっと何言ってるか分かんないんだけど? ああ、そう言えば、K崎さんて、サイコパスって話だったね。納得」
一見すると穏やかなままの表情のS本が怖い。
(どっちの言葉も酷い! 胃が痛いよ。何でまた、こんな事に!?)
「私がサイコパス云々の話は置いておくとして、ご存知ないんですか?
職業選択の自由は、基本的人権の1つですよ。そんなものを、平然と妻から奪っておいて、人間のクズの自覚が無いとか、どういう認識なんですかね?」
K崎も笑顔は全開だ。
「『仕事辞めたら?』って話? そんなのそれぞれ家庭の事情だろ? そんな事に首突っ込んでくるなんて、本当にサイコパスだよね」
「S本さん、それは無いでしょう。自分から話し始めた事じゃないですか。それでサイコパスは言い過ぎじゃないかと。奥さんの話は、戻って聞きますよ」
意見を言うのが苦手だった、N島が取りなす。先日、主任になってからは、言うべき事を言う様に心掛けていると言っていたのが思い出される。こっそり応援した。
「そうだ。奥さんの事、どうしたらいいと思う? せっかく気を遣ったのにこれじゃ、どうしたらいいか分かんないよ」
(戻って聞くって言われてるのに……)
「馬鹿馬鹿しい。『仕事辞めたら?』が気遣いのセリフなんだったら、奥さんに子供産んでもらって、自分が仕事辞めて育てればいいだけじゃないですか」
K崎が吐き捨てる様に言う。
「は? K崎さん、本当に分かってないよね。それじゃあ、解決しないでしょう。男が仕事辞めて、どうするの?」
「S本さん、戻りましょう。そういった事が関係する話もありますから」
N島が、何かを決意したような表情で言う。
「何? 関係あるんだったら、ここで聞くよ。後ろめたい事なんかないし」
「本当にいいんですか? ……はぁ。じゃあ、言いますよ。営業アシスタントのM井さんに、個人的にお茶を淹れさせるの止めて下さい」
途中でS本の反応を見て、N島が話を切り出す。
「え? その話、何が関係あるの? お茶出しは、M井さんの仕事だよね?」
(分かってないんだ。ジェンダーの問題だって)
確かに少し唐突な話ではあるけれど、それ以上にS本の認識に呆れてしまう。
「M井さんがお茶を出すのは来客があった時だけです。だから、茶葉も会社の経費で購入してるんです」
「……経費なのは知ってたけど、皆やってただろ? なんで僕だけ?」
「各個人が自分で淹れてる分には目溢しされてたんです。でも、S本さんは、M井さんに命令してますよね」
「え? あれは、好意だろ?」
N島の話が全く分かっていない様子のS本。
「フッ」
K崎が鼻で笑った。早苗も同じ気持ちだった。
「はぁ……。M井さんが課長に相談したんですよ。パワハラだし、セクハラだって。それで、どうしたらいいのかの話し合いに、僕も加わってまして。今のところ、M井さんにアシスタントから、営業になってもらう方向で話が進んでます」
今の営業課長は最近、異動したばかりである。元の経理部に居た頃は、営業部からの書類に不備があったり遅れたりが多い事に、憤っている事が多かった。
「え? じゃあ、アシスタントはどうするんだ? 見積とかの書類作成や、お茶出しは誰に頼めば?」
「書類作成は営業の各個人でする事になります。増えた仕事の分は、M井さんが営業に回るのでシェアしてもらう方向で。お茶は、茶葉ではなく、ペットボトルにすれば、在庫管理だけで済みますから」
同じ仕事量を同じ人員で回すのだから大丈夫、というN島。
「いやいや、営業の仕事は、どれだけ顧客抱えられるかが肝だろ? それだと、客先が多いほど、雑用も増えちゃうじゃん。書類作成なんかより、取引相手を増やす方が重要だろ?」
まるで、S本の抱えている顧客の数が突出して多い様な言い方だが、そうでもないという話を聞いた事がある。
「ちゃんと会社の利益になる案件が優先、自分の書類も作れない人間が取ってきた仕事じゃあ、現場を混乱させるだけだ、という話を課長が上にしています」
「いやいや、儲けの少ない仕事でも、恩を売る事で、次に繋がったり、じゃない?」
「見積も自分で書けなかったら、儲けが多い少ないは分からないんじゃないですか?」
営業の2人の会話に、さらりとK崎が口を挟む。睨んだS本だったが、N島の同意を見て止めた。
「で、でも、今までやった事が無いから、皆も、やり方が分からないだろ?」
旗色が悪い事を分かってきたらしいS本だが、往生際も良くない。
「今いる人員には順次覚えてもらって、今後は新人が営業に配属されたら、まずアシスタント業務から入ってもらう予定です」
「ああ、じゃあ、その新人にやらせればいいのか」
S本は、この期に及んで、自分は覚えなくていいと思っているらしい。
「皆が覚える前、新人がくるまでの過渡期は、S本さんに覚えてもらって対応してもらう話になっています。M井さんに教わって下さい」
N島が常ならず、冷たい声で答える。
続きは戻ってから、とN島が言って、二人は食堂を去っていった。
なんとなく取り残された早苗は、K崎の方を見る。目が合ってしまった。
「あ、あの、さっきの、酷かったよね。気にしない方がいいと思う」
(あっ、でも、蒸し返さない方が良かったかな)
気まずくて、気になっていた事を言ってしまった事を後悔する。
「さっきの? ああ、サイコパス? 別に気にしてないよ。空気が読めるとか、共感できるとか、察するとかって、私はむしろ欠点だと思ってるんだ」
「欠点?」
K崎の返しがあまりにも意外で、聞き返す。
「そう。同調圧力に弱いとも言えるじゃない? その能力のせいで、必要な時に必要な事が言えないなら、ただの欠点だと思う。さっきのS本さんの奥さんの話もそう思ってる」
「え? そう?」
「『私の事、なんだと思ってるの?』で、通じないって分かった時点で、別の言い方をしないといけないんだと思う。『食器洗って』とか、『家事をもっと分担してくれないと、子供2人は無理』とか。
それでも伝わらなかったら、『このままでは、一緒に生活していくのは無理』って事を分かってもらえる他の手段に訴えて、まだ改善しなかったら本当に別れる事を考えるべき。
『自分だったら、この言い方で分かる』で留まってるのは、ただの仕事が出来ない人じゃない?」
「……分かるけど、ちょっと厳しくない?」
「じゃあ、宮前さんは、取引先に必ず伝えないといけない事を『何度も言ったけど、分かってもらえなかったんです』って開き直ってる人をみたら、どうする? 『じゃあ、しょうがないよね』で済ませられる?」
「いや、それは、ちょっと」
「そういう人って、『そういう事じゃないと思う』って言うと『じゃあ、私が悪いって言うんですか?』って言うんだけど、なんで『誰が悪いのか』しか考えられないんだろうって思うんだよね」
尤もな事を言われてる気もするが、何か言い返したい気持ちもある。
「私は、通じない時、5W1Hで考える様にしてる。
『何故、通じないのか?』『何を言ったら通じるのか?』『いつ言ったら通じるのか?』『どこで言ったら通じるのか?』『誰に言ってもらえれば通じるのか?』『どのように伝えたら通じるのか?』
全部を考える必要は無いと思うけど、『誰が悪いのか』だけを結論にするよりも有意義な考えが出てくると思う」
「うーん。仕事だったら分かるけど、家族だったら、そこまでしたくないなあ」
「『家族だから、仕事みたいな伝え方じゃなくて、察して欲しい』って人は多いけど、そういう人に限って『察する』が出来る人を結婚相手の条件にしてないと思う。婚姻届出したからってテレパシー使える様になる訳じゃないんだから、そういう能力のある人を選ばなきゃいけないのに。
しかも、自分は相手の事を察してあげられてないのも、気付いてない気がする。『相手と価値観が違うって思わないといけないんじゃない?』って言うと、『分かってる』って言われるけど、自分の中に元々あった価値観までしか想定してないんだと思う」
「自分の中に元々あった価値観までしか想定してない?」
「自分がAという考え方をしているとして、最終候補だったBとか、『自分では選ばないけど、世の中にはこんな考えもあるよね』って既に分かってるCまでしか想定してない。
でも、自分には全く考えつかなかったEや、もっと遠いXやZの様な考え方も、世の中にはあって、相手がそう思っている可能性は十分あるって、分かってない、と思う」
「K崎さんが言ってる事、分かる様な、分からない様な……」
「比喩って『その例えは違う』ってよく言われるから、あんまり使いたくないんだけど、例えば、食事の時間の過ごし方。宮前さんが、『家族でテレビを見ながら食事する』というAを習慣としていたとしても、BとかCあたりの『食事時はテレビを消して家族と会話しながら食べる』は割と簡単に受け入れられると思う」
K崎が、一旦言葉を切って、こちらを見るので、同意のために頷く。
「Eとして、『食事中のお喋りはマナー違反、家族の会話は、食後のお茶の時間』は、後半部分があるから受け入れられるかもしれない。
でも、Xの『家族全員それぞれが別のゲームをしながら食事をしていて、ゲームの邪魔にならない様に声をかけないのが思い遣り』までいくと、受け入れられないんじゃないの?」
「それはそうだよ。Xまでいくと理解できないよ。ゲームしながらの食事はいい事じゃないし、家族が居るのに会話が無いのは寂しいよ」
「でも、相手はそんな風に育っていて、それで家族関係も良好だし、他人から非難される事じゃないと思っている。
なのに、『理解できない』『正しくない』『そんな人生、私なら寂しくて嫌だ』なんて言われたら、その人は、どう思うかな? まして、結婚した相手から、頭ごなしに言われたら、どう感じると思う? 結婚した以上、何らかの妥協が必要だとしても、『あなたのやり方は間違っていて、私の方が正しい。だから、私のやり方を取り入れて』って問答無用で言われて、嫌な気持ちにならないと思う?」
「……でも、そんな人はそんなに居ないと思うし」
「そう、それ。それが、さっき言った、『自分の中に元々あった価値観までしか想定してない』だよ。『察する』が欠点だと言ってるのも、それ。『察する』能力自体が欠点だとは思ってないんだけど、『察する』を絶対的に良い事だと思ってる人は、『察する』の限界が分かってない。
『察する』事が出来るのは、元々、自分と考え方が近い場合に限られるんだよ。だから、外国人とかで、文化や風習が大きく違う場合とかで、『察する』事が出来なかったりする」
「それは……、そうかもしれないけど、外国人だって、喜怒哀楽の感情とかは一緒だし、察せる事もあるよ」
「逆に言えば、察せない事もある訳でしょう? まして、見た目に違いが分からない場合は? 外国人なら、少し話せばすぐに分かるけど、脳の障害とかは分からないよ。交通事故や脳梗塞の後遺症とかで、喜怒哀楽みたいな感情を含めて、感覚が違う人もいる。『察する』でそういう少数派を理解しようとしても、邪魔になるだけだよ」
「『邪魔』は酷いんじゃないかな。察しようとする事で分かる事もあると思う」
「それよりも本人にちゃんと聞いた方が良くない? 『どう思っているのか、教えて欲しい』って。『私は相手の事を理解していないんだ』という前提で、理解しようとして話を聞けばいい。
『察する』頼りの人は、『自分だったらこう思う』だけで動くから、間違った時のリカバリーが出来ないんだと思う。『自分だったら』で相手の立場に立って考える事は大事な事だけど、万能ではないよ」
「そうかなあ?」
「酷い例えだと、さっきのS本さんもそうだったんだと思うよ。『男が金を稼いで、女が家の事をやるべき』っていうジェンダーを前提にしてるから、『自分が妻だったら、仕事を辞めていいって言われると嬉しい』っていう発想。だから、本人の中では気遣いとか好意のつもりだったんじゃない? もし『自分は相手の事を分かってないから聞く』だったら、こじれてないでしょう。
つまり、『察する』は相手と価値観に違いがあると、間違う上にリカバリーの機会が無いんだと思う」
「ええ?」
「S本さんの奥さんは、あんな旦那はとっとと捨てちゃえばいいと思うけど、幸せになりたかったら、そもそもあんな旦那と結婚しない様にするとか、結婚してももっと早くに別れるとか、逆にちゃんとコミュニケーション取ろうとするとか、するべきだったと思う」
「うーん。S本主任は、ぱっと見はあんなだって分からないから、結婚して初めて知ったってのも分かる気がする」
「だから、結婚前に、聞くべきだって。今時、共働きが当たり前なんだから、相手の年収よりも、ちゃんと家事能力を持ってるかどうかの方がもっと重要じゃない。
察してもらう事が大事なら、共感力の強い人を選ばないといけない。なのに、何で確認せずに結婚しちゃう人が居るのか不思議なんだ」
「それは……、まず結婚するために、多少の妥協も必要だし、結婚した後に分かる事もあるし……」
「結婚も出産も、しなきゃいけないものでもないんだから、自分の理想に対して、妥協出来るところと出来ないところは考えておくべきじゃない? 離婚だって、今時、引け目に思う事もないんだから、最初から頭の片隅には入れておいて、我慢出来ないラインに来た時はとっとと実行しちゃえばいい」
「え? でも、結婚して子供を産んで育ててって、普通の幸せだよね? 離婚も余程の理由が無いと、やっぱり……」
「ジェンダーの問題として、男性の意識もそうだけど、女の人も変わっていけばいい思うよ。あんまり、男だ女だって言いたくないけど、自分で呪いをかけちゃってるみたいな女の人って多いと思う。家事や育児は完璧にしなきゃいけない、とかね」
「完璧を目指すのは、悪い事だと思えないけど」
「本当の『完璧』なんて、そもそも現実に存在しないよ。存在するのは、それぞれの理想。でも、そのせいでせっかく協力してくれた夫の家事に満足できないんだったら、理想の家事や育児のためにワンオペを我慢するか、妥協点を探るかじゃない?」
早苗が口ごもると、K崎は「そろそろ昼休み終わっちゃうね」と言って、席を立って行ってしまった。
後日、N島とのデート中。
「そう言えば、S本さんって、結局どうなったのかな」
ふと、こぼしてしまった。
先日発表されたばかりの主任を降格になったという辞令を思い出したのだ。入れ替わりに元アシスタントのM井が抜擢されている。
「離婚しちゃったみたいだよ」
N島がちょっと言いにくそうに答える。デート中の話の内容としては、いまいちだからだろう。
S本が、あの後すぐ別居したという噂は聞いていた。業績も下がり、明らかに憔悴した本人が、そう話していたという。
「そ、そう言えば、あの後、K崎さんと話をしたんだ」
話を変えようと、咄嗟に出て来たのが、K崎との会話だった。
何を話したかを説明しながら、少し切り出した事を後悔する。あの時の話は、早苗の中でまだ消化しきれていない。
「そっか、あの後、そんな事を話してたんだ。……K崎さんの言い方って極端だけど、間違ってはいないよね」
「え? そう?」
「うん。僕も前は、あんまりハッキリ言うのは苦手だったんだ。相手を傷つけるかなと思って。でも、営業やってると、都合の悪い事もハッキリ伝えてくれるお客さんの方が楽なんだよね。曖昧な言い方のお客さんは、こっちが察しないといけない事が多いし、確認にも気を遣う。
どっちが相手への思いやりがあるのか疑問に感じた時に、ハッキリ言うのは、実は相手への思いやりかもしれないと思ったんだ」
でもハッキリ言うのは勇気が要るけどね、と締めくくったN島に、早苗は何も言えなかった。
読んで下さってありがとうございます。
スッキリしない終わりですが、読んで下さった方に考えて頂けるといいなと思っております。
「感想送信」について
ほとんど方は感想送信機能をちゃんと好意で使って下さっていて、不要と思うのですが、「察して」NGの話でもありますので、一応、言葉にしておこうと思います。
好意で感想を送って下さる方へ
恐縮ですが、お願いが4つあります。
①★3つ以上と一緒にして頂けると嬉しいです。
②否定的な事だけでなく、肯定的な事も書いてほしいです。
③他の人の感想を受け入れるかどうかは、作者本人に委ねてさせて下さい。
④読者の全代表の様な表現ではなく、個人の感想だと分かる様にしていただければ幸いです。
以下、それぞれの理由です。
①送られてきた感想が、好意によるか悪意によるかは、文面だけだと意外と分かりません。
残念ながら「感想送信」機能を、悪意の表現に使用する人が存在しますので、高ポイントと一緒にしていただけると誤解がなくて嬉しいです。
★3つ以上をお願いしたいのは、「つまらないアピールの為の★1つです」という感想を実際に見た事があるためです。★の送信だけなら★1でも嬉しいですが、感想と一緒なら、出来れば★3以上をお願いしたいです。
②「S本、まじクズだな」みたいな内容だけの感想が割と見られます。
憎まれ役のキャラに対してでも、ネガティブな表現しかない場合、ちょっとしんどいです。
「悪役が悪役らしくて良かった」なら褒め言葉として嬉しいですが、悪口だけで終わっていると「気分が悪かった」みたいに捉える方が自然かなと思われます。
③他の人の感想まで含めて「全ての感想を好意的に受け止める様に」の様な主張をする人を見かけます。
しかし、残念ながら、作者相手に「死ね」みたいな事を書く人も、稀にいます。
(幸い、私の経験では、そこまではありません。他の作者さんの感想ページです)
重なってしまうと、作者は逃げ場がありません。
作者のメンタル強度を求める意見も、思いやりに欠けると感じます。
④「読者とは、~というものである」みたいな感想を書く方がいます。
内容は、当然というか、批判的なものである場合が多いです。
当然、個人の意見でしかない事は分かっていますが、やっぱりしんどいです。
これらは、一作者としてのお願いであると共に、一読者として他の作者様も傷つかずにいられるためにどうしたらいいのかという想いでもあります。
作者は、作品を書くことでMPを、公開する事でSAN値を消費していて、感想を受け取る時点では、メンタルが弱った状態にあると考えてもらえるといいかなと思っています。
勿論、他の作者様宛の場合、それぞれの意思表明を考慮して頂けるのが一番です。
どんな感想でも欲しいという方も稀にいらっしゃいますし、私とは気になる点が異なる方は大勢いらっしゃいますから。
感想送信機能を作者を傷つける目的で使用する人は、こんな事はどうせ読まないんでしょうけれど。
お付き合い下さってありがとうございました。