長い眠りへその1
「はい、あっ、はい、その件は、期日までには大丈夫です。はい、いえいえとんでもない」
今日は金曜日朝、職場では朝から電話がひっきりなしだった。
「八鳩さん、内線です。田畑商事の田畑さんからお電話です」
「はい、今大丈夫です。はい、お久しぶりです田畑さん。はい、いえいえ、先日はありがとうございました。いえいえこちらこそ」
クロウこと、八鳩は大学を卒業した後、インターンシップの時に運に恵まれ、今の会社にすんなりと入社できた。両親の知り合いが管理層にいて、親の口添えというコネ入社のような形で今の会社に入ったが、甘えずきちんと毎日仕事をこなして、自分のできることを必死にこなしてきた。現在3年目だが、自分の努力も相まって、営業課の部長にまでのし上がっており、課長の右腕的ポジションで働いている。現在、なぜこんなに忙しいかというと、八鳩が新たに切り開いた海外との取引先の下準備だ。八鳩の会社は巨大な総合商社、元は土木作業用の原材料を中心に取り扱っていたが、今では建材に限らず、自動車用の材料や家具製造のための材料まで、多種多様な材料を取り扱うようになった。そして今、なぜ海外の取引先をすることになったかというと、社長が<オーバーザホライゾン>で知り合った人が海外在住の社長のようで、先日その人のいるアメリカに飛んで社長が話をつけてきたようだ。凄い。流石社長。相手は有名な大型食料品を取り扱うメーカーのようで、日本の食材を仕入れたいと言う希望により、クロウ達が関税や運送について手配している現状だ。これでは非常に忙しい。昼を食べる暇もなく、課長は出先に向かっており、八鳩が会社で現在切り盛りしている現状だ。
「ほれ八鳩、飯持ってきたぞ」
「おっ、サンキュー三鷲」
「大変だなお前も」
「しゃあない、これも仕事だ」
手短に食事を済ませ、お茶を一口飲んで再び電話をかける。そうして仕事にひと段落がつき、家に帰ったころには夜10時を過ぎていた。
「だー!疲れた!もう何もしたくねぇ!」
タイムカードを切った後、オフィスのビルを出て家の近くの定食屋に向かう。疲れを取るために今日は生姜焼き定食にした。素早く完食した後、早く家に帰宅する。風呂に入り、パジャマに着替え、ベッドに寝転がってヘッドギアを起動した。
「マスター、お帰りなさい。今日の天気は晴れのち曇り、気温は24度、湿度10%です」
「ソラ、マキナはいる?」
「はい、お呼び致します」
クロウは数分待つと、マキナがやってきた。
「どうしたクロウ?何か用事か?」
「ああ、最近あっちの仕事が忙しくてな、しばらくこっちには来れない」
「どれくらいだ?」
「わからない、数か月かもしれないし、もしかしたら数年かもしれない」
「そうか...プレイヤー、というのは、大変だな」
マキナは珍しく落ち込んだ顔でクロウを見つめた。
「最後に会えそうなのはいつなんだ?」
「うーん、明後日まではとりあえずいるよ、今日は金曜日だから、日曜日までかな。来週の月曜日からはもうしばらく来れない」
「わかった、ベルアルには言っておけよ」
「うん、今から行く」
クロウ領から北帝宮殿の入り口まで転移する。クロウは門番にベルアルに会いに来たといい、ベルアルのいる執務室までやってきた。
「ベルアル~、やぁ」
「クロウか、どうした」
「しばらく旅に出るって言ってたじゃん、日曜日の午後に旅立つことにした」
「そうか、いつ帰ってくるんだ?」
「わからない、数か月かもしれないし、数年かもしれない、プレイヤーだからな、俺も」
「そうか、残念だ、だが戻っては来るんだろう?」
「もちろん、この世界を捨てることなんてできないよ」
「ならいい、待っているよ」
「おう!」
次にクロウは南国に向かった。いつものカフェでは戦乙女達のトップ3人が集まっており、セシリアも楽しそうにクロウ領産の紅茶とコーヒーを飲んで談笑していた。
「お待たせみんな」
「あ!来た!クロウ!こっちこっち!」
クロウは大きなテーブルで4人と共にしばらくこっちには来れない件について話した。戦乙女達3人はまあしょうがないよねという顔で、セシリアは本気で悲しそうな顔をしていた。
「まあ戻ってこないわけじゃないし、あっちの仕事が落ち着いたらまた戻ってくるよ」
「わかった....」
セシリアはまだ悲しい顔をしていた。うーんこのままバイバイするのも悲しいし、どうしよう。よし、遊びに行くか!
「せっかくだ、今日はみんなで遊びに行かないか?」
「どこに行くの?」
「うーんそうだな、天空城に行こう」
「え?え?えぇええ!?」
驚いている4人を無視して、転移魔法でハイデマリード城まで連れていく。4人は最初は驚いていたが、クロウの天空城の綺麗さを惹かれ、4人はすぐに花畑の方へ遊びに行った。クロウもクロにランチを持ってきてほしいと言い、4人が花畑で遊んでいる姿をながめていた。こういうのには興味ないと思っていたが、クロウが取り出したお洒落なテーブルとイスにクロが持ってきたランチセットとティーセットで休憩を取っているとき、4人は満足げに先ほどの話をしていた。
「すごく綺麗な花畑だよねあれ」
「うん、クロウさん流石だよ」
「あっ、えっと、クロちゃん?だっけ、このサンドイッチおいしい」
「紅茶も美味しいの」
「えへへ、ありがとうございます」
クロにも参加するように促すと、女子5人による女子会が始まった。クロウは何となく気まずくなったので、すっと<潜伏>でその場を後にした。




