クロウとAI
翌日、頭痛と共にクロウは自室で目を覚ました。起きてすぐに気が付いたが、以前とは違い、思考能力が驚くほど向上している。頭の中に自分が2人、いや3人いるみたいで、それぞれ3人が別々の事を考えていてもそれぞれ何を考えているか全てわかる。同時に、自分が認識できる知覚範囲にクロウ領が入っていることに気が付いた。どのメタリックスライムがどこでどうやってクロウ領を改造しているのかわかるし、完成したクロウ領の一部の自動化製造ラインを自由に変更したり停止できる事に気が付いた。
「おはようクロウ、昨日の手術は大成功した」
「マキナ?これは?」
水ではなく、銀色の流動体をコップに入れて持ってきたマキナ
「とりあえず、これを飲むといい」
「これは?」
「これはオべリ^&8の(*%#」
「え?なんて?」
「オベリ^&8」
急に理解できない言葉で話し出したマキナは、途中まで言うと、思い出したように
「そうだった、まだインストールが完成していない」
「インストール?」
「そう、今のクロウの頭の中には完全管理下に置かれる予定のクロウ領の最終コア及び最高管理者権限を持つ、いわゆるマザーコアを埋め込んだ。ついでに現在制作中のクロウ領全体の演算能力やその他統治管理に必要な能力を全て植入した」
「....?」
「つまり、ものすごい脳みそに改造したって事、理解?」
「なるほど」
クロウでも理解できるようにマキナがものすごくかみ砕いてくれた。
「手術自体は既に終了している。この様子だと3日後にクロウ領の完全AI管理化が完成する。その時、今から飲むものも理解できるようになるだろう」
「ああ、わかった」
クロウはコップ内の謎の流動体を飲み干す。胃に入った後、ゆっくりと体中に染み渡る感覚がした。その後、突如クロウの脳内にシステム音が響く。
「おめでとうございます!あなたはオベ^*の(*%を取り込みました。一部スキルと能力値が劇的に増加しました。半神の領域に到達、一部の神格を生成します....完了しました。機神権限の受領を確認、一部スキルと能力値が劇的に増加しました。機神に連なる神格と新たな権限を生成します...」
「え?」
「その困惑ぶりだと、オべリ^&8の(*%#はものすごい効果をもたらしたみたいだね」
「ああ、半神の領域に到達とか神格を一部生成とか」
「ふむ、おめでとう、君はこの世をコントロールする力の一部を手に入れたみたいだ」
「ひょえ~」
流石のクロウもそこまでは求めていなかったが、マキナ曰く、クロウ領の完全AI管理化をコントロールする上では、やむ負えないらしい。あきらめて納得することにした。
そこから3日はマキナの元で必死に違う世界、クロウが渡れない世界の技術を必死に学んだ。そうして3日後、マキナに完全にインストールが終了したといわれたので、クロウの自室の地下96階に来るように言われた。
「ちょっと待って!いつそんなに地下を開拓したの?」
「ああ、せっかくだしな」
「何のためにそんな96階も?」
「クロウだから、96で」
「ダジャレか?」
「ああ、人間とはそういうもので笑うのだろう?」
「いやまあそうだけど」
「テレポートを始めとした転移魔法は行ったことがある場所にしか行けない、その理由はわかるな?」
「ああ、転移先の状況があやふやだと、壁に頭を突っ込んで窒息死したりする可能性があるんだよな?」
「ああ、でも今、オベリスクの雫を飲み込んだ貴方ならクロウ領の演算能力を利用して、行ったこともない場所をスキャンすることができる」
「スキャン?あー、<魔力探知>や<魔素探知>」
「ん?わけているのか?」
「え?違うものじゃないの?」
文字通り、魔力を、つまりMPを消費して何らかの力に変えた痕跡や変わっていく様を調べ上げる<魔力探知>、もう一つはMPを持っているものそのものを探る<魔素探知>。似たようで違うものだと思っていた。
「なるほど、<スキル合成>はできるか?」
「ああ」
「細分化もいいことだが、細かすぎては利便性が失われる、無数のスキルと魔法があるんだ、似たような効果は合成するべき」
「わかった」
クロウはさっそく先ほどの探知スキル2つを合成する。すると、マキナの言う通り、新しく<スキャン>というスキルになった。さっそく使ってみると、クロウを中心とした半径5kmの環境、状況をはっきりと認識できた。
「その調子でいろいろ試すといい、とりあえず地下96階までは私の転移スキルで行こう」
マキナはクロウの腕を掴むと一瞬で地下96階まで来た。
無数の磨かれた鋼鉄壁と電子機器の音、無数のプロジェクターに空中投影されたクロウ領の現在や世界各国のクロウの企業の株価や経営状況、赤字黒字の意向が投影されていた。そんな部屋の中央にはリクライニング式の大きな椅子が有り、マキナがそこに座るようにクロウに指さした。
クロウが椅子に座り、いつもの癖でひじ掛けに腕を乗せると、ぷすっという感覚と共に、何か小さな針で刺された感覚がした。それと同時にクロウの座る椅子から機械音が部屋全体に響いた。
「承認完了。マスターアドミニストレーター・クロウ、システムを起動します」
そういうと、クロウの椅子から脈動するようにオフになっていた部屋中の回路に電気が通る。そうしてしばらくすると、目の前の巨大なメインスクリーンがゆっくりと起動した。
「初めまして、マスター。私はクロウ領のマスター管理AI、名前はソラです」
「初めまして、ソラ、クロウだ」
「音声波形を記録しました。DNA情報の記録と共に、マスター承認データに追加します。マスター、要件を教えてください」
「ソラ、君は何ができるんだ?」
そうしてクロウはメインスクリーンの中で実際のデータと共にソラがいろいろと説明してくれた。
第一に、クロウ領の数々の生産ラインを完全自動化。小麦を含む農業を完全機械管理化に置き、その他ブランド品であるバッグや靴、コートも市場価格の移行と売り上げに基づいて計算され、生産量を完全にコントロールできるようになっていた。おかげでベオスやベルアル達が合間を縫ってはクロウ領を訪れる必要もなくなった。
第二に、重工業も同じく完全自動化。現在、小型されたエインヘリアルを常備軍として生産を開始しており、指揮官はまだ決まっていないものの、のちのちベルアルと相談して配属先を決めるようだ。人型飛行能力を持つエインヘリアルは180cmほどの人間が有する機能は全て有しており、人間とは違って疲れず、長時間稼働可能で冥王の心臓の恒常的な魔素生成能力も有しており、それを動力源とした無限稼働可能な戦争兵器である。また、人型エインヘリアルも用途に合わせて常に変化が可能で、腕から迫撃砲を撃てる砲撃型エインヘリアル、ガトリング銃を備えた重機関銃型エインヘリアルなどなど、数多くの状況に応じた戦闘行為を永続的に行える。
第三に、その他福祉医療教育も完全に自動化、オンライン授業やオンライン受診を全面的に採用。アンドロイド型の人材も数多く採用されたが、数は少なく、人間の職を奪わないようにソラによって厳格に制限されるようだ。
その他にも数多くの機能があったが、明日は仕事なのでクロウはソラに一言言って先にログアウトした。




