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勘違い魔王のVRMMO征服記  作者: 愛良夜
第二章 オリュンポス大陸
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傭州とコロシアム

討伐証明を持ってシェヘラザードの地下1階に向かう。リーダー達は慌ただしくガイアセンチピードの討伐方法について考えていたが、クロが討伐したことを報告すると、その日のタクラマカンは街を上げての大祭りになった。もちろん主役はクロウ達、クロと共に臨時設置されたテーブルで2人はさまざまな冒険者やプレイヤーに質問攻めにされていた。


「づがれだ~」


祭りも終わり、ハイデマリード城の自室に戻ってきた2人は、早めの休憩をとった。そして次の州へ向かうことにした。クロは既に風呂を済ませ、パジャマ姿でクロウと一緒にマップを見ている。


「次は~、傭州に行こう!」

「お~」


寝ぼけ眼をこするクロをベッドに連れていき、彼女が寝たのを確認すると、クロウはゆっくりとハイデマリードを傭州の方へと動かしだした。


***


傭州首都<スパルタン>

ガラの悪い元什国の姿はひっそりと無くなり、軍事統治州として厳格なルールの元、州民は自由を謳歌していた。スパルタンの大きな特徴として中央広場の特設決闘場、通称<コロシアム>での定期的な決闘が許されている。つまりは血肉踊る州民を屈強な州兵が管理していると言う事だ。


***


「続いての挑戦者はぁあああ!なんと飛び入り参加!暗闇を思わせる黒い髪と瞳のスーパーメイド!クゥウウウロォオオオオ!」

「やっちゃうよ!」


ミドル級のタイトルホルダーを瞬殺し、血まみれのクロがコロシアムで両手を天に突き上げる。なんでこんな事になっているかと言うと、傭州がちょうど、年1度の国を上げた大バトルロワイアルをしているからだ。これに優勝すれば一生使いきれない財と権力を手に入れることができると言う。なのでクロに飛び入り参加をさせ、一体どれだけ貰えるのか見てみることにした。


「次はヘビー級の王者とのマッチだ!、大丈夫かスーパーメイドクロ!?」


クロの向かいから、背丈3mを超える筋肉隆々の男が現れる。


「マッチ開始ぃいいいい!」

「拳法:<宝蓮点穴(ほうれんてんけつ)>」


大きな筋肉の上から、クロが素早く肉体のツボをつく。最初の3つのツボで目の前の巨体は動けなくなり、そして頭の横のツボを突かれ、男は意識を失った。


「ヘビー級も瞬殺!?黒のスーパーメイドはどこまでいけるのかぁああ!次はいよいよ決勝戦!<王者>の称号を冠するこの男は、果たしてスーパーメイドを倒せるのか!<王者>ジュレイドVS<スーパーメイド>クロ!ファイッ!」


どうやら王者の職業は<格闘家>、近接戦ではクロと引けを取らないほど苛烈な攻防を繰り返している。しかも<古武術>の心得もあるようで、クロの<宝蓮点穴(ほうれんてんけつ)>も難なくさばいている。


「すごい戦いだ!ジュレイド相手に10分立っていられるもの、我らがスーパーメイドだけだろう!この勝負、果たしてどうなる!?」


コロシアムでの戦いに魔法の使用は許可されている。だが、極まった武闘家が多く参加するこの試合では、上位になると平気で<瞬歩>や<縮地>を使ってくるので、魔法と詠唱したり魔法陣を展開している間にすぐ気絶させられてしまう。それにより、魔法を使うものは少ない。使うと言っても<身体強化>の魔法くらいだ。


「ジュレイド、そろそろ決着をつけよう!お腹すいた!」


一旦距離を取ったクロがジュレイドにそう言った。


「おお、いいぜ!俺に勝ったら州で一番いい飯を奢ってやるよ!」

「お!それは、楽しみだ!」


「拳法:<破天三拳>」

「拳法:<流川陰陽拳>」


ジュレイドは己の持てる最強の3撃を繰り出したのだろう。拳風だけで観客席に座っている人が吹き飛びそうになる。彼の拳は決闘ステージも地面が抉られ、壁に大穴が開くほどの威力を持っているが、クロは巧みにその拳の威力をいなし、纏め、そして彼の3撃目を躱すと、クロは今までの3撃の力を全て1つにし、そのまま全てジュレイドに返した。


「ま、けた、ぜ」


ジュレイドは立ったまま動けなくなっていた。だが彼の敗北宣言により、今年の優勝者はスーパーメイド・クロになった。


優勝式典の後、クロウ達は約束通りジュレイドに連れられて、スパルタンで1番旨いと言われている飯屋にやってきた。


「回復魔法ありがとうなクロウ、まさかあんたがクロより強いとは、傷が治ったら戦いたい所だ」

「2人の勝負見てたよ、いい戦いだった、傷が治ったらな」

「おにい!またそんな傷だらけになって!」


店の奥から料理を持った少女が出てきた。そして手慣れたようにクロウ達の前に料理を並べていく。ジュレイドは焼肉丼の温玉乗せ、クロはハンバーグ定食とメロンパフェ、クロウは豚骨ラーメンの野菜ニンニクマシだ。


これらの料理はジュレイドの妹であるジュリが料理長の職業を持つプレイヤーの店で働いて学んできた料理であり、その味は確かに傭州で一番おいしい店であると言える。


食事のあと、ジュレイドとジュリと共に、食後のお茶を飲みながら、雑談をしていた。


「そういえばジュレイドはなんでコロシアムに参加したんだ?」


コロシアムに参加するには、生死状と言う、死んでも誰にも責任を追及しないと言う承諾書にサインしなければいけない。妹がいるジュレイドはこの店で働くと言う手もあっただろうに、どうして死ぬ危険を冒してまで参加しているのか。


「実は、母さんが病気でな」


ジュレイドがぽつぽつと話し出した。数年前からジュレイドの母が病気で倒れてしまったと言う。医者によれば<魔素流出病>と言う不治の病で、常に体からMPが流出する奇病だ。そのため、ジュレイドはコロシアムの優勝賞金で、母の病気のための延命薬を買い込んでいる。今回クロの優勝賞金も既にジュレイドに渡しており、クロウ達が勝ち取ったのはコロシアムの王者と言う証のメダルだけだ。


「俺たちも診ていいか?」

「ああ、頼むよ」


飯屋の2階のベッドルームにて、一人の女性がベッドで苦しんでいた。恐らくこの女性が母なのだろう。


「クロ、頼めるか」

「あいさ!」


クロはジュレイドの母の手を取ると、<異世界の神>の権能を使用した。


「ステータス画面強制開示、<魔素流出病>を確認、摘出、魔結晶に摘出した<魔素流出病>を合成」


クロの権能の一つに<万物編集>と言うチート能力がある。クロウのような自分より数万倍も高位の存在には使用できないが、その他のあらゆる物体、物質、人物、現象に介入し、自由に編集する能力がある。


「よし!これで治った!」


ジュレイドの母は先ほどとは打って変わって、穏やかな眠りについている。苦しそうなうめき声もなく、顔の血色も少しずつだが戻ってきた。


「ありがとうクロ、ジュレイド、これをお前の母に毎日少しずつ飲ませてやれ」


初級MPポーションをジュレイドに渡す。一気に飲ませると逆に多すぎるので、少しずつ飲ませ、数日後にちょうどMPが全回復するようになっている。膝をついて感謝する姉妹を立たせ、クロウ達2人はこっそりと傭州を最後にした。

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