ムカデ討伐完了
2日後の朝、クロウ達はシェヘラザードの受付でVIPカードを見せると、数日前とは別の場所にあるエレベーターに案内され、地下1階にたどり着いた。
「お、来たね2人とも、これで揃ったかな。よし、じゃあ早速作戦を伝える!」
<探知魔法>と<探索魔法>によると、いつぞやの巨大ムカデは再びこちらに向かって移動を開始しており、今日の午後に再びタクラマカンに攻撃を仕掛けると予想されている。そこで今回は攻撃される前に、巨大砂游船2隻と小型砂游船4隻で先手を打つことにする。予測移動進路の上で<拡声魔法>を使い、擬似的な音爆を引き起こす。その巨大な振動で一時的にムカデを砂上に打ち上げ、口が開いているうちに<連鎖爆弾>を刻んざ魔結晶を口の中に放り込み、内部から破壊する予定だ。クロ達はその間、先日使った魔法でも魔術でもいいが、外からもダメージを与え、確実に仕留めたいとのことだ。
「全員!やることはわかったな!行くぞ!」
クロウとクロで1つの小さな砂游船に乗り、後方の巨大砂游船のためにモンスターを処理する。砂の中を泳ぐ魚、砂中魚や砂中鮫を討伐していく。そうして暫く進んでいると、移動する砂山を発見した。
「見えたぞー!音爆用意!!」
巨大砂游船の端に耳栓を付けた魔法使いが集まる。そのまま移動する砂山に十分近づくと、全員声を揃えて「ワッ!」と叫んだ。爆発音にも近いその音は安々とクロウ達を含む小型砂游船を少しのけぞらせ、砂中の巨大ムカデを打ち上げた。
「今だ!放り込め!」
飛行魔法で何人も飛び上がり、アースセンチピードの中に魔結晶を投げ込む。反射なのか、ムカデは無意識に次々と飲み込んでいく。
「ありったけ放り込め!」
空を飛んでいる冒険者たちがお構いなしに次々と投げ込んでいく。そうして全て投げ込んだ後、巨大なムカデはぴくぴくしながら倒れこんできた。暫くすると、センチピードの中から次々と爆発音が聞こえてくる。ドン!ドン!と籠った爆発音が聞こえてきて、センチピードが苦しそうに叫び声をあげている。
「爆発が開始した!叩け叩けぇええ!」
巨大砂游船から様々な魔法が放たれる。水魔法が一番多いが、それ以外にも風魔法や岩魔法が降り注ぐ。クロも先の巨大魔術を使って攻撃する。数時間後、籠った爆発音も数々の冒険者のMPも切れた頃、気が付くとアースセンチピードから白濁色の液体が滲みだした。あっという間に液体はアースセンチピードを包み、殻のように固まった。
「しまった!脱皮だ!MPがまだある者は火魔法を使え!溶かせ!ここで脱皮されてはまずい!」
先ほどの攻撃で皆MP切れを起こし、必死にMPポーションを飲んでいる。高威力の魔法をぶつけようにも、MP回復量が追い付かず、アースセンチピードは脱皮を完成させてしまった。
ガイアセンチピード。砂地だけではなく、あらゆる場所を自由に行き来できる大きなムカデは、以前より増した速度で巨大砂游船へと突撃していった。
「グギギギギギギ!」
それだけではなく、センチピードは魔法を使って頭部を<硬化>し、思いっきり巨大砂游船を真っ二つに貫いた。
「クロ、暫くの間相手してやれ」
「わかった!」
クロが小型砂游船から飛び上がる。そのまま空中で<飛行魔法>を発動し、クラスⅤの水魔法や氷魔法で巨大ムカデの注意を引く。他のメンバーは急いで彼らを別の巨大砂游船に移らせる。
「隊長!これ以上は無理だ!一旦引け!しんがりは俺たちが引き受ける!」
「だがそれでは!」
「早く!いつまでクロが持つかわからん!」
指揮を執っていたリーダーの男は苦渋の決断という顔を取った後、「撤退!1度立てなおすぞ!」と言い、クロウ達2人を残して立ち去った。
クロウは他のメンバーが遠くまで立ち去るのを確認すると、クロの封印の3%を解除した。
「<冥王の心臓>の使用を許可、戦闘モードに移行、ガイアセンチピードを討伐せよ」
「了解、冥王の心臓起動」
全身の赤い文様を脈打たせている戦闘モードのクロ、短く周囲の魔素を吸収した後、いつぞやの魔素粒子と魔素粒子がぶつかる音がクロから響いた。そうして指数関数的に音は早くなっていき、それと同時にクロは魔法を次々と発動していった。
「クラスⅦ魔術<強化型無際限爆裂豪雨>、クラスⅣ魔法<大地礫突>、クラスⅧ火風混合魔法<暴風大裂蒼炎嵐>を並列起動、実行」
ガイアセンチピードは無限に増えていくクロと彼女の魔力を見て、何か脅威に感じたのか、急いで砂の中に潜って逃げようとしていたが、強大な外殻を貫くほどの硬化した岩魔法に突き上げられ、ガイアセンチピードは悲鳴を上げることしかできなかった。そうして空中で磔になっているムカデが突如足元から発生した蒼い炎を伴った嵐に包まれる。嵐の力で、火の熱も何もかも嵐の内部に閉じ込められる。そんな嵐の上部から強化された小型爆裂魔法であるボムが盆をひっくり返したように止まりなく降り注ぐ。
「グギャァアアアア!」
砂の中に逃げることも叶わず、火の嵐の中で焼かれ、上から降り注ぐ爆裂魔法の雨に殻ごと粉砕される。数分後、巨大だったガイアセンチピードは全身余すことなく肉片と化した。
「お疲れクロ」
「う~ん!気持ちいい!楽しかったよご主人!」
「よしよし」
「えへへ~」
アイテムボックスにガイアセンチピードをしまい、クロにモンスターの殻を1つ、持たせて先ほどのリーダーの元へ向かうように言った。




