巨大砂ムカデ
「うわ~!すっごく綺麗!ね!ご主人!」
ガラス器が数多く売られており、模様を刻んだガラスの中にろうそくをつけると、火の光に照らされて、7色に輝いている。
「これいいな、これ貰えるか?」
「あいよ!、銀貨2枚ね!」
今日だけで金貨数枚稼いでいるので、問題なく買うことが出来る。2人で気に入ったガラス器を買い、歩きながら買った手のひらサイズのガラス細工を眺めていた。
「クロのもいいね」
「ご主人のもすごくきれい!早速戻って中のろうそくに火をつけようよ!」
「そうしよう」
人のいない所で転移魔法と使い、ハイデマリードの自宅に戻る。クロウはリビングに、クロは火をつけた後、自分の部屋にパタパタと向かい、にへら顔で戻ってきた。
「ご主人~!今日はありがとう~、えへへ~」
クロウはクロの見えないしっぽが左右に揺れているように見えた。
「よしよし、今日はクロも頑張ったからな、偉いぞ~」
犬をなでるように頭、顎の下、背中をなでなでする。
「ご主人、ちょっとくすぐったい」
「なでなで」
「あう、ごしゅ、じん...」
背中をなでた後、ソファで座っているクロウにしっかりと背中から抱きかかえられ、クロのお腹をなでなでしていた。
「はっ!つい」
すっかり暖かくなったクロウの手のひらはクロの腹部をポカポカにしており、よくよく見てみるとクロも心なしか息が荒くなり、頬を赤らめていた。
「ご主人、続き、しないの?」
ソファから立ち上がり、来ているメイド服をたくし上げ、健康的な腹部を見せつけるクロ、涙目で懇願するようにクロウに近づいてくる。
(しまった)
実直な性格をしており、他の人工生命体に比べて堪え性のないクロ。そんな彼女を静めるために、クロウは彼女を抱き上げ彼女の部屋のベッドで寝かせた。
「ね~むれ~、ね~むれ~」
優しくベッドに入れた彼女の背中をポンポンと叩きながら、子守唄を歌う。クロもいやいやまだ眠りたくないと抗っていたが、すぐに穏やかな寝息を立てた。久しぶりに一緒に遊んだせいもあるのか、彼女もすんなり眠っていた。恐らく本人でも気づかないうちに、疲れていたんだろう。静かに彼女の部屋から立ち去り、リビングで今日買ったガラス細工の中のろうそくに火をつけ、7色に光る部屋の中、久しぶりにゲーム内でゆっくりと休憩した。
翌日、再びログインすると、既にクロが起きていたようで、頭をクロウの膝の上に乗せ、ソファで横になっていた。
「おはようクロ」
「おはようご主人!朝ご飯出来たよ!」
クロの作った朝ご飯を食べ、少し早いが早速タクラマカンに降り立つ。いつもの場所で今日もフードトラックを出そうと商業街を歩いていると、ドドドドと言う地鳴りが聞こえてきた。
「アースセンチピードだ!誰か冒険者ギルドのメンツを呼んで来い!」
商業街の巡回兵士がそう叫びながら果敢に地鳴りの方へ走っていく。暫くすると、遠い砂漠の中から巨大なムカデが現れた。黄土色の殻と無数の牙を持つ口部、そして無数の鋭利な足を空中でこすり合わせ、そのまま商業街に覆いかぶさるように倒れこんできた。だが、魔法防壁が作動したようで、その大きな砂百足は防壁に触れた瞬間、電撃に襲われ、素早く身を引いた。だが遠くには立ち去らず、少し距離を置いた場所からこちらをにらんでいる。
「砂游隊!出るぞ!」
クロウ達の1つ横の通りから小さなボートに乗った4人パーティが何隻も飛び出る。ボートの後ろには緑色の鉱石が付いており、恐らくその鉱石がボートを砂の上でも自由に行き来できるようにしているのだろう。
「<トリプル・アクアランス>!」
砂の上を泳ぐ船に乗った冒険者やプレイヤー達が水魔法を数多く使用し、巨大なムカデを攻撃している。嫌そうにムカデは体をよじっているが、立ち去る気配はない。
「クロ、水遊びしてやれ」
「分かった!」
クロはそのまま飛び上がると、戦闘態勢に入った。黒い眼は赤色になり、目から赤い文様が体中に伸びる。脈打つようなその赤い文様はまるで魔王のようだった。
「魔術構成開始、基本魔術<三連水槍>、<加速>付与、<威力上昇LvⅥ>付与、<分裂>付与、<威力保持>付与、<自動追尾>付与...」
数えきれないほどの要素を追加し、クロの手元の魔法陣はどんどんと大きくなる。そうしてムカデと同じくらい大きくなった頃、クロは魔法を発動した。
「<罰の滝>」
クロの魔法陣からぽつぽつと雨が降り出す。最初はムカデも気にしていなかったが、次第に雨は大きくなり、最後にはドドドドと轟音を立てて降り注ぐ大暴雨となった。最後の方になると、流石のムカデも耐え切れなくなり、大きな悲鳴に近い叫び声と共に再び砂の中に潜り込んだ。
「うぅ、ご主人、おっきな虫倒せなかった」
「大丈夫だよ、よしよし」
「えへへ~」
砂遊隊が続々とクロウ達の方へと集まってくる。どうやら先ほどクロが使っていた魔法について詳しく知りたいようで、何人もクロに食い入るように質問攻めにしていた。
ホテル<シェヘラザード>
西州のオアシスで最高級のホテルであり、1000日と1夜泊まりたくなるほど心地のいいホテルだと言われている。このホテルの60階にあるレストランにて、クロウとクロ、そしてオアシスを拠点に活動する冒険者が個室席で食事をとっていた。
「本日はお越しくださり、ありがとうございます」
相手側が丁寧に礼を述べ、今回2人を食事に誘った理由を話し出す。要約すると、クロにも昼間のムカデ、アースセンチピードの討伐に参加してほしいとのことだ。最近なぜか活性化しており、このままでは商業街にもオアシスに住む人々がずっと恐怖に晒されていてよくないので、そろそろ原因を根絶しようと思っていたらしい。
「わかった、クロ、いい?」
「うん!ご主人がそういうなら!」
サボテンケーキを食べていたクロはクロウに言われて頷く。2日後に正式な作戦を発表するので、その時にまたこのホテルの地下1階に来てほしいと言われた。2人は頷くと、シェヘラザードのVIPカードを受け取り、ホテルを後にした。




