西州のオアシス
「よし、準備はできたねクロ?」
「はい!」
あれから天空城で、昔の思いつきで作ろうとして技術的に諦めたアイテムやエインヘリアルを完成させ、後始末や後片付けを済ませた後、再び姿を変えてクロと共にまずは西州から遊歴する事にした。今のクロウは傭兵ではなく商業ギルドの商人として、お付きのメイドと共に仕事で各地に赴いていると言う設定だ。職業もLv12の商人、サブ職業も会計士に設定しておく。
「よし、行くか」
榛国全国での商業が認可された紋章の入った馬車に乗り、クロに馬車を引いてもらう。調節ポットでクロや他の人工生命体に榛国でのあれそれをデータとして送信しておく。その後、馬車ごと西州最大の都市でありオアシス<タクラマカン>に転移した。
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西州オアシス<タクラマカン>
西域最大の開発済み緑化地帯で、膨大な砂漠地域の中で唯一、砂嵐と数多くのモンスターから離れて安全に生活が出来る場所である。榛国の魔術師や西方軍の開発のおかげで、よりオアシスは大きくなり、大統一を果たしてからは数多くある西州オアシスでは最大規模になっている。中東雰囲気が漂うアラビアンなこの都市は、榛国と西域文化を大きな交差点であった。
***
「あっつい」
中に座っているクロウは大丈夫だが、外で馬車を引いているクロは暑さで溶けそうになっていた。常夏で乾燥した西域は、ハイデマリードの常に最適な環境にいるクロにとっては大変だ。
「クロ、ここからは徒歩で行こう」
「はい~」
薄手のシルクで作り上げた高級を服を着て、クロも同様に高級なメイドに着替えた。クロウは既にコラテラル・クリスタルでプレイヤーの持つアイテムボックスを再現しており、さらに初代人工生命体であるクロには自身のMP量に比例して拡張できるようになっており、クロのその指輪にも数えきれない程のアイテムが入っている。
「どうも、食料品を販売しに来ました」
タクラマカンの国営商業ギルドで商品検査を受ける。今回売るのはハイデマリードで作った食料やアイテム。中でも目玉は砂の中で育つワーム事、サンドミルクワームと、1年1回の降雨で驚異的な生産量を誇るサンドポテトだ。専門の鑑定家に嘘ではない事と、持ってきたアイテムの安全性を確認し終わった後、クロウは販売許可証を受け取った。
「少しギルドに売りたい、価値鑑定を頼んでいいか?」
「わかりました、少々お待ちください」
職員がクロウが持ってきたサンドミルクワームとサンドポテトを奥に持っていくと、数分後に金貨を数枚持ってきた。
「このサンドミルクワームは確かによく食料になりますが、見た目が...なので今回の買取価格は金貨5枚です。サンドポテトも既に似たような野菜がありますので、市場価値が...金貨1枚です。どうされますか?」
「売ります」
「ありがとうございます、ではこちらを」
金貨を受け取り、クロウは営業可能エリアに行く。商業ギルドに許可された場所の端でアイテムボックスからフードトラックを取り出す。今日作るのは<サンドミルクワームのから揚げ>と<サンドミルクワームとサンドポテトの冷シチュー>だ。ついでに<ココナッツジュース>も売る。クロウは外で、クロは空調の効いた厨房で作ってもらう。最初はクロもメニューに四苦八苦していたが、営業開始になる頃には完璧に作り上げる事が出来るようになっていた。
「にいちゃん、何売ってるんだい?」
早速クロウの目の前に客が1人現れる。クロウはビジネススマイルで売りの物の紹介をし、早速買わせる事に成功した。
「おお!めちゃくちゃ美味いなこれ!」
ミルクワームを短冊状に切り、塩コショウと衣でさくっと上げたから揚げは、噛み締めるたびに程よい塩味とサンドミルクワームの濃厚なコクが一気に口の中に広がる。手が止められないようで、5本6本食べた後、思い出したように冷シチューを一口飲んだ。
「うまぁああい!」
西州に住まう砂羊から取れる羊のミルクから臭みを取り除き、サンドミルクワームの皮をむいて中の脂肪分だけをミンチにし、オリーブオイルとスパイスで香ばしく炒めた野菜やブロック状の羊肉と共に煮込む。圧力鍋に<時間魔法>をかけ、3時間ほど時間を加速させる。その後、冷蔵庫に入れ、冷やせば出来上がりだ。
「これつけて食べてもうまい!」
食らいつくように食べる最初の客の姿を見て、他の客も次々と注文していく。仮設テーブルだけでは足りなくなり、立ち食いを始める客も出てきた。
「これは予想外」
食料は無限にあるので心配はしていないが、客が多すぎて道を塞ぎそうだ。端で店を構えていてよかった。
「すいません~、通してください、ちょっと営業証見してもらっていいですか?」
早速商業街の巡回がやってきた。クロウは大人しく言われたものを見せ、彼らの仕事に協力する。
「折角だから、私達も貰っていいですか?」
「ぜひぜひ、から揚げの方は銅貨6枚、シチューは8枚です」
日本円でから揚げは600円、シチューは800円だ。
「お安いですね!儲けは大丈夫ですか?」
「はい、高級料理でもないですし、材料はよく取れるんですよ」
「なるほど、おっと、ありがとうございます」
巡回の人達もクロウ達の料理に舌鼓を打つ。あっという間に食べ終えた彼らは、礼を言うと、仕事に戻った。日が暮れてきた頃、客足も途切れ、クロウとクロは片づけを始めた。クロウが発明した魔導洗浄機に鍋も器も全部入れ、テーブルをアイテムボックスにしまった。
「お疲れクロ、よしよし」
「えへへ!ご主人もお疲れ様!」
「仕事も終わったし、遊びに行こう」
「行く!」
洗浄し終わった食器や器具を元に戻し、フードトラックをしまう。その頃には日も沈み、ガラスで作った綺麗な街灯が道を照らす、そんな綺麗なオアシスの夜を、2人はゆっくりと散歩する事にした。




