クロウの天空城
夜、任務を終えた紫林兵の代表が札をクロウに返しに来た。無事に王弟派は降伏した一部を除き全員斬首、王弟も保護され、王女達の元へ護送された。こうして反乱の芽は咲く前に摘まれた。
「そういうわけだ、無事解決だな?」
「はい、ではこちらを」
イルルから鍵を一つ渡された。
「これは?」
「天空城への鍵です。これがあれば空に浮かぶとある城へ入れると言われています。私たちは」
「いらない」
「え?」
「はぁ....」
クロウはため息をつくと、指を鳴らした。すると、アルテマの集いのギルド本部上空に巨大な大地が出現した。
「それがどれだけ大きな天空城か知らないけど、これより大きい?」
クロウの天空城は、その影だけでマイータの都市をまるまる隠せるほど巨大、空に浮かぶ山脈と言っても過言ではない。
「いえ...これほどとは」
イルルは部屋の窓ガラスの外から見えるクロウの天空城の縁を見て、引きずったような苦笑いを浮かべた。
「困りました、これ以上のものは...」
「いいよ、弟子の依頼だ、今回は貸し1つにしておくよ」
イルルは部屋の外へ出るクロウに頭を下げる。クロウも手を振るとギルドハウスから立ち去った。
「次はどこに行こうかな」
榛国も瑠州のごたごたも終わったので、クロウはせっかくだから榛国の各州を回る事にした。
現状存在する州は元西域である西州、
旧金国は榛国の王都となり、榛都、
旧瑠国は瑠州、
元什国は改建され、傭州、
北方3か国は更地になってしまったので、新しく燕州、
聖王国は新しく、洋州とそれぞれ名前を変えた。
折角だからイルル達に見せたクロウの天空城でゆっくりと移動する。一番最初に<魔導>を習得してから私財を投げうって作り上げた<天空城ハイデマリード>
最初はハ〇ルの動〇城を参考に作っていたが、Lvが上がるにつれ、新しい魔導技術や物質を作り出せるようになり、ゲーム内でついに異次元へのアクセスと異世界へのアクセスを手に入れた時、<反物質>と<反転>を習得した。それにより、クロウは天空城の底に浮遊物質や<重鉱石>という物質に重力を付与できる鉱石の<反物質>を作り出し、作り上げたハイデマリード城を浮かび上がらせた。その後、大気圏の近くまで浮かび上がらせ、魔法で城をどんどんと改築する。土魔法でどんどんと大地を広げ、木魔法で森を作り上げ、どんどんと天空城を大きくする。気が付いたらいつしかアズガルド大陸の5倍近くになっており、もう自分も何を作っていたか覚えてないので、死霊術と魔導の最高の結晶である人工生命体の研究を兼ねて、不死の生命体を作りつつ、彼ら彼女らに天空城の片づけを任せた。
「あれ?すごい綺麗になってる」
ハイデマリード城に転移する。この天空城はクロウの作り上げた天空城の1つであり、1番クロウは弄りまわした天空城である。古い装備やロボット、北帝領では研究できないエインヘリアルや衛星兵器も数多く存在する。
「ごっしゅじーん!」
天空城にたどり着くと、横からメイド服を着た少女がやってきた。背が高く、艶やかな黒髪と黒目が特徴の活発な女性だ。
「クロ!久しぶり!」
「えっへへ、数年ぶりのご主人だよくんくん」
「わー!嗅ぐな嗅ぐな!」
クロはハイデマリードで作り上げた初代人工生命体であり、異世界や異次元の技術も遠慮なしに作りこんだ最強の人工生命体の1つである。特に戦闘能力に特化しており、彼女1人で衛星兵器級の攻撃を繰り出す事も容易だ。また、異次元へアクセスした際に、クロウが強奪した<異次元の神>の力も備わっている。
「よしよし」
人格形成の際に、<従順>と入れたせいか、まるでワンコのように甘えてくる。動物を飼った事はないが、きっと犬を飼ったらこんな感じになんだろうと思った。
「ずいぶんと綺麗になってるけど、クロが片付けてくれたのか?」
「そうだよ!ミドリに習ったんだ!」
「ミドリか」
3つ目の天空城、異世界に存在する精霊王国、ようはホムラに力を貸している精霊王がいる国の上空に浮かんでいる城だ。あそこにはミドリという3人目の人工生命体がいる。彼女もクロと同じ、戦闘が出来るがクロ程ではなく、むしろ<回復>に特化した存在と言える。ただ神頼りの<神聖魔法>のような回復ではなく、精霊達に習った<治療>と言うか、寧ろ<奇跡>に近いものになっている。もちろん彼女も<異次元の神>の力を持っており、その神の力を持ってすれば一時的だが、クロウに匹敵する<生命操作>の力を使う事もできる。
「礼儀作法と家事はミドリが1番だからな、今度会ったら礼を言いに行こう」
「うん!みんなご主人に会いたがってたよ!」
「そうかそうか、じゃあ今度皆でご飯食べような」
「食べる!えへへ」
「よしよし」
「むへへ、また何か作るのご主人?」
「いや、今回はクロと旅行しようと思ってな」
「旅行?一緒に!?」
「おう」
「やったぁああ!」
クロが嬉しそうに走り回る。瓦礫とボロ機械と荒れ果てた森だったハイデマリードは、美しく整っており、さまざまな野生動物が幸せそうに走り回る大きな森林、海かと思うほど巨大な湖、現在、クロウとクロが向かっている涼しい風の吹く丘の上の少し不格好な家に向かっている。この家はクロウが初めて作った家であり、ゲームシステムに頼らず作り上げた家だ。この家はクロと一緒に作った家でもあり、数少ないクロウが作り直していない家である。
「うわぁ、まじでいつかこの家作り直したいな」
「いや!ご主人と一緒に作ったこの家がいい!」
「わかったわかった」
ぐりぐりと頭をクロウにこすりつけて攻撃してくるクロをなでなでし、家の中に入る。最後に来た時と変わらない椅子に腰をかけ、クロの用意したお茶を飲む。
「お!腕を上げたなクロ」
美味しいお茶を飲みつつ、クロウは榛国行脚のプランをクロに話した。




