新イベント参戦です
気が付いたらプレイ時間も500を超え、今まで参加を控えていた大型イベントも新しいのが始まろうとしていた。職場でも同僚の何人かがプレイを始めており、残念ながら別部署のため話題には加われないが、自分の気に入ったゲームを知り合いもプレイしてると言う事実がそれなりに嬉しかった。
週末の夜、一週間をかけて過去のイベントからの推測や公式の事前情報を集計分析する。今回のイベントは領地争奪戦。明日土曜日の朝午前10時からスタートだと言う。折角なので今日は事前準備を済ませ、早めに休憩する事にした。翌日、朝早くから食事トイレを済ませ、早速ログインする。ゲームに入った後、サーレロの街の宿屋で装備の点検をしていると、町中にシステムの声が響いた。
「ただいまより、イベント<大陸争奪戦>を開始します。まずは王様の告知をお聞きください」
「冒険者諸君、王都と大陸に生きる全ての存在よ!時は来た!分裂したこの人間大陸を統一する時だ!」
それから王様の鼓舞が長々と放送され、それが終わるとプレイヤーの目の前にイベントの説明が出現した。
どうやらサーレロやベルガの街は領域で言うと人間大陸の南方に位置する場所で、それぞれ東部や北部に違う王が統治する王国があると言う。古代からそれぞれ辺境で小競り合いをしていたが、ついにここのサーレロやベルガがある南部地域の王様が領地拡大に乗り出したという。所属を決めていないプレイヤー達は南部地域だけでなく、東部や北部の王国に行く事に行くこともできるようだ。だがクロウはまず南部地域で様子見をすることにした。
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南部地域、古くから肥沃な土地と豊富な海産資源が特徴で、人間大陸の中でも最も人口と食料の多い王国である。だが、争いが少なく、国民と兵士は温厚な性格だ。だが最近新しい王様になってから領地拡大への意欲が隠せなくなり、少しずつ国民と兵士も王様の拡大戦略に賛同した。そして今日、ついに大陸の四か国はそれぞれお互いに宣戦布告し、ゲームのマップをプレイヤー自ら書き換えられるゲーム史上最大のイベントが始まった。
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Lv30の魔法使いに偽装し、東部辺境の城塞都市で後方火力部隊としてクロウはイベントに参加したり、吟遊詩人と名乗ってスパイとして各国の情報収集をしていた。今のところ、財政と人口は南部王国が一番だが、情報戦では東部王国、鉱石と武力では北部、魔法と破壊力は西部王国が一番だという。戦闘が終わった後、クロウは荷物をまとめて、まずは北部に向かう事にした。北部はモンスターの平均レベルが一番高く、氷原、氷山や永久凍土が広がる過酷な地だが、その分未開拓の鉱脈や見返りも大きい。それに今回のイベントは広がった領地の分はプレイヤーと所属王国への報酬やポイントが一番多く加算される。北部王国から南部へ戦闘を仕掛け、領土を勝ち取るのもいいと思うが、誰もいない北部の凍土や氷山を自ら開拓しても同量のポイントがもらえる。過去のイベント戦を振り返ってみると、尋常じゃないプレイヤースキルを持つものがそれはもう多くいるので、プレイヤースキルで劣っていると自負するクロウは、大人しく未開土地の開拓に専念する事にした。
南部から北部に行くのに平時のように馬車の乗るわけにもいかず、色々な方法を探っていたが、他のプレイヤーはどうやら教会のテレポートクリスタルが使えるようだが、そもそもクロウは教会の10m以内にも近づけないので、と言うか近づくと教会が物理的に崩れ落ちそうにブルブル震えるので、諦めて自分で向かう事にした。
「<召喚:霊馬クリスティーナ>」
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霊馬クリスティーナ、古代の西部王国に降臨したと言われる聖女の相棒。清純な聖女と純白の高貴な白馬は西部と東部の100年戦争を終わらせる切り札だったと言う。だが、戦争が終結した後、西部国王は聖女の名誉が己の地位を脅かす事を恐れ、彼女の清純を奪い、殺害した。同様に彼女の純白の霊馬は薬を打たれ、無残にモンスターの餌にされた。聖女と霊馬は死後、その怨念と執念を獄帝と冥帝に認められ、その死後を冥府と地獄を自由に行き来する霊馬と、西部王国に夜な夜な現れ、王国関係者と教会の聖女聖者を狩る堕ちた聖女になった。
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南部から北部まではそれなりに距離があり、今回のイベントの事を考えるとあまり遅れは取りたくない。なのでクロウは急いで向かう事にした。
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地獄の霊馬が駆けていく。長閑な街並みを震え上がらせ、赤子を泣かし、人々に恐怖を植え付ける。
黒いローブを羽織った死神は、青白い霊馬に跨り地を駆ける。神父が恐れ、聖女が震え、十字架がひび割れる。聖水は濁り、白銀は灰となり、聖なる像は下を向いた。そののち、南部王国に一つの噂が生まれた。
曰く、争いと死者を弔う地獄の使者がやってきたと。
曰く、彼の者は北部と南部の戦争を終わらせる者だと。
運悪くその姿を目撃した冒険者は恐ろしい程のデバフと恐怖を植え付けられ、人によっては数か月間剣を握る事すらできなくなったと言う。
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