大統一
北方三か国との戦いを終え、紫榛宮に戻ってアベリー達と大臣がいる謁見の間に入る。すると、2人を除き、全ての大臣たちが膝をついてクロウを出迎えていた。
「アベリー、これあげる」
章、牟、袁の3つの伝国押印をアベリー達に渡し、クロウは迫りくるオリアナから逃げるように謁見の間を飛び出した。この戦いから、クロウはオリュンポス大陸では<国均しのクロウ>と言われ、誰も彼の実力を疑うことはなくなった。そうして、榛国は西から北へかけて、金、瑠、什、章、牟、袁の6か国を併合した、超大国として、オリュンポス大陸に君臨することになった。同時期に、聖王国も残った1国を併合し、オリュンポス大陸には聖王国と榛国しか残らなかった。
「北方三か国の復興で暫く動けない。惜しいけど、今は敵の偵察とスパイを送り続けよう」
1年後、聖王国は天使兵と言われる天使を憑依させる特殊部隊を編成しているとスパイから情報が入った。その頃には北方三か国の再建も完了しており、現在、榛国は200万を超える大軍を有しており、国民も500万を超えようとしていた。一方聖王国も100万を超える兵力を有しているが、天使兵の一騎当千の力により、恐らく実際的な兵力は榛国の2倍である。
「最終決戦は冬がいいと思います」
オリアナがアベリーとナベリーに進言する。
「どうしてだ?」
「私の占星術によると、今年は大陸中に大雪が降ります、南国の食料自給は非常に寂しい物ですので、こちらから貿易封鎖をしたのち、半年聖王国を干した後、ぐしゃっ、と」
オリアナは手のひらを握りしめる。
「分かった、これで最後の戦いにしよう」
早速2人は聖王国へ貿易封鎖を開始する。同時に辺境の守備隊を増強し、臨戦態勢を整えた。すぐに聖王国から抗議の知らせが届くが、アベリーとナベリーはそれを無視し、引き続き最終戦争に向け準備を進める。半年後、聖王国内で食料不足による飢餓が発生し、聖王国はそんな現状を打破するため、榛国へ宣戦布告した。アベリーとナベリーが布告状を受け取ると、すぐさま作戦を開始した。北部辺境から四方軍が、南部辺境から虎咆軍と紅詠軍が突撃を開始、クロウは紫榛宮で護衛をすることになった。天使はクロウと深い因縁がある。また以前のように天使が降りてきて、直接アベリー達の命を奪いに来るかもしれない。なので、クロウも珍しく警戒していた。
前線からは吉報が次々と届けられる。飢餓に苦しむ聖王国の兵達に長時間戦う余力はなく、数時間敵の攻撃を凌いだ後、反攻に転じたらあっという間に敵は敗走していった。そうしてあっという間に聖王国王都まで攻め込んだ時、前線で戦っている将軍達は一度侵攻を停止した。
「これが、天使兵」
純白の鎧を身に着け、背中から翼を生やし、光り輝く槍や剣を持った兵士たちが、空虚な瞳で榛国の兵士達に歩み寄る。並みの兵士では歯もたたず、斬られた兵士は体中から黄金色の火に包まれて灰になった。遠くから弓を放っても投石機で石をぶつけても、首を刎ねられても近くの兵士が蘇生魔法で生き返らせる。
「不死の兵隊じゃねぇかよ!」
南方戦線にて、虎咆将軍も珍しく兵を引いている。クロウが自ら赴けばすぐに片付く事だが、アベリー達の護衛もあり、この場を離れる事にはいかなかった。前線の兵士全てに獄気か冥気を付与すれば天使兵の不死性や蘇生も効果を失うが、流石に200万人に付与するなんてやったことはない。MPを気に変換するのも効率が悪すぎる。すごく考え抜いた結果、クロウはオリアナを宮殿の裏、誰もいない人影に連れてきた。
「クロウ様?」
流石にこんな局面でふざけるわけにもいかず、オリアナは策士モードと言った感じの真面目顔だ。
「頼むオリアナ、俺を誘惑してくれ」
「いや流石に今は、お誘いは嬉しいですけど」
「本気で言ってるんだ」
流石のオリアナも少し引いたが、見たこともないクロウの真面目な顔を見て、信じることにした。そうして彼女はその賢過ぎる頭を使い、クロウの耳元であられもないことを囁きだした。
「情欲練成、獄気付与」
オリアナの囁きを聞きながら、湧き上がる情欲を獄気へと練成する。そしてそれを前線の兵士達に付与していく。恐らく今、前線の兵士達は、突如上空に現れた巨大な色欲の魔王の姿に驚き、そしてその魔王からの投げキッスにより、一時的な獄気の付与と、<興奮状態>に陥っている頃だろう。将軍達にも抗いがたい興奮状態になり、全軍反攻を開始した。
「お前ら!斬って斬って斬りまくれ!」
獄気を纏った兵士達の攻撃はやすやすと天使兵の防御を突破し、蘇生魔法も発動はするものの、蘇生はできなくなっていた。
「はははは!一気に攻め落とせ!」
数日後、いつぞやの逃げ出した勇者も、大司教も教皇も、ことごとく首を刎ねられ、榛国は見事の聖王国を滅ぼした。こうして榛国はオリュンポス大陸を征服し、自らを榛皇と名乗り、榛は大陸唯一の国になった。




