大陸統一の初戦
1週間後、クロウは残った狭氏と朽氏の部族達を連れて帰ってくると、アベリー達が再び演説をしている所にちょうど会った。クロウも城門から入り、彼の演説を聞く。
「偉大なる西域の戦士たちよ!再び飢えに苦しみたいか!我々の門下に降れ!終わらない戦いと、尽きない食料をくれてやろう!」
1か月後、見事合計15万人を教化したアベリーとナベリーは、その膨大な国民を利用して、西域を開拓し始めた。初めは丹氏と、狭氏、朽氏のこの3部族の古から長く続く怨念やいがみ合いに少し困ったが、西域開発が進むにつれて、彼ら3部族の執念も薄れていった。半年後には西域の開発も済み、この3部族も全て<榛氏>に改名した。開発の結果、西域の半分は砂漠のまま、残り半分は魔法によって草原地帯や森林地帯に変えられた。無知な彼らもナベリーとクロウにより、農耕技術や水利技術、その他多くの知恵と技術を学んだ彼らも、元丹氏同様、すっかりと榛国に溶け込んだ。
「いやぁ、変わったね僕ら」
「そうさね」
アベリーとナベリーが共に自分たちの住処である紫榛宮で仕事しながら話していた。20万人という膨大な数の国民の管理に四苦八苦していたが、今ではすっかり慣れ、クロウが見つけた西域で膨大に取れる特殊な鉱石である<黄沙石>、これをクロウの言う通り、高温高圧で加工をすると、<赤黄鉄>と言う特殊な鉄になる。この鉄で作り上げた装備は打たれ強く、水にも火にも強い素材となる。これを素材に彼ら3民族の良い所を練りこんだ新しい戦闘方法や戦法を作り上げた。丹氏は投げ曲刀、狭氏は弓、朽氏は呪術を、そんな彼らの技術を全て取り込んだ<榛式兵法>を作り上げた。
現在、アベリーとナベリーは新しい法律を制定している最中だ、そのため、クロウは金国と榛国の辺境を監視している。ゲーム内では現在、秋の終わりに差し掛かっており、今年も農作物が大豊作で、農業従事者達は踊りながら収穫していた。だがナベリーの密偵部隊、<密榛>によると、金国は今年の干ばつにより国内食料が足りず、周辺国には実力で及ばないので、独立を宣言し、周辺蛮族を教化し、今や大国にも及ぶほどの国力を手に入れた榛国へ侵攻をする気だ。
「ふん、まだうちらの事を昔のまんまだと思っているようだね」
「そろそろいいんじゃないかな?」
1か月後、榛法の制定が終わったアベリーとナベリーは密榛からの報告をクロウと相談していた。
「大先生、これって本当ですか?」
「ああ、密榛の報告に間違いはない、今年の干ばつ具合から見て、他国に攻め込む度胸はない。だからあいつらが攻め込むのは榛しかないだろう」
「わかった、始めよう」
「同感だアニキ」
ナベリーとアベリーは紫榛宮に皆を集める。20万の軍隊は今や5万ずつに分割され、それぞれ1軍から4軍に分割管理されていた。これらの軍は3部族が混合編成されており、それぞれの軍1つで小国を滅ぼせるほど編成が組まれている。
「全総括将軍を呼んで来い!戦争の時間だ!」
アベリーとナベリーは紫榛宮にそれぞれの軍の総統括である将軍を4人を呼んだ。クロウは表向きではあくまで2人の軍事顧問兼監国卿だ。いつものように大先生などと呼ばれてはいけない。
「今年の冬、金国が攻めてくる。密偵の情報でも裏を取った。狙いは食料だろう。だが!我々はもう昔とは違う!折角手に入れた安寧を踏みにじられたいか!」
「否!」
「ならば戦争だ!我々を踏みにじる者を全て打ち倒すまで!争いを終わらせる為の争いをしよう!」
終わらない戦争を終わらせるための戦争。2人はそういって金国へ先手を打つことにした。
数日後、金国への逆侵攻が開始した。最初は第4軍を5つに分断し、それぞれの万人長に先鋒を務ませる。彼らは期待以上の成果を上げ、辺境の都市や城はこの不意打ちに次々と陥落した。だが金国の城が5つ落ちると同時に、金国の軍も動き出した。彼らも20万人の軍をもっており、兵力だけでは榛国と同じだ。
「4軍、撤退だ。城から金品財宝食料全て持ち出せ、そしてそのまま敗走しろ。後方4キロまで下がったらそのまま包囲戦に持ち込む。総括将軍、どれだけ騙しこめるかで君の功績が決まるよ」
「お任せください、全軍連れてきます」
今回防衛に来たのは金軍10万人、金国の常備戦力の半分である。
「撤収しろ!みすぼらしく!敗走だ!とにかく逃げろ!」
4軍総括将軍は全ての万人長に通信を送る。金軍の敵将も無様に敗走する榛軍を見て、やはり榛国は一生本国である金国には勝てないと、タカを括って反攻を開始した。全軍で敗走する榛軍を追いかける金軍、彼ら全軍が奪い返した城の後ろ5キロ地点までたどり着いた時、異変に気が付いた。
「静かすぎる、先ほどまで敗走していた兵士は?」
「将軍!申し上げます!見つかりません!敵の策かもしれません!戻りましょう!」
「む、そうだな!全...」
戦笛が轟く。開いた平原から、蹄鉄と黄土色の鎧を纏った兵士が地平線を埋めるように現れる。榛軍の兵士一人一人が<戦雄叫び>のスキルを使用する。大群の戦雄叫びに脚が竦み、全員に<戦恐>と言う重度のデバフが付与される。前方に現れた10万人、そして敗走したはずの5万人が突如彼らの退路を封じた、今の状況では、彼らはただその場で目を疑う事しかできなかった。
「馬鹿な!敗走したはずでは!?」
「はっはっは!<夢>か<幻>でも見てたんじゃないのか?」
榛式兵法の術の一つで、拠点単位で攻め込んできた敵軍に幻を見せる呪術である。数日しか続かないが、今回のような状況にはピッタリだ。反攻した金軍に敗走する幻を見せ、本当の4軍は金軍の後方に附いて、退路を断つ。
「金軍共!降伏しろ!今なら将軍の首を持ってきた者に金100枚を与える!」
金軍の兵士は糸が切れたように武器を捨て降伏した。彼らの将軍も自軍の兵士に首を切られ、統率を失った10万人はみっともなく降伏した。
「よくやった4軍総括将軍、捕虜は全員殺せ」
「え?」
「全員殺せと言っている」
「は!」
アベリーとナベリーの指示通り、総括将軍はその場で10万人の金軍を一人残らず打ち首にした。クロウは4軍が撤退した後、クロウが夜間に一人で10万人を打ち首にした平原にやってくる。
「魂魄吸収」
10万人の死の業をクロウは吸収する。本来ならこれはアベリーやナベリー達が背負うはずの業だ。だが、残念ながら西域の開発は完全とは言えないし、金軍もよく蛮族領である丹氏や狭氏達を捕まえては殺して回っていた。残念ながら彼らを生かすメリットは一つもない。だが、いずれ柳族かそれ以上の功績を残すものであるならば、金国、つまり金族もいずれ教化しなければいけない。だからこの業とこれからの業もクロウが背負う事にした。
(地獄や冥府、六道系の威力上がるし、丁度良いね)
特に偉大な目標などなく、シンプルに自分の魔法とスキル威力の為だった。




