勇者とクロウその4
翌日、午前は引き続きマイと幻蝶乱舞の練習をし、昼を食べた後、初めてのクエストに行くことにした。南国ギルドで初めて受けるクエストは薬草採取。常設クエストであり、誰がどれだけ取ってきても決まった値段で買い取ってくれるのが常設クエストのいい所だ。他にも常設クエストはあり、ゴブリン討伐やオーク討伐も含まれている。オーク肉は常設クエストの中でも討伐が難しい部類に含まれるが、オークの肉は非常によく売れるのでギルドも大歓迎だ。
「はい、と言う事で、主に薬草を探しつつ、もしゴブリンやオークが出たらついで倒しちゃいましょう」
「はい!」
イリアの街の外、フィールドで薬草を探す。クロウは<鑑定>があるのですぐに見つかるが、ヒノカはそういうわけにはいかないので、クロウも一緒に<鑑定>を使わずに薬草を探してみる。クロウはステータスの差があるので、スイスイと薬草らしき草を見つけては採取していく。ヒノカは慎重にマイに教えてもらった特徴を丁寧に見極めながら採取していく。最終的にクロウは50本ほど、ヒノカは20本ほど見つけた。マイに見てもらった結果、クロウは50本の内、10本は薬草、20本は毒草、20本は雑草だった。反対にヒノカは20本の内18本は薬草、2本は雑草だった。マイは合格と言い、次にフィールドを探索し、モンスター退治をする予定だ。
薬草採取をしていた場所から奥へ進むと、イリアの森が見えてきた。ここには常設クエストでありゴブリンとオークの小さな集落がいくつかあり、初心者のための戦闘訓練場ともいわれている。だが油断は禁物。調子に乗ったかけだし冒険者が死にかけた事も多数存在する。冒険者の一番の敵は己の傲慢だ。
「ヒノカ、この木の傷跡、これはゴブリンのなわばりだって言う印だ」
マイは木に付けられた二重丸のような傷を指さして言う。
「ここからゴブリンの縄張りだよ。今日は一体倒して終わりにするけど、油断は禁物だよ」
ゴブリン、緑子鬼と言われる弱小だが狡猾なモンスターだ。群れで生活し、あらゆる雌の生物と子をなす事ができる恐ろしいモンスターである。オークより知性が高く、ウソ泣きやトラップも平気で使ってくる。
「召喚:<シャドー・スライム>」
念のためヒノカの影にスライムを入れておく。あらゆる物体や人物になれるスライムだ。最悪死角からの攻撃をかばってくれるだろう。
「よし、じゃあ行こうか」
マイと共に2人はゴブリンの縄張りへと入っていった。
「来たよ」
巡回しているゴブリン達を見つける。クロウは新しく習得した隠密スキルで完全隠蔽する。マイとヒノカは草むらに隠れて周囲を観察していた。
「周囲には他のモンスターの影無し、複数体いるけど、全部いける?ヒノカ」
「いけます」
そう言った後、マイは訓練通り、石をゴブリン達の後ろに投げて気を引く。ゴブリン達が後ろを向いた瞬間、
「「幻蝶乱舞」」
2人同時に草むらから空を舞うように飛び出し、そのままゴブリンの首を一閃した。
「あっ、Lvが上がりました」
「おめでとう、力がみなぎったような感じがするでしょ?」
「うん」
「でも無茶したダメだよ?君たちは死んでもすぐに教会で蘇生できないからね、Lvアップのために無理矢理危険な戦いをして、モンスターに肉の欠片も残らなくなるまでめちゃくちゃにされたら本当に蘇生もできないから」
マイは真剣な顔でヒノカに何度も言った。ヒノカもそれをしっかりと理解したようで奥に進んでいくときも、ヒノカは落ち着いてきちんと周囲を警戒しながらゴブリンの集落へと進んでいった。
「見えた」
ヒノカとマイはお互いに顔を見合わせて方向を確認する。簡単なやぐらが2つとそのやぐらに見張りゴブリンが2体。その他にも周囲を警戒しているゴブリン達が4体いた。
マイは今回はヒノカだけに戦わせるつもりだ。
「大丈夫、しっかりと訓練した事を思い出して、焦らずね」
ヒノカは意志を固め、短剣と魔法を構えて集落へと進んでいった。彼女はまず、周囲にいくつか罠を仕掛けた。そしてやぐらの注意を惹くために、いつものように石を投げて注意を引いた。するとやぐらのゴブリン達は周囲にいるゴブリンに確認して来いと恐らくゴブリン語でそう言ったのだろう、3体のゴブリンが石の投げられた場所へ向かう。そうしてゴブリン達がある程度離れると、ヒノカは短剣に魔力を籠め、炎の蝶々が3体のゴブリンの方へと飛んでいった。ゴブリン達は蝶々を一度見ると、取りつかれたようにその蝶々を追いかけて、手で掴もうとしていた。その隙にヒノカは一体ずつ心臓に一突きを入れるか、首を跳ねて声も上げさせずに素早く3体を葬った。そして来た道を戻り、残ったゴブリン達も同じように炎の蝶による魅了効果で、やぐらにいるゴブリンは蝶を追いかけるあまりそのまま転落死、残った1体もあっけなく首を一閃された。
全員倒した後、ヒノカは素早くゴブリンの魔石を取り出し、マイとクロウに見せた。マイとクロウは共にヒノカの頭をなで、3人でギルドに戻る事にした。
「ありがとうございます。ではゴブリンが8体、薬草が28本ですね。こちら報酬になります」
「ありがとうございます」
ヒノカはお礼を言い、報酬金を確認してマイとクロウに平等に分けようとしていたが
「大丈夫、それはヒノカが自分の手で得たものだから、ヒノカが全部受け取るべきだ」
「で、でも、私、貰ってばかりで」
マイは待ってましたと言わんばかりに目を輝かせて、
「じゃあ私たちのギルドにおいでよ!」
そうしてヒノカは見事クロウではなく戦乙女達に連れていかれた。




