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勘違い魔王のVRMMO征服記  作者: 愛良夜
第一章 アズガルド大陸
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ベルアルと旅行です

セシリアの一件から、各地で大きく色々な変化が生まれた。まずは南国サウフォードにて、ゼロは女王を蘇生したことにより、その功績を大きく称えられ、南国で爵位を授与された。だが爵位と言っても本人は領土や領民はいらないと言い、一代限りの男爵位だけ頂戴したという。西部大陸では、中央部分を占めていた旧国王派が消滅したことにより、3つの派閥の緩衝地帯となる、通称中立領が出来上がった。中立領のトップは西部議会、この世界で初めての議会制政治の誕生であった。中立領では戦闘は禁止されおり、近々ゲーム運営からも正式に都市として分裂後の西部大陸で初めての戦闘禁止区画になる予定だ。中立、とはいうものの、中立領に存在する都市は全て教会派に属しており、警備隊や防衛隊はミナト領が、銀行や食料はヒューゴ領が掌握している。もしかしなくても舞台裏での激しい対立はまだまだ存在するだろう。東部王国にもセシリア殺害を手引きした者がいるようで、東部王国の実質的支配者である<松田幕府>の者から抗議の手紙が送られてきたが、今回、天使の梯子に焼かれた者達の生前の録音を送り付けると、何も言わなくなった。


そして当のセシリアはと言うと、


「クロウ~!逃げないで!」

「セシリア、ダメだろ女王がこんなことしちゃ!」

「いいもん!私死んでたんだから!」


後で調べて分かったことなんだが、普通、イベントやクエストの都合でしかNPCは蘇生できず、そもそもNPCに蘇生魔法は通用しないことが多いらしい。いわゆるNPCにガチ恋をしたプレイヤーが、クエスト上の都合でどうやってもモンスターに殺されてしまうNPCを何度も蘇生しようとしたが、生き返らせることは不可能だったらしい。だがゼロはそれをやってのけた。果たしてそれは彼も強力なNPCだからなのか、はたまた同じNPCだったからなのか。それはわからないが、今はセシリアが無事に帰ってきたので良しとしよう。クロウは天界の他の天使がセシリアを連れて行こうとした天使を殺した事を警戒し、暫くはセシリアの元で護衛として再び天使たちがセシリアの魂を奪いに来るんじゃないかと思い、ここ一か月ほどずっと一緒にいたが、そんな兆しもないので、そろそろ北帝領に帰ることにした。だがそれを感じたのかセシリアは、なんとクロウを生き返ったメイド達と共に、自室に攫ってきたのである。当のセシリアも透き通るくらい薄いネグリジェでクロウに抱き着いてきており、なんとか急いでここから逃げ出したい気持ちであった。


「セシリアやめんか!もうダイジョブだから!天使とかももう来ないから!」

「わかんないよ!また来たらどうするの!」

「緊急連絡用の指輪渡したじゃん!それに力を籠めれば俺に連絡とセシリアの現在位置が来るから、真っ先に飛んでくるって」

「いやいやいや!」

「こんのわがまま女王め!召喚:<睡眠触手>!」

「えっなにそれクロウ、待って、ごめんなさい、謝るから、謝るから!」


流石の女王も触手には勝てないのか、全身触手に梱包され、分泌する睡眠効果のある匂いを嗅いで、4秒と持たずにすやすや眠りについた。そっと彼女をベットに寝かせ、布団をかぶせると、クロウはメイド達も触手梱包してやろうかと思ったが、恐らくはセシリアの指示だと思うので、大変ですねと労い、彼らの申し訳ない顔を土産に北帝領に帰ることにした。


「ただいまベルアル、明日空いてる?」


やはり我が家が一番心地いい。


「戻ったかクロウ、明日?何のようだ?」


久しぶりにベルアルに会った気がする。彼女は相変わらずの鉄面皮をかぶり、手元の書類に目を通していた。


「そういえばベルアルは浮世の里に連れて行っていないと思ってな、一緒に旅行に行かないか?」


ベルアルと彼女のお付きの人含めて、みんなが固まったようにクロウの方を見ていた。


「え?なんか変なこと言った?え?」

「いえ、クロウ様はベルアル様に多大な貢献をしてくださった人ですから、てっきり彼女を利用しているだけかと」

「とんでもなく失礼だね」

「ひっ!命だけはお助けを!」

「殺さないよ....」


おや、ベルアルが物凄い勢いで仕事を始めた。


「クロウ、明日は何時に出発するんだ」

「えっ、あー、どうせなら朝7時くらいから行く?」

「わかった」


それだけ言うと、彼女は他の省長が持ってきた書類の山をものすごい勢いで処理しだした。そんな彼女を邪魔してはいけないと思い、クロウは静かに自分の領地へと退散した。


翌日、ベルアルはヨガパンツにランニングシューズとクロウ領で生産しているジャージを羽織るという、すごくスポーティな格好できた。うん、いや別にいいんだけどね、いいんだけど、


「登山はしないよ?」

「わ、わかっている、ただ普段は会食や会議用のスーツやドレスしかなくて...」


ベルアルの顔は全く変わっていないのに、声だけはどんどんしぼんでいく。一瞬腹話術かと思ったけど、ベルアルのすらりとした脚にはヨガパンツがよく似合い、170cmを超える身長はより一層彼女を健康的に見せていた。


「まあ、ベルアルに似合うからいいと思うよ」

「本当か?」

「ほ、本当だよ近い近い」


少し彼女から離れ、クロウは浮世の里へのポータルを開いた。


「よし、行こうか」

「う、うむ」


ベルアルは初めてポータルを使用するみたいで、目をつぶってポータルを潜った。次にベルアルが目を開けた時、彼女は目の前に広がる綺麗な桜夜道と賑やかな人通りに驚いていた。と思う。クロウはとりあえず彼女にも和風を体験してもらおうと思い、彼女を着物屋さんに連れて行った。


「こんばんわ」

「こんばんわ、あら!英雄さん!」

「いやいや、ただのクロウですって」

「そちらのお連れ様は、あら、里へは初めて?」

「そうなんですよ、彼女に合う着物の既製品があれば一式お願いできますか?」

「いえいえそんな既製品だなんて、オーダーメイドですぐにおつくり致します」

「えっいえそんな申し訳ない」

「いいんですよ英雄さん、グルーザの街には私の娘も住んでいたんです、娘の命の恩人なんですから、遠慮しないでください」


女将はそういうと、従業員と共に優しくベルアルを奥の仕立部屋へと連れて行った。顔は変わらないものの、声は慌てている彼女を見送り、クロウはアイテムボックスから自分用の和服を探した。数時間後、女将は「お待たせしました」と言い、奥からベルアルを連れてきた。マーガレットの花の模様が入った彼女の和服は、セシリアとは違った美しさを醸し出しており、クロウは言葉を失った。


「ク、クロウ、あまりまじまじと見るな...」

「ご、ごめん、あまりにも綺麗で、つい」

「....!」


恥ずかしさのあまりか、ベルアルはクラスⅢの氷魔法を使用しそうになり、正気に戻ったクロウが急いで止めた。


「じゃあまずはご飯を食べようか」

「う、うん」


ひとまずは朝食を食べに、クロウのお気に入りのおむすび屋へ、ベルアルの好きな鮭のおむすびとクロウの好きな焼肉風味のおむすびをそれぞれ一つずつ注文し、2人は寄り添いながらゆっくりといろいろな店や景色を堪能しながら夜桜通りを散歩した。ベルアルは今までクロウのせいか、いやまあクロウのせいなんだが、クロウ領の仕事やこの世界最大の北帝領の政治や貿易、その他外交など諸々を全て一人でやっていたため、全く外出する時間がなく、むしろ違った意味で彼女は箱入り娘だった。彼女はクロウと毎日特訓していたり、クロウの作り出した最強のエインヘリアルの一つも持っているし、そもそもベルアル本人も始祖の血が色濃く顕現した人であるし、なんなら彼女ならセシリアを殺しに来た奴らを逆に1人で倒すこともたやすいだろう。うーん圧倒的安心感。夜桜通りを鑑賞し、鈴音池(すずねいけ)を訪れ、摩天楼を見上げ、天珠塔(てんじゅとう)の最上階から里を見下ろす。


「綺麗だな、ここは」

「ああ、北帝領とは違った美しさがある」


クロウとベルアルのおかげで、大規模都市化に成功した北帝領はもはや現代日本となんら変わりない。そんな北帝領とは違い、この里にはまだ昔ながらの不便、丁寧と人情が残っていた。遊び疲れた2人は、里で1番の旅館に来ていた。1番いい部屋と1番いい会席コースを予約したクロウ。北帝領では食べられない和風料理に舌鼓を打つ2人。その後は温泉にも入り、楽しい時間はあっという間に過ぎた。

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