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勘違い魔王のVRMMO征服記  作者: 愛良夜
第一章 アズガルド大陸
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おかえりセシリア

メルティからもらった黒鍵。いつぞや彼女が言っていた、冥府と地獄で()()が待っていると。クロウは今まで何かと理由をつけて、拒否していたが、先の宣教師と言い、今の中央国王派と言い、守りたいものができたクロウには、もう悪名だの変な名称だのを拒否する必要が無くなった。地面に黒鍵を突き刺し、そのまま目を閉じてゆっくりと体が沈んでいくのを感じる。深く、深く、地の底へと...


眼を開いたとき、クロウは大きな円卓の端に座っていた。背の高い王冠をかぶったスケルトンや、全身茨に巻き付かれた王様、白い髭と大きな狼を撫でている老人に、氷気を纏う無口で鋭い視線の青年もいた。その他にも体中から尽きない冥気を垂れ流している男に、地獄の炎をまといながら、談笑している男もいた。全身機械のロボットや、ピエロのような道化師や、聖典に出てくるようじゃ典型的な悪魔もいた。彼らは次々とクロウが座っている席に着く。全員が揃った所で、彼らは一斉にクロウの方を見た。クロウは何か言おうとしたが、それよりも、彼らから送られてくる力を抑え込むのに必死だった。クロウはこれが冥界や地獄の王たちの力なのだと分かっていたので、全て余すことなく吸収する。そうして無限に近い時間、ただ意思と根性で全てを吸収した後、王たちは満足げに円卓を立ち去った。最後に残ったのは冥神と獄神、恐らくこの二人だろう。


「選べ、人間、冥府と冥気、魂すら凍らせるこの力を望むか」

「それとも地獄と獄炎、魂すら燃やすこの力を望むか」

「両方だ」


クロウは何の迷いもなく、2人の神の前でそういった。彼らが激昂すると思ったが、彼らは顔を見合わせ、知っていたと言わんばかりにクロウを見て、クロウに同時に2種の力を与えた。クロウは体内に荒れ狂う冥気と獄炎を押さえつけようと必死に歯をかみしめる。同時にクロウはこの2つを御そうと、必死の覚悟で体中に力を込めた。それからしばらくすると、見事に冥気と獄炎はクロウに馴染み、クロウは自分の力が以前よりもさらに増したことを実感した。


「喜べ人間、これで貴様は神すら殺す権能を手に入れた。その力、思う存分振るうがよい、いつか貴様が死ぬ時また会おう、ふははははは!」


2人の神が嬉しそうに円卓を立ち去り、クロウはここからどうやって帰ろうか考えていると、懐かし艶めかしいサキュバスがやってきた。


「お久しぶりです、クロウ様」


いつもとは違い、愛らしい服装ではなく、正装を着たメルティがやってきた。ふざけたような口調ではなく、ちゃんとした態度だった。


「覚悟を決めてくださったのですね」

「そんなところだ」

「では、私からも」


メルティはそういうと、クロウの頬に優しくキスをした。その瞬間、クロウの身体の中から抗いがたい欲望が生まれる。冥気や獄炎とは違う意味で、クロウは歯を食いしばって耐える事になった。だがメルティはそんなクロウを見て、耳元で優しく囁いた。


「クロウ様~❤、情欲を燃料に❤、魔法や冥気を使用してください❤」

「うぐわぁああああ!」


メルティに刺激され、抗いがたい欲望が再び湧き上がる。メルティのいう通り、湧き上がる情欲も冥気や獄炎に投入すると、投入した分だけ膨大な力になった。とにかく爆発する前に全ての欲望を燃料にした。危ない危ない。


「流石クロウ様、飲み込みがお早い事」


メルティは改めてクロウにキスをした。しかし今回のキスは情欲を刺激するものではなく、クロウを元の世界に返すための転移魔法だった。


改めて自分の部屋に戻ったクロウ。かなり時間が経ったはずだが、時間は1分も経っていなかった。地獄か冥府か分からない場所でかなり長い時間を過ごしたはずだが、まあいいか。クロウは今まで内心、使用を禁止していたいくつかの衛星兵器に接続する。今のステータスで行くと、疑似魔力炉も冥王の心臓(ハデスハート)も構成しなくてもMPは足りそうだ。


「新型衛星兵器Ⅴ型起動、<天使の梯子>」


衛星兵器<天雷>を元に改良した戦略級殲滅型衛星兵器、天使の梯子。


「目標を決定、威力を最大」


衛星兵器がセシリアを殺した首謀者達を特定し、目標を決定した。近くに村人はおらず、関係者しかいない。


「天使の梯子、降下」


***


雲を割り、ゆっくりと空から光が降り注ぐ。柔らかに降り注ぐその光はむしろ神聖に思える、それに大陸中に降り注ぐ光に、多くの大陸民は吉兆だと思った。だが、光に触れた瞬間、音も声も出ずに、物体は消失した。抗いがたい光は、地方の悪代官や無能な大臣を的確に存在ごと抹消させていく。国民の多くはその光を栄光だと言い、数多くの国民は光を向いてその場に跪き、天使や神に祈りを捧げたと言う。


***


西部大陸中央国王派の宮殿も天使の梯子の効果で空き地になっていた。クロウは空き地の中から一つのアイテムを見つける。<解呪の数珠>。もしかしたらこれならセシリアを蘇生させる事ができるかもしれない。クロウはアイテムを持って急いで宮殿に戻った。セシリアの遺体はゼロが綺麗にしていくれていたので、棺の中の彼女に数珠を使う。光が彼女を包んだと思うと、彼女は数珠を取り込んだ。


「ゼロ!頼む!蘇生魔法使えるか!」

「使えるが、遅すぎるよ...」

「頼む!なんでもするから!」


ゼロは呆れたように、両目を見開いて、神聖魔法を使いだした。天からセシリアの魂がゆっくりと降りてくるのが見える、だが小さな天使がセシリアの腕をつかむと、必死に天へ連れ戻そうとしていた。クロウはその天使達に声をかける。


「下ろせ!」

「出来ません!できません!決まりです!」

「2度も言わせるな!下ろせ!」

「出来ません!」


幼い天使はクロウを何度の願いを何度も否定した。それを見たクロウは霊体のはずの幼い天使二人の首を掴むと、


「獄炎」


とだけ言い、悪魔のような天使の悲鳴と共に天使を焼き尽くした。そしてセシリアの魂はゆっくりと肉体に降りていき、死体だったセシリアはゆっくりと目を開いた。


「あれ?私、確か...あっ、ク、クロウ」


クロウは容赦なくセシリアに抱き着く。彼女が生きている事を確認するように、強く、心臓が動いているのが聞こえるほど、強く抱きしめた。それからクロウはゼロと共に、蘇生できるだけ蘇生し、魂すら降りてこなかった人たちは丁重に埋葬した。


「あのねクロウ、私ね、夢を見てたんだ。天使に、腕を掴まれて、ゆっくりと温かい光に包まれて、天に昇っていく夢」


セシリアはゆっくりと噛み締めるように言う。


「でもね、空に昇った時、何度もクロウに声をかけようとしたんだけど、クロウは私の声が聞こえなくて...それで...凄く怖くなって...」


セシリアはゆっくりとクロウを抱きしめる。彼女の細い腕は振るえていた。


「それで、クロウの横にいる人が、クロウに会いに行こうって言ってくれてね、彼に手を引かれて、ゆっくりと降りて来たんだけど、私を連れて行った天使が私を引き留めようとしたんだよ」


セシリアはゼロを見ると、にっこり笑って蘇生してくれた事を感謝した。


「でもそんな時に、クロウがようやくこっちを見てね、天使達を追い払ってくれたんだよね」


セシリアとクロウはお互いに、生きている事を確かめるように抱きしめあった。


「おかえり、セシリア」

「えへへ、ただいま、クロウ」

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