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勘違い魔王のVRMMO征服記  作者: 愛良夜
第一章 アズガルド大陸
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急変

翌日、二日酔いのセシリアを宮殿まで送ると、ベルアルの所に寄って、今回の妖王の素材や彼の手下であるモンスターの素材をベルアルに渡し、ついでにカニやタコなどおいしい海鮮も宮殿のシェフ達に渡しておいた。北帝領東部の海域でも取れるので、きっと彼等なら調理の仕方はわかるだろう。


場所は変わって南国、戦乙女達(ヴァルキリーズ)の地下訓練場。以前にゼロに宣教師討伐の助力をしてもらった報酬として、改めて手合わせをしてほしいと言われた。


「魔法戦?近接戦?」

「なんでもありで」

「なんでも?」

「なんでも」

「待ってクロウ!あの悪魔の機械は無しで!」


観客席からアマネの大声が聞こえてくる。エインヘリアルはどうやら使用禁止のようだ。せっかくなので、今回は魔法剣士で戦うことにした。右手には獄凍鉄とコラテラル・クリスタルを掛け合わせて作った魔剣を持つ。斬り合えば地獄のような冷たさに襲われ、コラテラル・クリスタルの中に収容した魔法や魔術も不定期に発動する。左手には分裂前の西部学園の入学式で使用した魔杖を取り出す。


剣と杖、それがクロウの編み出した一種の戦闘スタイルだ。ゼロも手合わせ用の服に着替え、準備運動をしている。クロウとゼロ、共に戦闘態勢に入ると、アマネから


「はじめっ!」


という開始の合図が響いた。


「<加速><超加速><神速><時間鈍化(クロックダウン)><時間加速(クロックアップ)>」


速度上昇のスキルと魔術を惜しみなく発動する。速度単位は既にフレームの域に達しているが、ゼロは問答無用でついてくる。的確に急所と狙った剣の攻撃は、手甲を付けたゼロにいともたやすくはじかれる。時より剣から発動する魔法や魔杖で発動する魔法も、両目を見開いたゼロに難なく躱された。ゼロも負けじと反撃してくる。恐らくは伝統的破壊力を重きに置いた八極拳、それとスピードを重視した詠春拳(えいしゅんけん)を交互に織り交ぜて使用してくる。魔杖で防いだり自身の回避スキルで躱すのも限界があり、ゼロとは一進一退の攻防が続いていた。


***


「すごい...」


2人の戦いに見入った誰かが観客席でそういった。彼女はギルド内では前衛を務める職業についており、対人や1対1の戦いならかなり強い自負があった。クロウとは戦ったことはないが、あのチート機械さえなければ接近戦を仕掛けて勝てると内心で算段を立てていた。だが、今のこの戦いを見て、彼女は動揺した。ゼロと言う男の格闘技術は自分の遥か上を行っており、どう考えてもあの男に勝てる想像がつかない。しかもクロウはそんなゼロともう既に30分ほど殴り合いをしている。お互いに一歩も引かず、ただ純粋に相手を仕留める。そんな最もシンプルで、危険な意思を持って戦っている。お互い戦意むき出しの、まるで猛虎の戦いを見ているような、そんな気持ちになった彼女は、己の闘争心に火が付き、負けると分かっていても、すぐにこの柵を乗り越え、2人と戦ってみたい、そんな気持ちに襲われた。


***


お互いに拳と武器で語り合うように、円を描きながらまるでお互いに噛みつかんと、攻め手を防ぎ、反撃し、防ぎ手をかいくぐろうとする。2人は戦っている最中だと言うのにまるで長い時間連れ添ってきた旧友のように笑い合っていた。そんなわけのわからない感情にお互い踊らされるのもつかの間、2人は同時にピタリと動きを止めた。


(ヘルハウンドが負けた?!)


以前、セシリアに王家の魔塔に登る際、事前に彼女の守護させていた召喚獣、それがヘルハウンド。

Lv200近いあのヘルハウンドが死んだと言う事は、セシリアの身に重大な危険が及んだと言う事だ。ゼロも何かを感じたようで、「宮殿からで嫌な予感がする、一足先に行く」とだけ言い、訓練場を飛び出していった。クロウも非常に嫌な予感がするので、アマネ達に大至急全勢力をかき集め、サウフォード宮殿に向かうように言った。


クロウは霊馬に乗り、宮殿に着く。だが、様子は一変していた。赤い絨毯にはセシリアと長年付き添ってきたメイドたちの死体が倒れており、北帝領から購入した調度品は(ことどと)く砕かれ、破かれた。クロウは死体に塗れた通路をゆっくりと歩いていく。いつもメイドと執事にからかわれながら歩いていた謁見の間への通路は静かで、メイド長も、執事も、庭師も全員、目を開いたまま地面で動かなくなっていた。


謁見の間の大きな扉は今にも崩れ落ちそうで、左右の門番もバラバラの肉片になっており、崩れそうなその扉を開けると、笑顔で自分の名前を呼んでいた彼女はおらず、ただ死んだヘルハウンドと、大槍で体を玉座ごと貫かれたセシリアが座っていた。


ゼロも横で非常に辛い顔をしていた。


「稀代の女王、天の使者、豊穣の女神、彼女を称える国民の声に終わりはありませんでした」


ゼロは悲しそうに眼を閉じ、下を向いていた。クロウは彼女に突き刺さった大槍を引き抜こうと触れる。一瞬でクロウの左手は聖光に焼かれ燃え上がるが、クロウはそれでもゆっくりと彼女を貫いた大槍を引き抜いた。クロウの頭には大体の候補が上がっていた。恐らく今まで甘い汁を啜っていた悪官共が、南部教会領か西部教会領の力を借りて、セシリアの憐憫心を利用し、彼女を殺したのだろう。彼女はNPC、NPCはプレイヤーと違い、死んでも教会で生き返らない。蘇生魔法をかけるにしても、クロウは使えない。神聖魔法を覚えているプレイヤーは知り合いにはおらず、ゼロも「彼女を貫いた槍には天界追放の呪いがかけられている。今の彼女にはどんな神聖魔法も効果をなさない」


「召喚:<シャドー・スライム>」


ベルアルとの通信用に使っていたスライムを召喚する。こいつらに過去にセシリアが罷免したり停職にした大臣の元へ向かわせる。その後クロウは何も言わず、ゼロの言葉も聞き入ることができず、ただ1人で霊馬に乗って、ベルアルに一言も告げずに、自分の領地に戻った。自室に戻ったクロウはそのままゲームからログアウトする。


時計を見ると時間はまだ夜の8時を過ぎたばかり、明日は土曜日なので、時間はまだまだある。クロウは一度頭を冷やすために、夜風に当たることにした。ベランダで煙草に火をつけて、夜風と共に思考を巡らせていく。暫く考え込んだ後、軽くシャワーを浴び、簡単に食事を済ませて再びゲームへとログインした。再びログインするころにはシャドー・スライム達が情報を持ち帰ってきており、南国南部に追放された無能な大臣共が西部大陸中央に残っていた国王派の妄言を聞き入れ、彼らから送られてきた自称聖人と共に女王を殺したという。


クロウはシャドー・スライム達の実際の声の録音をベルアルにも伝えるように言うと、クロウ領の最深部にある一つのアイテムを取りに行った。

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