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勘違い魔王のVRMMO征服記  作者: 愛良夜
第一章 アズガルド大陸
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妖王と里長その5

終わりのないモンスターの大群、果ての見えないモンスターの海、アマネやその他のプレイヤーの士気は、否応にも少しずつ低下していった。だが先頭に立つものとして、頂点に立つものとして、自分たちが凹んではいけないと、枯れた喉から必死に大声を出して、MPポーションを飲料代わりに喉を潤し、再び<戦乙女達の鼓舞>と言う、アマネ達3人が同じ場所にいないと使えないスキルを使用した。このスキルはその場にいる全員の士気と戦闘力を向上させるものだが、繰り返し使用しては効果もだんだん薄れる。だがそれ以外に有効的な手段もなく、3人は使用せざる終えなかった。


時間も忘れて、MPも尽きて、全員が命を賭してモンスターに斬りかかっている頃、このモンスターの海の後ろから赤い奔流がやってきた。手には金棒、腰には虎革の腰当、皮膚は赤く、顔は険しい。アマネ達プレイヤーは幼少期の記憶を思い出した。あれは鬼だ。赤鬼。童話の赤鬼が、モンスターを蹴散らしている。まるでもぐらたたきのように、グルーザの街へ攻め込んできたモンスターを後方から叩き潰している。赤鬼も数は多く、妖王配下のモンスター達も負けじと反撃するが、赤鬼の肌に傷一つ付けることは叶わず、ただ蹂躙されるだけだった。


アマネ達はそれをみて、全身の力が抜けたようにその場に座り込んだ。今や全てのモンスターは赤鬼の奔流めがけて攻撃をしている。もうグルーザを街を攻撃するモンスターは何一つない。防衛戦は、成功した。


「アマネさん!なんですかあれ?あれって赤鬼ですよね?節分とかの!」

「ええ、そうよ」

「あんなに大量に!どうするんすか攻め込まれたら!今度ばかりは流石に持たないっすよ!」

「それはないわ、だってあんなことができるのは、彼しかいないもの」

「誰?」

「クロウよ」

「クロウ?」

「ええ、覚えておきなさい、魔王クロウ、恐らくはこのゲームで最強と言われるプレイヤーの一人だわ」


クロウ、ユキ、ゼロの3人はグルーザの街で他のメンバーと合流し、お互いの安否確認をしていると、無事に全員クエスト完了と表示された。アマネ達3人は新しいスキルや魔法をもらったようだが、クロウには一つのアイテムが渡された。


<赤結び>


綺麗な赤い糸を、無限の形に結んだこのアイテム、効果もバフも何もないアイテムボックスの肥やしにするか捨てるかで迷ったクロウは、近くにいたユキに渡すことにした。


「ユキ、これあげる」


ユキはクロウに渡されたものを見ると、大変びっくりしたが、すぐに


「クロウ殿、本気か?」


と言われたので、


「本気だ」


と言った。うん、だってプレイヤー的に何の効果もメリットもないアイテム、アマネ達にあげても同じように要らないと言われるだろうし、ゼロも多分もらっても苦笑いするだけだし、他のプレイヤーにあげるほど仲もよくないし、ユキしかいないでしょう。


「そうかそうか、ではクロウ殿、今後は恩師(おんし)と呼ばせてもらおうかの」


ユキは頬を赤く染め、大事そうに赤結びをどこかへしまった。その後、アマネ達はグルーザの街の復興作業へ、クロウはスケルトン・ワーカーとビルダーを何体かグルーザの街へ残し、ユキ、ゼロと共に浮世の里へ戻ることにした。


里に着くなり、ゼロは「おいしい甘酒の屋台が出る時間なので行ってきます」といい、どこかへ行ってしまった。クロウはユキが落ち込んでいそうだったので、今日ばかりは彼女と一緒に、彼女の昔話でも聞いて、彼女の気分が少しでも良くなる手助けをしようと思った。そのはずなんだが....


「恩師殿?湯加減はいかが?」


なぜかユキの住処である彼女の屋敷の天然温泉で混浴していた。


(見えない!)


流石はゲーム、全裸の使いなのに、全くもって大事な部分は全て湯気の中。クロウは諦めて温泉を楽しむことにした。


「九尾族の結納の契りに、赤い縁結びを送るというものがありんす」


そういうと、ユキは何杯になるかわからないお猪口に口をつけた。クロウは一沫の既視感と心当たりを覚える。


「クロウはん、後悔は無しですえ?」


(<鑑定>)


名前:ユキ

身分:魔九尾

年齢:???


魔九尾

魔に魅入られ、堕ちた九尾族。膨大な魔力と強力な魔素操作など、数多くの魔法行使における恩恵を受けるが、プレイヤー<クロウ>が完全に死ぬとき、彼女も死ぬ。


(一蓮托生)


クロウは何かが起こる前に早く温泉から上がることにした。だが気が付いたらユキが何も言わなくなり、湯の中を手探りで探すと、酒に酔って倒れた彼女がいた。慌てて彼女を湯から上げ、近くのヒノキの椅子に座らせ、クロウは手早く着替えると彼女の召使を呼びに行った。


数日後、グルーザの街はアマネ達とスケルトン達によって元より数十倍も広くなり、アマネ達もここにいくつめになるかわからない分派ギルドを設立した。周囲にはいまだ高Lvのモンスターがいるため、中位から高位のギルドメンバーの訓練場には丁度いいだろう。クロウも南国へ戻り、セシリアを連れて里に改めてやってきた。金髪碧眼の彼女だが、和服を着ても似合うのはきっと美人だからだ。


ユキのおかげか、今回の妖王討伐に参加した者やグルーザの街防衛戦に参加した者は、ユキのおかげで里では自由に飲み食いできるようにしてもらってが、ユキが認めない限り他のプレイヤーは自力で里まで来るしかない。だが、自由に里長との謁見できるのはクロウ達5人の特権になっている。他の里に住んでいる人々もそれは大いに了解しているみたいで、妖王を倒した英雄として全員大手を振るって歓迎してくれている。


以前のデートはセシリアがプランを立ててくれたので、今回はクロウが主導することにした。まずは里の大通りで軽食を食べ、その後、妖王討伐記念の祭りを端から端まで遊びつくし、屋台や出店も食べ尽くし、最後に里一番の旅館に泊まり、それぞれ温泉を楽しんだり、カニ会席を堪能した。セシリアの所は海にも多く面しているからカニやタイなどの海鮮は食べ飽きているものだと思ったが、あんまり食べないらしい。


(外国人がサーモンばっかり食べるのと同じなのかな?)


よくわからないけど、彼女が喜んでくれたようで何よりだった。そのままクロウは彼女は旅館に泊まってもらい、蟹の甲羅酒や日本酒に酔った彼女を布団まで運び、眠ったのを見ると、部屋の電気を消して一人で庭園の中を散歩することにした。


「外神教...ね」


正直、今回はゼロがいなければ恐らくユキ諸共衛星兵器で吹き飛ばすか、恐らく負けていただろう。クロウの召喚できる召喚獣の中にも神聖魔法を使えるのはほぼいないし、いたとしてもクラスⅠ相当ではどうにもならない。試しにクロウも以前に神聖魔法を習得しようとしたが、クラスⅠの神聖魔法を使うだけでもHPを7割削られた。だが彼らと今後戦わないわけにもいかない。クロウは鈴虫のキレイな鳴き声が聞こえる庭園の中、一人で酒を飲みながら縁側で考え込んだ。

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