妖王と里長その4
「戦乙女達!新装備も貰ったんだ!踏ん張れ!」
「打ち込みなさい!貴方達!最大最強の大魔法をね!あははははは!魔導砲第1第2第3第4砲充填開始!」
「精霊王さん!その力を見せてほしいの!」
「描くは星々、望むは崩壊、終わりの時を持って輝きを示し...」
「ワイドエリアヒール!ワイドエリアマナアップデート!ワイドエリアリジェネレーション!」
「報告します!南城門より<城破り>が出現!現在なんとか被害を食い止めていますが...」
「マルコ!ジュドー!行きなさい!」
「は!」
グルーザの街はなかなか苛烈を極めていた。クロウ達がやってきたばかりの時は、今ほどプレイヤーもいなかったので、モンスターも今ほど多くないが、今や数十万人のプレイヤーがひしめくこの中、危険度8や9を超えるモンスターもぞろぞろと出てきており、生半可なプレイヤーは前線で一瞬で消し炭にされた。今は主に前線に立っているのはLv300を超えた盾騎士や盾戦士、それに高位の暗殺者や剣士もいる。だが彼等はなかなか有効打を与えることができず、百鬼夜行ともいえるモンスターの大群に一瞬で飲み込まれそうだった。だがちゃちゃ丸たち魔法使いのとめどない強烈な魔法砲撃により、前線の近接職達は一息つく間を手に入れ、その間にホムラの指揮する戦乙女達前衛隊は素早くカバーに入った。クロウからもらった魔術強化外殻を見つけた彼女らは一歩も下がることなくモンスター達の攻撃を引き付け、彼女たちが耐えているうちにちゃちゃ丸も自分のギルドメンバーを指揮しながら魔導砲のチャージを始め、同様にアマネも詠唱+魔法陣と言う一体どれだけ強力な魔法を使うのかクロウもわからないほどの魔法を準備し始めた。アカリも精霊王に直々に出てきてもらい、精霊王の祝福と言う強力なバフ魔法をグルーザの前線にいるメンバー全員に付与し、アカリの率いるサポート部隊も負けじと回復や魔力威力上昇の魔法を使っていた。ときより南城門や北城門にもモンスター達の別動隊が戦線を攪乱しようと襲い掛かるが、予備の戦力や他のプレイヤー達で対応できているので、特に問題にならず、むしろ妖王はその別動隊すらも主力のいる東城門に集中させた。
「爆裂星々!」
アマネの詠唱が終わり、川の流れのようなモンスターの間に小さな火の玉が現れる。色は白く、近くにいるモンスター達にとっては熱いだけだった。だがちゃちゃ丸の魔導砲が発射され、モンスターの大群がモーセの海割りのように消し飛ぶと、その魔導砲に反応し、白い火の玉は周りのモンスターを吸い込みだし、しばらくすると轟音と共に恐ろしい範囲で爆裂した。その爆発は遠くにある他の白い火の玉も刺激し、周囲を吸収し、爆裂、その反応は連鎖し、割れたモンスターの海には巨大な穴も開くことになった。だが割れた海はすぐに再びモンスターで埋まり、彼ら彼女らに休む時間はなかった。
想像以上のモンスターの数に、クロウは元々はちゃちゃ丸と共に妖王の元へ向かうつもりだったが、アマネ達曰く代わりにユキが連れて行ってほしいと言うので、一度里に向かうことにした。
「召喚:<骸骨火車>」
召喚陣から黒い靄が出現する。そんな黒い靄からカラカラと骨の音共に、黒い馬車が現れた。だが引くのは馬ではなく靄を這う巨大な骸骨で、馬車の車輪と馬車を引く先頭の骸骨には火がついており、クロウとユキが乗車すると、カラカラカタカタという音と共に、空を飛び始めた。
「ユキ、本当にいいのか?」
クロウは少し心配そうに問いかける。彼女はLv400を超えているので負けるとかは考えていないが、今からユキの幼馴染をもしかしたら殺すかもしれないという場所に、一緒に行ってもいいのか...
「いいんじゃよ、彼を改心させるには、人が死に過ぎた」
ユキは顔が曇る。それもそうだろう。クロウも何を言えばいいかわからなかった。クロウはあくまでクエストのため、別にクロウはキバの事はユキほど知らないし、そもそもクエスト報酬のためだけにここまで妖王を殺しに来ただけだ。暗い森を進んでいく。下には海のようなモンスターが所狭しとひしめき合ってグルーザの方へと向かっている。
暗い森の最深部、人の肉と骨で作った赤い祭壇には、爛れた司祭が生きた村人を引き裂きながら祈祷を捧げ、その横では黒い髪黒い眼白い逆さ十字の模様が入っていた黒い宣教師服を着た男性がモンスターの毛皮と人肉で作った肉の書のようなものを読んでいた。恐らく外神教の神父である彼は祭壇の右に、左には赤黒い大きな肉の腫瘍に苦しんでいる巨大な狼がいた。
ユキは狼の元へ、クロウは神父の元へ空中からゆっくりと降りた。
「おや?ご来客が」
「召喚:<異端審問官><異端処刑人>」
クロウはすぐさま戦闘態勢に入った。異端審問官と異端処刑人。古き魔女が住まう時代、邪教と異端者を殺すために訓練を受け、永く身を賭して教皇に代わり下手人として異端の命を刈り取ってきた彼らは宣教師にとっての数多くの脅威を所持していた。死後、前世の行いにより、永年天国に上がることはなく、永遠に異端を狩るため地獄をさまようことになった。
「おやおや、恐ろしいですね」
クロウの呼び出した異端審問官たちは他に目もくれず目の前の男に襲い掛かる。だが男は動くことなく、ただ彼らにあっさりと首を刎ねられた。しかし刎ねた首はすぐに赤い血だまりになり、男の首からは新しい頭が生えてきた。異端審問官たちは彼を吸血鬼だと思い、銀の十字架を心臓に打ち込んだが、男は平気な顔でその十字架を抜くと、あっけらかんと笑った。
「これが外神の力です。不死です。貴方も欲しいでしょう?」
困った。ここで衛星兵器を起動してもいいのだが、ユキまで巻き込んでしまう。どうやら彼女もキバと戦っているようで、狼の黒い腫瘍の中には白く細長い卵がいくつも植え付けられており、時頼その卵がうごめいてはモンスターが生まれ、キバの腫瘍を突き破ってグルーザへ向かっていった。ユキは襲い掛かるキバと次々生まれてくるモンスターを同時に相手にしており、恐らくキバへの情で本来の力がうまく発揮できていないのだろう。若干ユキが押されていた。ユキと同じように、クロウも困っていた。地獄の炎で焼いても効かず、首を刎ねても粉みじんになるまで切り裂いてもすぐに蘇生する。決まり手が無く途方に暮れていた。
「お困りですか?」
後ろを振り返ると、ゼロが近くの石に座っていた。
「お?ゼロ!」
NPCあるあるなのか、一体どうやってなのか分からないけど、ゼロはクロウと外神教の神父戦っている後ろにいた。
「丁度いい、ゼロ、神聖魔法使えるか?」
「使えますよ?」
「マジか、あいつ焼ける?」
「良いですよ」
ゼロが指先から黄金色の光が飛び出す。そのまま宣教師の頭に突き刺さると、声も上げられず宣教師はその場に倒れ、赤い液体になったかと思うと、そのままぶくぶくと蒸発した。
「え?」
クロウは全く神聖魔法が使えないので、今の魔法がどんなものか分からない。わからないけどきっとゼロはクロウにとってとんでもない脅威になると分かった。クロウがこのゲームを始めてから、初めて命の危機を感じた瞬間だった。
「む?まだいますね」
先ほどと同じようにゼロは爛れた司祭達も蒸発させた。残ったのはキバだけだったが、こちらもすぐに片付きそうだ。
「さようなら、キバ」
ユキはキバを頭の腫瘍ごと凍らせ、コンと叩いて粉々にした。
「終わりんした?おや、そちらの方は?」
「ああ、こいつはゼロ、俺の友達だ」
「初めましてゼロはん、私の名前はユキ」
「初めまして、ゼロと言います」
3人で軽く自己紹介をした後、残ったモンスター達を片付けるために、2人はクロウの方を見た。
「軍団召喚<百鬼繚乱>」
クロウの召喚陣から、背丈3mを超える赤鬼が次々と現れる。手には金棒、腰には虎革、般若のような顔をしており、次々と召喚陣から現れては近くのモンスターに襲い掛かった。途中、2つ角の和服を着た身長2mほどの鬼が現れた。彼はクロウを見ると、片膝をついてクロウの指示を待った。クロウは日本語で妖王のここのモンスターを全部倒してくれと言い、南国で作った酒を渡すと、鬼王は「承諾した」と言い、鬼の言葉で暴れまわっている他の鬼に何か言うと、赤鬼たちが纏まってグルーザの方めがけてモンスターを蹂躙し出した。ユキとゼロが、あの鬼は?と聞くと
「鬼王、酒呑王鬼だよ」
赤鬼共の棟梁、源氏の怨敵、人間の天敵の一種にして、武士の悪夢。古代の東部王国にて都市を蹂躙したと言われる存在。雲のような背丈で人を丸呑みにする悪鬼。そんな彼らのまとめ役であるのが酒呑王鬼だ。片腕で城を持ち上げ、両足で地面を割る。妖王の手下であるモンスター達は、悪鬼羅刹である彼らからしたら、道端のアリを踏みつぶすのと変わらなかった。




