妖王と里長その2
クロウも一度里の拠点に戻り、丁度用事を済ませた3人に里長の状況を話し、3人とも同じように隠しクエストを受けてもらうと、一度クロウは人間大陸に戻ることにした。
「宣教師...ね」
恐らくキバのLvは300を超えるか超えないかくらい、アマネ達3人が勝てなくても、クロウがいれば簡単に瞬殺できるだろう。だが問題は隠しクエストのもう1つの問題である<黒幕を倒せ>という条件だ。ユキから聞いたキバの変わりようと、妖王という現状、さらにはユキの昔話に出てきたという宣教師達。情報は繋がっているように思うが、裏が取れない限り確信も持てない。そこでクロウは一度北帝領まで戻り、ベルアルに事の顛末を話した。
「宣教師...何か引っかかるな」
ベルアルの話によれば、クロウ達が今回のイベントのため、グルーザの街めがけて新大陸に渡った直後位に、黒い逆さ十字の宣教師たちは同じように北帝領に入ろうとしていたが、ベルアルが北帝領は無神論者のため入国を禁止したという。逆さ十字は涜神の象徴ともいえる文様、そんな文様を服に入れながら神を布教する宣教師はより怪しいと思い、なおさら入国禁止の意を強めたという。
「クロウ、その話、裏を取らせよう」
「助かるベルアル、恩に着る」
北帝直属の密偵部隊に情報を探ってもらう。ベルアルが直々に探るんだ、確実だろう。次にクロウはミナト領に向かうことにした。久しぶりにミナト領にたどり着くと、もはや戦争の気配は全くなく、もとより西部王国は4分割だったかなと思わせるほどだった。ちゃちゃ丸も南国での生活が気に入ったのか、たまにミナト領に帰ってきては、すぐに聖セシリア学園に戻っていったという。ミナト本人はと言うと、中央国王に領主として認められてから、やはりと言うか、内政に忙殺されていた。クロウはスケルトン・ワーカーと言う無休憩無給料で永遠に働ける労働力が無尽蔵に使えるからいいものの、ミナトはそうもいかず、金もない、人もない、あるのは武器と負債だけだという、激ムズスタートだった。そこでミナトには昔の西部王国にいたという邪教徒達の情報を探ってもらいつつ、ミナト領でもすくすく育つ魔鈴薯と言う魔素を含んだ滋養強壮効果のある馬鈴薯を譲り、さらにはスケルトン・ビルダー達でミナト領にあった武器工廠をいくつか修復し、武器装備の生産と販売をすればいいと言った。するとミナトは救世主様~!と言って抱き着いてきたので、優しく「ふんっ!」と振り払うと、後はがんばれと言って、南国サウフォードに向かった。
サウフォードのいつものカフェでコーヒーと飲んで、どうやってセシリアに連絡を入れようか考えていると、「久しぶりね」と言う声と共に、連絡手段を考えていたセシリア本人がいつものように相席していた。
(え?何俺南国入った瞬間から監視されてたりするの?)
「そうよ?いつだって貴方の事が気になっちゃうもん」
「心を読まないで?」
そんなスキルは持ってないはずだが
「女の子のカンだよ」
「すげー」
またもや素直に感心したクロウであった。
場所を変えようとセシリアが言って、彼女に連れられて、宮殿の近くにある小さな一軒家にやってきた。一軒家と言うけれども、召使も執事もいるこの一軒家は小さくなく、どうやら彼女がいつか女王を引退したとき、クロウとここに住むために購入したんだとか。
「引退するためには王子がいないと無理だろ」
「えー私ルシファー様に寿命伸ばしてもらったから後継者は適当に選ぶもん」
「おま、一国の女王様がなんていうことを」
適当には選んでほしくないクロウであった。軽い雑談を挟んだ後、2人は一軒家をあらかた見終わり、クロウはセシリアに紅茶を入れつつ、ユキとのあれそれを全て説明した。セシリアは「他の女の子の話?」と膨れていたが、大事な話だからと言うとセシリアは真面目な顔で話を聞きだした。
「なるほどね、そういう事なら私も協力するよ」
セシリアはどこからかやってきた執事に耳打ちすると、執事は慌ててどこかへ行った。
「ありがとうセシリア、妖王の一件が終わったら今度里を案内するよ」
「ほんと!待ってるね!」
不器用ながらもクロウが簡単な晩飯を作り、少し世間話をした後、二人は解散した。クロウは転移魔法で再び浮世の里へ来た。
丁度アマネ達3人もクロウの言いつけであるLvアップを済ませてきたみたいで、全員Lvが270を超えていた。これなら妖王とも正面から戦えるだろう。周囲のモンスターではあまりLvが上がらなくなってきたので、クロウは再びユキと話をしにきていた。
「ユキ、今日はおみやげがある」
「おや?」
里に来る前に南国で買った洋菓子の詰め合わせをユキに渡した。里には和菓子しかないので、ずっと里にいたユキにはいい刺激になると思った。
「この黒いのは?」
「それはチョコレートケーキだ」
「この黄色のは?」
「それはモンブランだ」
「じゃあじゃあこっちのは?」
「それはバームクーヘンだね」
ユキが謁見の間で近くの者に抹茶を持ってこさせたようで、綺麗な器に入った抹茶とクロウの洋菓子を交互に楽しんでいた。いつも扇で顔を半分隠しているから分からないけど、狐っ子ていうのはいくつになっても可愛いなと思った。
「今回は人間大陸の南国って言う所のお菓子だ、友達がそこにいてな、今度は北国っていう所から面白い氷菓子を持ってくるよ」
「うむ!待っておるぞ」
そんな感じでアマネ達3人のLvアップを見つつ、暇な時にユキの場所へ遊びに行ったり、偶に4人でユキを拠点に連れてきて洋食や中華を作ったり、5人でお互いにいろいろな新鮮さを味わった。
「主、情報が纏まりました。ベルアル様が宮殿でお待ちです」
クロウが里の自室で新モンスターから取れた素材を眺めていると、クロウの影が分裂し、黒いスライムのような物体が現れた。不定形種。伝書霊鳥が浮世の里までやってこれないので、今はベルアルとはこのシャドー・スライムを通して情報伝達をしている。クロウの開発した魔導通信機を使ってもいいのだが、ベルアルが「わからん」と言って宝物庫に投げ入れてしまったので大人しくシャドー・スライムを使用している。
「わかった、すぐ行く」
クロウは転移魔法でクロウ領に戻ると、簡単に支度をしてからベルアルの宮殿へ向かった。




