妖王と里長
それからグルーザのサブクエストなどを一緒にこなし、やる事も無くなったのでエルザ達と一緒にモンスター退治に出ては、少しずつ妖王の領域を探索していった。予想通り数多くの和風モンスターが登場し、そんなモンスターからドロップするアイテムもホムラとクロウが見た事の無いものばかりだった。
「とりあえず道なりに進もう」
アマネのいう通り、4人は襲ってくる見たことのあるモンスターは避けながら道なりに進む。雷を纏う狼や透明化できるトカゲなど、数多くの未発見モンスターをは1体残らず倒しながら進んでいると、クロウは見覚えのある人に出会った。エルダートレントで作った魔杖を持ち、地面を叩きながらゆっくりと歩いていた。
「おや?いつぞやのプレイヤーさん?」
「お前は...魔導砲の?」
あの時と違い、西部王国で魔導砲を防衛していた青年は目をつぶっていた
「改めて、初めましてプレイヤーさん。私は...ゼロと呼んでください」
クロウは<鑑定>してみたが、ステータス画面にはノイズがかかっており、何も読めなかった。
「俺はクロウ、こっちはアマネ、アカリ、ホムラだ」
「初めまして皆さん、私はゼロです」
盲目の青年はボロボロの茶色のコートを着ており、とてもクロウとまともに殴り合った間には見えなかった。
「皆さんも、この先の街へ?」
「街?」
クロウ達はただ新しいモンスターや素材を追い求めてここまで来た。キリが良くなれば来た道を引き返す予定だったが、ゼロ曰くこの先には魔族や人間種以外の存在達が共存する中立街が存在するらしい。アマネ達は西部王国のような亜人差別はないので、ゼロと一緒に向かう事にした。暫く道なりに進むと、大きな山が見えてきた。山の外側には整備された階段があり、その階段の一つ一つに赤い鳥居が立っていた。5人は階段を上っていく。一段登るたびにどこからか心地の良い鈴の音が聞こえ、頂上に着くと、そこには桃源郷が広がっていた。
多種多様な種族が皆楽しそうに笑い、満開の夜桜と軽快な和太鼓と綺麗な縦笛の音色が町中に響く。クロウも含め、4人があっけに取られていると、横にいるゼロは
「ようこそ、夜桜の街<浮世の里>へ」
クロウ達は、奇しくも盲人に導かれ、プレイヤー達の中で初めて新イベントの隠しレア拠点にたどり着いたのだった。
ホムラは鍛冶屋へ、アカリとアマネは陰陽師と言われる者の所へ、クロウはと言うと里長の元へお呼ばれされていた。
「お主が魔王クロウか?」
「違います。人違いです」
「お主の名前は大陸中に轟いておるわ、 千姿万態の北の魔王、冷徹冷血の殺戮者」
「いや違います。別人です」
「北の女帝ベルアル、南国の女王セシリア、戦乙女のアマネ、アカリ、ホムラ、ミナト
領のミナトに...」
「本人です....」
全部バレてる...なんでや...
「わっちの情報網を舐めるでないわ」
里長が楽しそうに笑っている。
「改めて、わっちの名前はユキ、この里で里長をしているものじゃ」
浮世の里の一番高い建物の中、二人を隔てる桃色の暖簾が開かれる。里長のユキと呼ばれた女性は、白い九尾の化身だった。今は人型になっているが、白いショートカットの髪と綺麗な狐耳、艶やかな和服を適度に着崩した彼女は傾国の美女と言う言葉を遺憾なく体現した存在と言えるが、力の根源である尻尾の九つの尾からは溢れんばかりの魔力が充満しており、里長になれるほどの実力があるのは見てとれた。
「ここに呼んだのは他にない、浮世の里を代表して、お主と平和条約を結びたい」
「???」
里と個人が平和条約???
「まあ無理もない、だがお主がグルーザの街で召喚したあの毒の将と絡繰人形に敵う者はこの里でも数えられるほどしかいない。しかもあの召喚獣はお主の召喚できる者の中で一番強いわけではあるまい?」
「そうです...」
「そこでじゃ、お主にはこの里と敵対しないと言う、そういう約束をしてほしいのじゃ」
「わかった」
里長とすんなり平和条約を結び、ユキの手配でユキの近くにある最高級の屋敷の鍵を貰った。それに里長の権能か自宅内にポータルも設置してもらい、クロウ達4人に限っていつでも浮世の里に来れるようになった。クロウもチャットで3人に里での拠点を教え、クロウはユキに連れられて里の桜夜道と言う通りで散歩していた。
「お主らも、妖王、彼の話を聞いてやってきたのだろう?」
「彼?」
「ああ、お主らの言う妖王はな、わっちの古い友なんじゃ...」
桜並木の下、花びら散る夜道を二人はゆっくりと歩きながらぽつぽつと話を始めた。
「彼の名前はキバ、昔、この里で一番の戦士だった。わっちは見ての通り九尾族、彼は当時この里にやってきた雷狼族の少年でな。小さい頃はまっこと可愛かったんじゃが、ある日、里に宣教師共がやってきてのう...キバが変わったのはそれからじゃ...」
ユキは紙コップに入ったほうじ茶を一口飲む。
「彼は取りつかれたように鍛錬を始めたんじゃ、なにやらわっちを守るためだと言って、いつか来る災厄を退けるためだと言って、狂ったように鍛錬を始めてのう...ただ、齢30を超えたときだろうか、長命種のわっちらにとってはまだまだ幼い時期じゃ、そんな時期に彼は再び里にやってきた宣教師と共に里を飛び出して、修練に行くと言った。それからじゃ、彼は恐らくその宣教師共に洗脳か何かされて、姿形も変わって、妖王として、この一帯を支配してしまった。この里はわっちの妖術で彼から隠しているから、無事じゃが、彼の手によって既に滅んだ町や村は、もうわっちの両手で数えられなくなってしまった」
ユキは手に持ったお茶を飲み干し、クロウと正面から向きあう。
「魔王クロウ、頼む、妖王を、キバを止めてくれ」
ユキはそう言い、頭を下げた。その瞬間、クロウの目の前に隠しクエストが出現する。
<妖王キバの正気を取り戻し、黒幕を倒せ!>
なんともシンプルで難しいクエストだった。




