亜麻色乙女も成長しました
イベント告知を見たクロウは、再び南国サウフォードの<亜麻色乙女>のギルドハウスを訪れていた。クロウが西部王国をかき乱していた間、彼女たちは活発にギルド活動に取り組んでいたようで、数十人しかいなかったこのギルドはNPCを入れて5000人を超える巨大ギルドになっており、どうやら周囲のギルドを吸収合併したらしい。まるで現代の商業戦争だなと思った。内部構成についても詳しく聞いてみると、かなり細分化されており、武器生産部、武器開発部、魔法補助部、魔法戦闘武、精霊魔法部、魔道具作成部、魔道具研究部、魔法陣研究部、魔術付与研究部などなど、もはや1つの大企業か国のようになっていた。鍛冶部のトップはホムラ、今やLv200を超え、鍛冶裁縫ともにクラスⅩになったらしい。今では星9の武器や星10装備の1つである成長型装備をポンポン打っており、ギルドメンバーの戦力を大きく引き上げている。精霊魔法部とその他精霊魔法に関する部はアカリがトップであり、彼女もLv200を超え、精霊魔法もクラスⅩに達しており、今では精霊王と盟約を結んだのだとか。さらっととんでもない事をしている彼女である。さらに精霊魔法の中でも切り札となる精霊憑依も使えるようになっており、それにより星10装備の1つであるである精霊加護の装備、いわゆる精霊装備を製造できるようになった。アマネは魔法部総統括にしてギルド長、Lv300を超え、元素魔法はクラスⅩまで自由に行使できるようになっており、ちゃちゃ丸の元で魔導砲理論について勉強したらしく、彼女はホムラと協力して、電磁投射砲、いわゆるレールガンの開発、運用に成功した。さらには小型化も成功しており、拳銃サイズまで小型化したアマネ式レールガンは、やすやすと星7以下の装備を貫く。この凶悪な武器は亜麻色乙女のギルドメンバー全員が所持していると言う。南国女王であるセシリアも亜麻色乙女達の勢力は目を付けており、セシリアは新たなギルド名<戦乙女達>を授けたと言う。
そんなクロウは、亜麻色乙女改め戦乙女達のリビングにて、トップ3人と新イベントの話をしていた。うーん紅茶が美味しい。
「見た?新イベント情報」
クロウがアカリの入れたお茶を飲む。
「見たぜ、名前からして和風のモンスター、ぬりかべとかでるだろあれ」
クッキーを一気に2枚口に入れるホムラ
「新大陸の東方ですから、私達も新大陸進出のいい機会になりますねこれ」
少しずつチョコチップクッキーを食べるアマネ
「狐とか玉犬とかペットにしてみたいの!」
ミルクティーに角砂糖を入れていくアカリ。
4人で他愛無い話をしていると、失礼しますと言い、一人のギルドメンバーが現れた。<戦乙女達>には基本的に女性しかおらず、アマネ達創始者の居らぬところでなぜか男子禁制という事になっていた。そんな中、クロウと言う男がやってきたら敵意を持つメンバーも少なくないだろう。そんな彼女が敵意丸出しでクロウの方に歩いてくると、ホムラが
「お!この流れ心当たりがあるぜ!」
と言い、手についたクッキーのカスを払って今ログインしている他のメンバーに声をかけた。まあですよね。そうだね、決闘だね。ホムラも当初やったもんね。
戦乙女達第3決闘場。一番新しく作り上げられたこの決闘場にはクラスⅩの魔法防壁が常時発動されており、人間が行使できる魔法はほぼ全て押さえ込める。
クロウと、クロウにケンカを売ってきた人はお互いに闘技場の決闘フィールドに立っており、クロウは観客席を見てみると、ほぼ全ギルドメンバーが観戦に来ていた。
「多くない?」
「ええ、組織が大きくなってくるとこういう出る杭は数多く出てくるので、クロウにはそんな杭をぶっ叩いてほしいなと」
「流石アマネ」
「いえいえ」
戦闘前にアマネとチャットでやり取りする。なるほど、こいつは見せしめか。だがどうせなら...
「俺の実力を試したい奴は他にも多くいるだろ!全員降りて来い!戦乙女達!」
クロウがそういうとぞろぞろとおよそ40人ほど降りてきた。
「いや多いな!」
ホムラが観客席でそんなクロウのツッコミに爆笑していた。
「笑うなし!」
アマネが代表して決闘開始の宣言をする。
「ルール無用!蘇生魔法は自動で発動する!お前ら!相手は魔王クロウだ!死ぬ気で殺せ!開始!」
「アマネ!?」
速攻魔法が飛んでくる。クラスⅥやⅦ相当の魔法も数多くあり、やはり上位ギルドとしての実力は備わっていた。クロウはコラテラル・クリスタルの中に収納しているあのエインヘリアルを使う事にした。
「エインヘリアル起動:<魔術師殺し>」
漆黒の機体が再び現れた。強化された銃と刀を持つ黒い悪魔は、観覧席にいる一部のギルドメンバーすら<恐怖>状態に陥らせた。どうやらイベント<ギルド戦争>時からプレイしているプレイヤーもいるようで、クロウも観客席から上がった悲鳴に驚いた。すぐに周囲の人の<沈静化>の治癒魔法でなんとか落ち着いたが、観客席から上がった悲鳴は40人の戦乙女達に強い警戒感を持たせた。
「行くぞお前ら、簡単には終わらせてくれるなよ?」
クロウがエインヘリアルの脚に力を籠める。一部のエインヘリアルは既に思考操作型にアップデートしており、いわゆる人間が手足を動かすようにエインヘリアルを動かせる。代償としてはエインヘリアルのダメージも操縦者にとっての精神的ダメージになるが、クロウにとっては何の問題もなかった。
「あなたたち!レールガンよ!魔法は通じないわ!」
ひとまばたきの間に、5人が即死により決闘場の外へと転移された。3人は<魔力暴走弾>によって引き起こされた魔力暴走による内臓膨張からの爆発死。2人は刀で一刀両断。次の相手に向かって目にも止まらぬ速度で移動を開始したクロウ。1人を一刀両断する間に無数のアマネ式レールガンの攻撃が突き刺さる。残った34人による一斉掃射。ランクⅧの強力なモンスターすら穴だらけにできるこの戦乙女達の切り札は、黒い悪魔に傷一つ付けられなかった。
「嘘でしょ!」
魔法もレールガンも効かないこの決闘は、再びクロウの一方的な屠殺となった。
「召喚:<魔法喰らい>」
橙色の幽霊が3体現れる。彼らは魔法を喰らい、触れた相手のMPを吸い取る魔法使いの最も忌み嫌うモンスターの1つだった。マジックイーターに触れられた人は魔法陣が発動せず、詠唱を最後まで言い切ってもなにも発動せず、ただ逃げ惑うかその場に立ち尽くして黒い悪魔が咆哮と共に口を開けて己の頭を噛みちぎるのを待つしかなった。決闘場から悲鳴が上がる。黒い悪魔が刀を振るたびに、麗しいヴァルキリーは両断され、次々と決闘場の外へと蘇生転移される。遠くにいるヴァルキリーは頭に銃弾を食らい、全員の魔力が膨張し、肉の破片となって爆発する。果敢に攻撃してきたヴァルキリーは、その悪魔の脚に踏みつぶされ、刀で腹を貫かれ、悪魔の口に噛み千切られ、悪魔の尻尾に叩きつぶされた。
エインヘリアルが口を開けて、悪魔の咆哮を決闘場にいる全員に響かせた。残った全員に<恐怖LvⅤ><魔力低下LvⅤ><筋力低下LvⅤ><精神力低下LvⅤ>その他もろもろ色々なデバフが付いた。なんなら観客席の最前席に座っていた精神抵抗の低いプレイヤーも数人、魔術師殺しの咆哮を食らってその場で発狂した。
数分後、いつぞやと同じ、1対40は、1であるクロウの圧勝と、調子に乗った40人へのトラウマと言う結果で幕を閉じた。エインヘリアルを解除し、リビングに戻ったクロウと戦乙女達のメンバー達。多くはそのクロウの圧倒的な戦闘力を畏敬し、憧憬した。クロウに勝負を挑んだ40人はホムラに言われて、クロウに謝罪すると、大人しく治療部で療養をする羽目になった。そんな彼らを見送り、クロウとアマネ達は再び新イベントについて話し合った結果、新イベントの妖王の領域には、4人で一緒に向かう事にした。




