西部王国大反乱その4
現在、<移動要塞>チャーリーことプレイヤー、チャーリーは前線にて突傑族との厳しい戦いを強いられている。北帝領を追われた彼らは、今回の西部王国の動乱に乗じて本格的に侵略を開始した。魔導砲の威嚇がなくなった今、突傑族は何の憂いもなく再び西部王国の食料、財、女への欲望を露わにした。
彼はその二つ名に恥じない程、防衛戦に関しては優れたスキルや魔法を持っており、単身で都市一つを守る事ができるが、数多くの優秀な将校が東部独立貴族領にいるため、一つの都市を守れても、他の都市はそうはいかなかった。しかも南部にある教会派本部は魔導砲を恐れ、クラスⅨの<魔王封印陣>を施して完全に突傑族に対する大きな武器の一つを自らの手でへし折ってしまった。
「どうするシュレミー?」
「困ったわね...」
チャーリーが西部の大都市の一つで己のスキルを使い、都市全てを城塞化して、西部唯一の絶対安全圏を作り、その中に数多くの西部国民や<天使>シュレミーと言われるプレイヤーとお互いに西部司令部の机の上の地図を見ながら戦況を分析していた。チャーリーは現状、残った兵士たちを指揮して何度も突傑軍を撃退しているが、南部教会派は南部と西部を合併したことに満足し、増援も送らず、現存勢力だけで対応せよと二人に指示を出している。それだけならいいものの、西部から数多くの食料や人員、金銭を南部に容赦なく運び出し、より戦況を難しいものにしていた。
「チャーリー、防衛兵士の残りの数は?」
「1万ちょっとだ、この都市には俺がいるから平気だが、前線の街は長くは持たないだろう...」
「本音を言えばとっととこの街を捨てて蛮族共に渡したいところだけど、そうすれば教会内での私たちの立場が危うくなるわ」
二人とも教会派に属するプレイヤーで、教会から既に多くの恩恵を受け取っていた。自分のですらない土地と引き換えに南部教会と敵対するのは二人にとって下の下策だった。とても難しい状況である。チャーリーとシュレミーはこの場所に土地愛はないが、突傑族の残虐さは攻め落とされた街に救援に行ったチャーリーとシュレミーも知っている。知っているのでなおここを捨てるわけにはいかない。
二人が悩んでいると、南部教会派より使者が来た。
「聖女シュレミー!聖騎士チャーリー!教皇より聖令が下された!」
「「謹んでお受けいたします」」
「他勢力と平和条約を結び、教会領西部を統治せよ」
「「は!」」
使者が帰った後、すぐに中央国王派の使者が2日後に宮殿で全勢力と平和条約を結ぶ式典を開催すると知らせた。南部教会派本部からの使者からも今回の式典に参加するように指示が出ているので、チャーリーは突傑軍防衛のため動けないが、教会派西部からはシュレミーが代表して参加する事になった。そうして全部の勢力に中央国王派の使者が生き渡ったり、2日後の参加者達が決まった。
南部教会派から第Ⅲ人工聖人
西部教会派から<天使>シュレミー
東部独立貴族派からは<魔法爵>ヒューゴ
北部反乱派からはミナト、クロウ、ちゃちゃ丸の3人が赴くことになった。
煌びやかな西部国王派の宮殿の中、クロウはあくまで護衛としてミナトの後ろで控えていた。そして国王に第Ⅲ人工聖人と呼ばれた代表人物は中肉中背の白髪黄金眼の青年が上下純白の服を着て、胸元には純金で作られたローマ数字Ⅲのピンを身に着けていた。<天使>シュレミーは綺麗な化粧と赤い魅惑的なドレスを着ており、<魔法爵>ヒューゴは男爵として適切な礼装を身に着け、その手には強力な魔杖を礼杖代わりに装備していた。 ミナトもヒューゴと同じような礼装を身に着け、クロウとちゃちゃ丸は護衛としての最低限の礼服を装備していた。
式典は淡々と進み、玉座に座る国王が平和条約を読み上げる。まあ特に問題なく、全勢力はこれ以上領土の大きさの変更が認められないとかなんとか、正直なんでこの国王は未だに周りの勢力が自分の言う事を大人しく聞くと思っているのか分からないが、腐っても国王なので、一応メンツは立てておく。条約を読み終え、国王含めた全員大人しくその紙切れに等しい平和条約にサインした。その後はそのまま晩餐会になり、国が4つに分かれてから数週間たっているのに、この国王と宮殿はいつもと変わらない贅沢な生活ができるほどの蓄えがあるようで、立食式の晩餐会はまるでこの国が4つに分裂したとは思えなかった。
ミナトはヒューゴとは知り合いの様で、ちゃちゃ丸と3人で小さなタルトを食べ、ワインを飲みながら話をしていた。クロウはと言うと、会場の外、宮殿の庭園の暗い東屋で一息をついていた。本当は西部のシュレミー達も教会派から独立させ、中央の国王派を含めて西部王国を5分割する予定だったが、それより先に国王が平和条約を結ばせてしまった。あの条約は表面上は平和を保つための強い道具だが、正直いつ南部教会派が他の領域に牙を剥くか分からない。クロウは北部反乱領として、実質的な南国傀儡の東部独立貴族領とは本当の意味で有効な関係を結んでおり、南国からの支援や物資は貴族領を通して反乱領に流れ、代わりに反乱領からはちゃちゃ丸が直接指導した精鋭魔法兵やギルド<マジックマニアック>の全てが反乱領の武力として貴族領の護衛や常駐防衛力を担っていた。
クロウはこれからどうしようか暗い東屋で考えていると、高いヒールの踵が石畳を叩く音がした。
「貴方がクロウさん?」
ワインを片手に持った麗人が、クロウの向かいに座った。
「えと、シュレミーさん?」
「ええ、初めまして」
「いえいえこちらこそ」
とりあえず社交辞令を済ませ、わざわざ式典を抜け、ここまでクロウを探しに来たのだから、何か話があるのだろう。
「今回の西部大反乱、首謀者はミナトですが、貴方もなかなかやってくれましたね」
「え?」
クロウは全く話が分からなかった。クロウはあくまで西部王国を真っ二つにできれば教会派も入れて三分割くらいにできればいいかな~って思ってただけで、むしろそれだけが目的で色々遊んでただけなんだけど...
「蜂起して直ぐに反乱領に加担、その後直ぐに西部王国の第4武器庫を襲撃し、武装蜂起の核心である武装を確保、その後北部で最も脅威であった魔導砲を強奪、そして魔導砲の使用権をミナトに譲渡。さらには中央国王派の切り札であり、西部王国における最強の力を持つちゃちゃ丸を懐柔し、分裂した勢力の中で南部教会派に並ぶ力を手に入れた」
ほう、南部教会派にはちゃちゃ丸や魔導砲と並ぶ何かがあるのか、恐らく今日代表として来ていたあの人工聖人かそれに関する何かの切り札があるのだろう。
「蜂起勢力に一番必要な物は武力、財力や権力なんて、そんなものは圧倒的な暴力さえあればいくらでも手に入る。貴方はそれを誰よりも知っていたのね」
そういいながら彼女は手に持ったワイングラスを一気に空にした。そうしてグラスを投げ捨てると、彼女はアイテムボックスから魔杖を取り出した。
「<聖光降臨>」
そしてシュレミーはいきなりクロウに神聖属性の攻撃を放つ。本来街中はスキルや魔法は使えないが、緊急クエストはまだ終わっていないので、魔法やスキルは問題なく使える。
「あばばばばば」
天から降り注ぐ神聖な光がクロウに降りかかる。致命傷にはならないが、業がカンストしているクロウには有効的な攻撃だ。光が途切れた頃、椅子から転がり落ちたクロウはのたうち回っていた。
「やっぱり、貴方魔族ね」
聖光降臨は業が高ければ高い程致命的なダメージになる。天使の権能でもある聖光は悪魔族や魔族が最も忌み嫌う攻撃の一つだ。
「待っ、違っ」
間違ってはないが言いふらされると面倒くさいので彼女が一つ忘れている事を言う。
「レッドプレイヤーを討伐して回っていたんだ。ある意味その殺人で業が上がっていたんだと思う」
間違いではない。レッドプレイヤーを殺して回っていたクロウはレッドプレイヤーにはならないが、人殺しには変わらないので、業の値は否応にも上がっていく。
「......」
シュレミーは言われてからそういえばそんな事もあったわね。と言う顔をした後、
「そういう事にしておくわ」
地面に転がったクロウに背を向け、シュレミーは立ち去った。
「いたた....どこが<天使>だよ...」
クロウは先ほどの攻撃で10万分の1も減っていないHPが一瞬で回復したのを確認した後、大人しくミナト達と合流して帰る事にした。




