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勘違い魔王のVRMMO征服記  作者: 愛良夜
第一章 アズガルド大陸
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セシリアのお話その3

魔王クロウ討伐と結婚破棄の話を聞いた夜、セシリアは一人、宮殿の一番高い塔の部屋で泣いていた。

確かに結果だけ見ればセシリアの想像以上だった。結婚は破棄され、南部王国には亜麻色乙女と言う勇者が3人いる。そして南部王国は魔王討伐と言う名誉も増え、今後他国との交渉など、政治的な地位は格段に強くなったと言える。だけども、魔王クロウ、優しくて、純粋で、面白い彼が死んだ。その事実はとても受け入れがたいものだった。王女だけでなく、聖女としての力もある彼女はわかる。神託を下す天使も確かにクロウは死んだ、と言っていた。だがセシリアは納得いかなかった。どうして彼が死ななければいけなかったのか。彼女は必死に考える。彼が魔王として、殺される以外の方法はなかったのか。思いつかなかった。南部王国で父に代わって執政を続けてはや4年。先の北帝領との戦争で正気を失った父は、今や王座に居座るだけの廃人となった。そんな父に代わって、国内を立て直し、以前よりさらなる繁栄をもたらしたセシリアは、正式な冠位伝承式がなくとも、誰が見ても王女は女王として立派になった。


「うわぁあああああああん」


ついにセシリアはこらえきれずに、大きな声を出して泣き出す。初めて会ったとき、あんなことを言うんじゃなかった。デートの時に、もっといっぱい遊んでおくべきだった。数多くの後悔がセシリアに押しかかる。宮殿の蘇生魔法で蘇らせようにも、遺体がない、プレイヤーは教会で蘇ると聞いたけど、教会はそんな人はいないというし、蘇生不可能な状態になってしまったのではないかと思うと、余計に心が痛くなる。


そうして一人で枕を抱いて、寂しい部屋の大きなベッドの片隅で、泣いていると、いつしかヒューと言う音共に窓が外から風が吹いてきた。セシリアが窓の方を見ると、クロウが気まずそうにクレープを持って立っていた。


「....」

「....」


目と目が合う。瞬間


「うわぁあああああああん!」


セシリアは再び泣き出した。


「なぜ!?」


どうすればいいかわからず、クロウはとりあえずセシリアにアイテムボックスから取り出した大きな熊のぬいぐるみを渡した。


暫くしてセシリアが泣き止んだのを見ると、クロウは大きな熊のぬいぐるみを背にしてもたれかかり、いつぞやのチョコレートのクレープを頬張るセシリアを見て、事情の説明をしようとしたが、薄手のネグリジェを着た、出るところは豊満に出て、引っ込むところは健康的に引っ込んでいるセシリアを見て、ふと冷静になった。


(これ密会だよな、バレたら反逆罪とかで処刑されない?)


初めてセシリアと会った時とは違う罪状に怯えるクロウだった。


クレープを食べ終えると同時に、セシリアはクロウから作戦を全て聞き、相談してくれてもよかったじゃんなどと拗ねたように文句を言った。


「いや謁見禁止出したのセシリアだし...」

「知ってるもんべー!」


子供のように下を出してべーするセシリアは、年相応の少女のようだった。そういえばセシリアは何歳なのか<鑑定>する。


名前:セシリア・サウフォード

身分:堕王女

年齢:22


(んんんんん???)


若っ、いやそれ以前に「堕」王女????いつ「聖」じゃなくなったの???いつ堕ちたの??誰だよ!!クロウか!俺か!


クロウはその場にうずくまり、頭を抱える羽目になった。


「クロウ、王女としてお願いがあるの」


先ほどまで遊び半分の雰囲気は無くなり、セシリアは真剣な眼差しでこういった。


「南部王国の発展を手伝って」


その晩、クロウとセシリアは夜遅くまで南部王国の財務、農業、貿易、軍隊まで、セシリアは包み隠さず話した。クロウも聖王国の一件があるので、包み隠さず話す事にした。


翌日朝、セシリアはまずは一番始めやすい財務について取り掛かった。セシリアはベルアルと違って<月神>の加護はなく、堕王女になってから<智天使>の加護も無くなっている。困った。王女なのに加護無しは不味い。クロウは脳内で誰か加護を授けられないか探してみると、一人の堕天使が反応した。


(その子気に入った、僕の加護を授けよう)


黒い羽根が6つ生えた白髪に角の生えた青年が優しくセシリアの頭に触れると、ピロンとクロウはセシリアに加護が増えたのを確認した。<堕天使ルシファー>の加護。天使の中で最も優秀で傲慢な彼が、珍しく人間に加護を与えた。恐らくクロウ以外では初めてだろう。彼の加護は<導く者>。王女や国王が授かるにふさわしい強力な加護だ。これでセシリアもベルアルのように部下や手下の本性を見抜く力を手に入れた。


財務大臣5名、国務補佐官3名、地方官吏19名、これがセシリアが罷免した汚職官吏のネームリストだ。

彼らは皆、南部王国の法律に則り斬首、そして彼らの家財は全て押収した。その値にして年間税収約6年分。その他にも汚職官吏を罷免し、家財を押収した。そして新しい大臣を募集し、財務はすぐに軌道に乗った。クロウもいくつか新しい計算方法や簿記方法を教え、今より不可解な点がより一層明らかになっていった。


次は農業、膨大な人口を抱えるのに、食料自給率が少なく、食料にならない農作物ばかりを作っている。金は稼げるが、北帝領が既に質でも量でも次元を超えた格差があるので、セシリアには国外からの食料輸入を抑え、自国の農作物を大きく買うべきだ。セシリアも何をすればいいか分かったみたいで、早速、対応策を農業大臣に取り掛かるように言った。


貿易は難所であったが、先の大型アプデで水と木の術を学んだことを生かし、まずは木材の輸出、それからより高級な家具を売ればより儲かる。この件は木を育てる事から始まるので、農業大臣との慎重な相談が必要だ。セシリアは落ち着いてとりあえずこの件に関してはメモをするだけにした。


軍隊、これは難所だった。西部王国の軍隊は先の北帝領との戦闘で既に戦う意思を失っており、どうすればいいか正直クロウも分からなかった。難しいのでもういっそ全員帰らせればいいのではないか思った。いわゆる屯田兵として、普段は農業やその他の事業に参加し、有事の際に集まる。まずは日常生活に戻り、南部王国の生活を謳歌し、いずれ愛国心が生まれた時にまた召集をかければ少なくとも今よりマシな志望者が集まるはずだ。隣国たちは勇者である亜麻色乙女達が抑止力となっているので攻め込むこともないだろう。


以上の政略を持って、クロウとセシリアは南部王国の発展を始めた。


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