セシリアのお話その2
セシリアとのデートから数日後、クロウはベルアルと一緒に、北帝宮殿の庭園の小さなカフェテリアでお茶を飲んでいた。
「なあベルアル~、俺どうしよう~」
会って早々、クロウはベルアルにセシリアの事を全部話すと、なぜかベルアルは少し苛立っていた。
「知らぬわ」
そう言いつつ、優雅にティーカップに口をつけるベルアル。
「まあまあ、そう言わずに」
「ふんっ」
ベルアルは相も変わらずそっぽを向いている。近くにいるメイドも、こればっかりはため息をつくしかなかった。
「頼むよベルアル~、お前しか頼れないんだ」
「ん?」
ベルアルが少し反応した。
「歴代最高の王女、いや女帝として、教えてくれよ~」
ベルアルは再びクロウの方を見ると、はぁ、とため息をついて、クロウにこう切り出した。
「クロウ、貴殿はこの世界では並ぶ者のない力と権力を手に入れている。天使にも目を付けられていながらも、小さかったこの国をここまで大きくできたのだ。貴殿は貴殿の好きな事をすればいいのではないか?プレイヤーとは、そういうものだろう?」
ベルアルはそういうと、再びティーカップに口をつけた。言われてみればそうだ。セシリアと会ってから、なんか色々と考えすぎている気がする。確かに<天雷>で皆殺しにしたのは良くなかったけど、やっちゃったもんは仕方ないし、結局ゲームだし、運営に怒られてないなら許容範囲内ってことだよな。
「よし!わかったよベルアル、ありがとう」
クロウはそういうと、自分の紅茶を一気に飲み干し、ご馳走様とだけ言って、庭園から霊馬に乗って南部王国の方へと駆けていった。
そして、ギルドハウス、亜麻色乙女にて。
「お前ら、貴族になりたくないか?」
「「「???」」」
開口一番、三人はクロウのぶっ飛びすぎている話に頭をかしげる3人。
「実はこれこれこういうわけが...」
ベルアルに話したように、三人にもセシリアとの話を話す。話を聞いた3人は、クロウと同じく胸糞悪い話だと同感した。今のクロウの実力からしたら、聖王国を滅ぼすのにさほど苦労はかからない。だが聖王国を滅ぼしたところで、第2第3の聖王国が出てくるだけ、王女は依然、マリオネットとして糸につながれたままだ。だからクロウは大きな芝居を打つことにした。クロウは自分の分身を作り出せる。なので分身に魔王クロウとして聖王国への侵攻を開始する。当然そうなれば結婚どころではなくなり、きっと多くの国が魔王に対抗するために兵を出す。そこで亜麻色乙女の3人には南部王国と王女を代表して魔王を討伐する。そうすれば魔王と倒した勇者3人がセシリアのバックにいると聖王国にも示しがつく。そうすれば先の戦争の事も、今回の危機でチャラにできるのはないかと思った。思い立ったが吉日、クロウはLv100くらいの自分の分身を作り出し、準備を始めることにした。
数日後、新大陸の聖王国、先の人間大陸侵攻を主導したその王国は、これまでないほどに慌てていた。
魔王クロウと名乗る存在が、聖王国の辺境の町々を破壊して回っているのだとか。それを見た聖王国国王は、聖王国軍を出せばなんとかなるだろうと思っていたが、派遣された王国軍全滅と言う知らせと、魔王クロウが放った巨大な土槍が直接王都の宮殿に突き刺さったのを皮切りは、聖王国軍は周りの王国へと助けを求めた。だが人間大陸には一撃で聖王国軍を跡形もなく消し去れるものがいるのを聖王国の国王本人が言っているので、人間大陸からやってきた魔王クロウに誰もが怯えて助け舟を出せなかった。
そんな中、南部王国のギルド<亜麻色乙女>の3人が南部王国を代表して加勢に来た。セシリアはなんとなく3人は準貴族として表彰したと薄い記憶しかなかったが、今回の対魔王クロウ戦にて、目覚ましい功績を残した3人は、鮮烈な記憶を聖王国の国王とセシリアに残すことになった。<エアマシンガン>で次々とモンスターを打ち抜くアマネ、精霊魔法で巨大な雷の竜巻や、火の竜巻で敵を薙ぎ払うアカリ、屈強なミノタウロスのようなモンスターを一撃でミンチにしていくホムラ。
危うく王都防衛戦になりかけていた聖王国を、たった3人で戦況をひっくり返し、数日後には、クロウの首を持って聖王国の国王に謁見していた。魔王クロウの恐ろしい首を確認した国王はその力の恐ろしさに震えると同時に、首がここにあるという事実に安堵していた。国王は3人に何か望みはあるかと聞かれたら、王女は既に心に決めた人がいるので、結婚は無しにしてほしいと言った。国王は非常に困った顔をしたが、魔王討伐の功績があるので、彼女らと敵対するわけにもいかず、しぶしぶ承諾した。翌日、聖王国と南部王国のポータルから使者がやってきて、亜麻色乙女の3人は魔王クロウ討伐の功績から聖王国では伯爵の位を授かり、また3人の意向によってセシリアと聖王国第二王子との結婚も白紙破棄になったとの知らせを告げた。
セシリアは最初、すごく驚いていたが、直ぐに3人を呼び、魔王討伐の報酬として、南部王国では伯爵位を授与した。そして魔王クロウはどうしたと聞くと、首を刎ねて聖王国王に献上したと言った。セシリアは一瞬顔が青くなったが、直ぐによくやったとだけ言うと、3人を下がらせた。




