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勘違い魔王のVRMMO征服記  作者: 愛良夜
第一章 アズガルド大陸
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セシリアのお話

そしてデートの日当日、クロウはそわそわしながら南部王国の首都にある巨大な国王像の下で待っていると、


「待たせたかな?」


とセシリアの声がした。高貴な彼女に似合う、春先を表すようなピンクのワンピースに、軽く化粧もしたみたいで、少し高いハイヒールがクロウとセシリアの距離を縮めているようだった。肩には小さなポーチをかけ、通り過ぎる人間すべてを引き付けるような美しさと可憐さを醸し出していた。


「では行こうか!今日のプランは練ってある!楽しくなるぞ!」


最初に行ったのは露店外の屋台、朝食も兼ねてここでお手頃な値段のクレープとコーヒーを購入する。セシリアが買ったのはいちご味、クロウはチョコレート味だ。


「む、クロウのもおいしそうだな」


もらったフォークで少しセシリアに分けようかと思ったら、彼女ははむっ、とそのままかぶりついた。


「ん~!チョコもいけるなこれ」


クロウが王女の行動にドキドキしていると、彼女は意地悪そうにクロウの耳元で、


「クロウの味がする♥」


と言っていたずらっ子のように笑った。


食事もほどほど済んだ二人は、プレイヤーが作ったと言われる遊園地に来ていた。魔法と魔術が使えるこの世界では、現実世界に比べてより一層刺激的な設備が多く備わっており、本物のおばけ屋敷や、紐無しバンジージャンプ(浮遊魔法あり)、1周するバイキングに、魔法使用可能の土竜(もぐら)たたきなど、二人は時間を忘れて楽しんだ。午後三時頃、だいたい刺激的な施設を回り終えた二人は、観覧車に乗って休憩していた。少し濡れるアトラクションもあり、セシリアはふぅ、と息をつきながら入園時にもらったパンフレットをパタパタと扇ぐ。クロウは汗をかかないため、アイテムボックスからペットボトルに入った水を渡す。


「おお、気が利くな、ありがとう」


セシリアは蓋を開け、ごくごくと飲んだ。


「プレイヤーと言うのは便利だな、アイテムボックスと言うもので、いつでもどこでも好きなものが取り出せる」


確かに、アイテムボックスやスキル、魔法の発動はゲームシステムがだいたいなんとかしてくれるので、便利な事この上ないが、セシリアのようなNPC達はそういう機能が何一つない、アイテムボックスが欲しければ、高価なマジックバックを買うしかないのだ。なぜセシリアがそういうって顔を曇らせたのかわからないが、何か彼女なりにも抱え込んでいるものがあるというのはわかった。いつしか観覧車は一周し、二人は降りると、夜ご飯の前に本屋に寄りたいといった。クロウも同意し、大人しくついていく。王都の居住区の片隅、小さな侘しい建物の一つに、セシリアの言う本屋があった。長年来る客が少ないその本屋の本は、いくつか少し埃をかぶっており、クロウは適当に一冊取り出すと、ほこりを払って本を開いてみる。どうやらこれは歴史の本ようだった。南部王国の歴史の本で、建国当初から数代前までの偉大な歴史が事細かに記されていた。セシリアは本には目もくれず、奥で座っている老婆に話しかけた。


「ばば様!遊びに来たよ!」


セシリアは老婆のそばによると、膝をついてばば様と楽しそうに話した。クロウも本を一旦棚に戻し、アイテムボックスから質素な椅子と取り出して、セシリアに座るように促す。彼女はありがと、とだけ言って、目の前の老婆と他愛無い話を続けた。長くなりそうだったので、クロウは空気を読んで本屋の外で待つことにした。数時間後、セシリアが話を終え、本屋から出てきた。クロウを見つけると、駆け寄ってきて、待っててくれてありがとうとだけ言った。それからは特に話すことはなく、ゆっくりと沈む日を横に、二人は歩幅を揃えて散歩するだけだった。長い、長い散歩を終え、宮殿の裏口の近くにあるベンチで、セシリアはクロウにここで座らないかと言った。


大人しく二人は座ると、セシリアはゆっくりと話し出した。


「私ね、結婚するの」

「!?」


本日二度目の驚愕、普通、王女の結婚ともなれば、あらかじめ国を挙げて王国総出で祝うはずなのに、なぜ誰も知らないか。


「前に、新大陸の聖王国が攻め込んできた事件があっただろう?あれから聖王国にずっと責任を問われていてな」


クロウも覚えている。確か去年の緊急クエストか何かだったはず。クロウの衛星兵器のいい実験台になった。


「今の西部王国には王女がいないし、代わりに参戦していた私が舞台に押し出されたんだ。北帝ベルアルと東部幕府は無関心だし、和解案が見つからず、西部も聖王国も私が嫁ぐことでの和解に同意した」


なんとも胸糞の悪い話だった。西部王国で聖女は殺されたのだから、西部王国の人間が責任を取るべきなのに、なぜ全てセシリアに押し付けるのか。


「当初は、私は南部西部ともに一撃で一軍隊を滅ぼす魔法なんて使えない、おそらくプレイヤーの仕業だと言って、潔白を証明しようとしたが、彼らはただ、国が欲しいだけで、理由なんてどうでもよかった」


うーん、10割クロウのせいだが、なんとか西部王国になすりつけたくて西部王国の領土で派手にやったのに、なんでセシリアのせいになったのか、政治の才能がないクロウにはわからなかった。


「だから最後にクロウ、あなたと遊べて楽しかったよ」


セシリアはそういうと、零れた涙を拭きながら、ベンチから立ち上がり、宮殿の裏口へと歩き出した。

彼女は泣きそうな顔で、笑いながら、バイバイとだけ言うと、大きな宮殿に吸い込まれるように消えた。


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