アマネの特訓
翌日、とりあえずアマネから集中的に鍛え上げることにした。同じ魔法使いと言うこともあるし、何よりも教えやすい。
「全部覚えました!」
「じゃあ一個ずつ全部発動してみてくれ」
「え?」
「はいこれMPポーション」
アマネは30分かけて本当に全部発動した。彼女の元素魔法のLvはⅤなので、<中級元素魔法発動陣>までは全て習得できるだろう。一応本だけ渡して、一つのスキルを教えることにする。
「このゲーム、オーバーザホライゾンの空気中、いや世界には地球でいう空気と同じように、MPの元となる魔素が多く存在する。いわゆる酸素みたいなね。それをプレイヤーやNPC達は無意識に吸収しながら生きてるんだ。いわゆるMP自動回復ね。そして魔法使いはね、己のMPを燃料に、魔法陣や詠唱と通して、はたまた精霊その他の存在を通して、魔法的現象を引き起こすんだ。つまりはだよ、プレイヤーやNPCは訓練さえすれば、自分でこのMP自動回復量を増やせる、つまり周りから多く魔素を吸収してり、<魔導>の域に達すれば自分で魔素を操作したり生み出せたりするんだ」
アマネはポカーンとした顔で話を聞いていた。
「なのでまずは<魔力感知>のスキルを獲得しよう」
アマネと手をつなぐ。
「びっくりするかもしれないけど、手を離さないでね」
クロウは<魔力操作>でアマネの体内の魔素をぐいぐいと動かす。
「えっ!?えっなにこれやば!?」
最初は内臓をかき混ぜられてるみたいでなれず、アマネも無事朝飯を戻すことになったが、自分のステータス欄に<魔力感知>が追加されており、これからは魔素を凝結してできた魔力を自由に感知できるようになるだろう。
「よし、じゃあ休憩しながら話を続ける。中級元素魔法発動陣の本を渡したと思うけど、これを見てくれ」
クロウは空中で<火炎槍>の魔法陣を浮かび上がらせる。それと同時に、<火炎球>の魔法陣も起動する。
「この二つの魔法陣、似てないか?」
アマネは空中に浮かぶ二つの魔法陣とにらめっこすると、
「魔法陣の中心が同じだ!」
「そう!」
頭のキレる生徒は良い生徒。
「魔法陣には中心となる文様があって、これはアマネのサブ職業である付与魔術も同じなんだけど、基本的にはその中心となる文様に付け足し付け足しで違う文様を重ねることによって魔法や魔術に効果が生まれるんだ」
クロウは手元に火炎球の魔法を発動させながら、火炎球の魔法陣も出現させる。
「これはクラスⅢの火炎球の魔法陣だけど、これを外から一個ずつバラすと」
そう言いながらクロウは一つずつ魔法陣の文様を取り外していく。すると手元の火炎級は形を失い、小さくなり、火の勢いが小さくなり、最後には普通のクラスⅠの火の玉という魔法になった。アマネはその過程を見て、目から鱗がボロボロ落ちてきた。
「それを知ったうえで、中級元素魔法発動陣を勉強するときは、自分で習得した初級の魔法陣と比較しながら勉強してみてくれ」
再びアマネは初級元素魔法陣を展開しながら、中級魔法陣を勉強していった。
翌日、勤勉なアマネは中級魔法陣も全て暗記したようなので、全部発動させると、問題なく魔法を行使できた。
「よし、じゃあ次の段階だな。まずは魔法陣を出現させてくれ、なんでもいい」
アマネは火炎槍の魔法陣を出現させた。
「火炎槍と火炎球の魔法陣の違いはもうわかると思うから、魔力感知で感じた魔力、魔の力で文様を魔法陣から外してみてくれ」
アマネはすごい形相で魔法陣とにらめっこする。顔が真っ赤になるが、魔法陣はびくともしなかった。
「これができれば<魔術改変>というスキルが手に入る。そうすれば魔法陣を自由に付け替えられるようになるんだ。がんばれ」
こればっかりは本人が自ら習得するしかなかった。
1週間後の金曜日夜。アマネはなんと<魔術改変>を習得していた。しかももう既に魔法陣の文様意味をいくつか自分で解明したらしく、既にオリジナル魔法を何個か作ったんだとか。クロウはアマネの賢さに素直に感心し、いくつか自分の改造した魔法陣を紹介した。
「クラスⅠの風の玉に<火炎槍雨>の<連射>と<回転>文様を取り付け、その中に<爆発球>の<圧縮>の文様を取り付ければ、実質的な透明のマシンガンができる。<エアマシンガン>って勝手に呼んでる。1発あたりクラスⅢの風弾と同じ威力だが、消費MPはクラスⅠの風の玉と付加文様だけなので、MP消費は風の玉+8くらいだ。風の玉の通常消費MPは5、改造後だと13/発を消費することになるが、風弾は30/発なのでこっちの方がマシかな。俺はMPがほぼ無限になるから、ここからさらに<威力上昇>の文様を追加して、一発でプレイヤーが倒せるくらいの強さにしてる。でもアマネはまだMP量が足りないから、このままでいいと思うよ」
クロウは試しにアマネに紹介した魔法陣を起動する。ドドドドドドと毎秒数百発の勢いで数えきれないほどのクラスⅢ相当の威力を持つ魔法が的へと飛んでいく。その圧倒的勢いと破壊力に、アマネは目の前の男が魔王と言われる所以を改めて認識した。
「アマネのMP上限っていくつくらい?」
「今は、2000くらいかな?」
「お、結構上がったね。だったら、この魔杖をプレゼントしよう」
クロウは自分のアイテムボックスから、一見何の変哲もない、模様のついた緑色の魔杖を渡した。
「この魔杖には<消費MP軽減LvⅢ>と<元素魔法強化LvⅡ>の増幅術式が刻まれている。アマネの付与術式は属性を付与するタイプだから作れないけど、ホムラは武器装備に付与するタイプなので、今度ホムラに頼んでもっといいやつ作ってもらおうな」
アマネはクロウにもらった魔杖を手に持って、<エアマシンガン>を発動してみる。魔杖を通して生成した魔法陣からはクロウの時よりも強い威力のエアマシンガンが数千発放たれた。しかもLvⅢのMP軽減も功を奏し、1発あたりのMP消費量は完全にアマネの自己再生量を下回っていた。
「今回は風系にしたけど、この杖全属性増幅できるから、火炎属性とか、好きな元素系で試してね」
アマネは目を輝かせながら、ものすごい勢いで頭をぶんぶん縦に振った。
「あとは、強力な切り札となる一撃が欲しいよなぁ~、うーんアマネは何属性か1番使いやすい?」
「火属性です」
「なら、クラスⅤの<爆裂火炎弾>に<圧縮>と<凝縮>、それから<威力上昇>と<魔力出力上昇>をつけよう、後、理科の授業でやったと思うから省くけど<火炎段階上昇>もつけて...」
出来上がった複雑怪奇な魔法陣でクロウは魔法を発動する。すると、魔法陣から青い巨大な爆裂火炎弾が出現したが、めきめきと抗いがたい力でどんどんと小さくなり、終いには手のひらサイズになった。クロウはそれを気の抜けた「ほいっ」という声で的に投げる。一般的な速度で飛んで行った青い火球は、的に触れた瞬間、一瞬で膨張し、爆裂した。あまりの威力と熱量に、アマネは目が見えなくなり、耳にはキーンと言う音しか聞こえなくなっていた。暫くして再び目を開けると、破壊不可能のはずの訓練場の的は跡形もなく消し炭になっており、数秒後に新しい的が出現した。
「はいこれさっきの魔法陣ね、名前はどうしようかな...<マグネタイトボム>とかでいいっか」
アマネは魔法陣を自分の魔法一覧に登録すると、消費MP4000と書かれていることに気がついた。
この魔法はクロウにもらった魔杖がないと使用できないだろう。
「ということで、後は探求あるのみです、魔法陣が解読できるようになったら、後は自分で自分なりの魔法スタイルを見つけてね」
クロウはそういって、西部王国の学園で教えたように、魔法と魔術の相乗効果についても軽く話し、アマネの特訓はひと段落を終えた。




