イベント終了です
西部王国、ギルド<亜麻色乙女>
数多くの女性プレイヤーが集うこのギルドにも、クロウは容赦なく襲い掛かることにした。
「エインヘリアル起動:<魔術師殺し>」
アイテムボックスからエインヘリアルを取り出し、素早く乗り込む。起動された2mを超える漆黒の機体は、いつぞやの魔法を霧散させた魔力吸収防壁と同じ効果を持つ機能を起動し、右手に銃、左手に刀を持つ、通称、ガンカタスタイルのその機体は、数多くの魔法使い、魔術師を無力化させる、実質彼らにとっての死神だった。銃に込められた銃弾には未完成の増幅術式が刻まれており、効果は<魔力上昇>だが、術式からセーフティとなる抑制文様を取り除くことで、無限に魔力を上昇させ、使用者が強力すぎる魔力で爆散するというえげつない術式だ。左手の刀には<MP吸収>と<精神抵抗力低下LvⅢ><恐怖付与LvⅢ>の術式が刻まれており、斬られるたびにMPをごっそり削られ、精神が不安定になり、心当たりのない恐怖に足がすくむようになる。クロウはそんな機体に乗って容赦なく目の前の乙女たちを切り裂いて、失禁させ、次々と教会送りにしていくのだった。彼女たちの宝物庫にはこれと言った目新しいものはなく、せっかくなのでいくつかベルアルに似合いそうなアクセサリーと服をいただいていくことにした。かわりと言っては何だが、時と場合によっては命を救うことになる<生命防壁LvⅡ>という術式を羊皮紙に書いて入れておくことにした。この<生命防壁>と言う術式は、自分の意思か、緊急時に自動発動するようになっており、使用者の周りを<物理防壁><魔法防壁><HPMP回復>の効果を併せ持つ緑色の防壁で守ってくれる優れものだ。正直少しやりすぎたかな?と思ったクロウだけど、イベント参加を決めたのは彼女たちなので、文句は....まあ言われてもしょうがないだろう。
クロウは引き続き他のギルドを物色することにしたが、もうどこもかしこも同じようなギルドばかりで面白そうなギルドはもう他にはなかった。なかったので、ラビットハウスに攻め込んだ時の召喚獣を好きに遊ばせることにした。
「召喚:<獄凍冥将>」
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<獄凍冥将>
<氷獄王:デューク>が死後、冥府で手に入れた新たな力を使って作り上げた手下、<獄凍将>に冥府の力を分け与えたより歪で悍ましい将官。冥凍鉄で作った装備と、攻撃すれば相手に膨大なデバフをかける<冥呪の剣>を持つその召喚獣は、先の聖魔大戦争で聖神側に大きな注目を向けさせた。もっと言えば、<獄凍冥将>を倒すのに天使位階第三の座天使を数体動員するのが必要なほど強力だった。そんな冥将がクロウの無尽蔵ともいえるMPの元で、南部、西部、東部の王国で次々とギルドを潰して周り、金品やレアアイテムを奪いながら破壊の限りを尽くす。残り少ない聖魔大戦争の生き残りの天使達は、天上世界で太古の恐怖に再び怯えることになるだろう。冥府より来る悍ましい暴力と冷血と戦場の化身が力天使の羽を引きちぎり、主天使の喉元を食い破り、座天使を一刀両断した古の恐怖の存在に。
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イベント<ギルド戦争>の終盤、イベントの内容は一変していた。魔王クロウの呼び出した鑑定不能の黒い怪物をギルド戦争に参加しているもの全員で討伐するという、もはや別のイベントになっていた。西部王国に出現した<獄凍冥将>の数は3体、それぞれ三方向に散開して、手当たり次第にプレイヤーのギルドを見つけては襲い掛かっていた。既に数多くの魔法ギルドや対魔法使いのギルドが餌食になっており、ワールドチャットでは、ただ絶望が延々と生まれては流れていくだけだった。勇敢な戦士は黒い怪物に食いちぎられ、頑丈な騎士は鎧ごと引き裂かれ、俊敏な弓兵の矢は届かず、冷静な盗賊は逃げまどい、清廉な修道女は穢され、希望の勇者は地に伏した。最終的に、西部王国の最終最強の戦力である国王親衛隊の7割と、西部王国の聖女が教会で召喚した権天使3体と、人間巨砲と呼ばれたプレイヤー、ちゃちゃ丸が魔導砲で黒い怪物の鎧を破壊して、ようやく1体とも倒すことに成功した。ギルド戦争に出ていた西部最強のプレイヤー、ちゃちゃ丸が帰還したことにより、魔導砲で黒い怪物の鎧が破壊できることに気が付いたので、そこからは以前に比べて少ない損害をもって怪物退治ができた。最終的に国王親衛隊の8割の損失と、教会の聖女4人の数か月に及ぶ昏睡、また魔導砲3基の代償をもって、西部王国に侵入した<獄凍冥将>は討伐された。なおその間にクロウは<スケルトン・スティーラー>で王国の宝物庫からもかなり拝借した。
南部王国、大陸拡大により、以前の版図より2倍近く南に広がったこの王国には、<獄凍冥将>が6体いた。南部王国は他の二か国に比べて広いので、彼らの侵略は比較的ゆっくりだったが、西部王国と違い、魔導砲が数基しかない南部王国は、より大きな損失を負うことになった。人海戦術はこれらの黒い怪物にとってご褒美にしかならず、特に魔導砲のような大型破壊兵器もない都市にいる彼らは、ただひたすら城塞都市にこもって、イベント終了を待つしかなかった。事実、イベント終了までの<移動要塞>と言われたプレイヤー、チャーリーが数十万のプレイヤーと兵士を率いて2体食い止めるのが必死だった。南部王国が無事に生き残れたのも、西部王国がのちほど救援の時に、魔導砲で何とかしたんだとか。南部王国、死傷者無数、推定数百万人。全員シュレミーのおかげで蘇れたものの、南部王国兵たちNPCには甚大なトラウマとなった。
東部王国は、なぜか<獄凍冥将>による侵攻は1体だけだった。それも<開国将軍>と言われたプレイヤーに甚大な被害が出る前にあっという間に討伐され、開国将軍本人は久しぶりにいい運動になったと言い、嬉しそうに町へ出かけたという。
以上の各ギルド、各国への被害をもって、イベント<ギルド戦争>は終結を迎えた。イベント後、参加登録したギルドは、奪われ、奪ったものはそのまま、運営からのお詫びと言うか参加感謝のつもりか、ギルドハウスへの損害は全て元通りに直った。




