東部王国へ旅行です
魔導衛星兵器の威力満足したクロウは、ニコニコしながら自分の専用型人型魔導兵器に乗り込み、そのまま流れ星のようにペトロデルへ帰還した。数日後、ナビゲーター妖精が再び各国の王都に出現したと思うと、どうやら新大陸は侵攻を断念し、それぞれの国家と和平条約を結んだらしい。クロウ以外何もしてないペトロデルだが、ベルアルの所にも和平支団はやってきて、無事に条約を結んだ。新大陸の一件が落ち着いたある日、クロウは珍しく、ベルアルの稽古の手伝いをしていた。たまにベルアルは剣術や人型魔導兵器で試合をしたいというので、クロウも断る理由がなく、己の高スペックにものを言わせた試合というか打ち合いをしている。はやりプレイヤースキルの低さから、最初は拮抗しているものの、気が付いたらベルアルに一本取られるというのがいつも終了の合図になっていた。
そうして平和な毎日を過ごしていると、クロウは一つ重大な事に気が付いた。
「俺、新大陸行ってないじゃん」
その言葉を残して、クロウはこっそり西部王国のポータルから新大陸へと向かった。
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新大陸と言っても、人間大陸とはさほど大きな違いはなく、あるとすれば、違う君主が違った地域を統一しているくらいだろう。だが面白いことに、プレイヤー達は大陸を跨いでも、ギルドカードや金はそのまま使えるらしい。こういうところは便利だなっとクロウは思った。そんなクロウは今何をしているかと言うと、またもや冒険者として、護衛依頼を引き受けまくっての情報収集だった。新大陸も人間大陸と似ていて、数多くの王国がしのぎを削っていたので、クロウはどこにも加担せず、冒険者や傭兵として中立で活動していくことにした。
冒険者兼傭兵稼業一日目、モンスターを討伐した。そこそこの金になった。
二日目、護衛依頼で新しい町まできた。
三日目、新しい町の近くに出たモンスターを討伐した。
四日目、護衛依頼で新しい都市に来た。
五日目、新大陸の冒険者志望の生徒の護衛依頼を引き受けた。
六日目、無事トラップ部屋にひっかかる。生徒達は九死に一生を得て、なんとか脱出。
七日目、無事踏破。面倒ごとの匂いがするので早々に次の護衛任務を受け、別の都市へと移動。
そして現在に至る。なんでこう学園関係とやたら絡むのだろうか。別にいやではないけど西部の学園でもう十分体験したので新大陸も体験したし、とっとと、どこかの王国のポータルで帰った。ペトロデルへ帰還してから数日、クロウは今度は東部王国に行きたいと言い、ベルアルに一言言って、今度は東部王国にやってきた。今や東部王国は、流浪の武士の影響か、まるで江戸時代の日本のようになっていた。村人全員が和服を着て、腰に日本の刀を差している。クロウも東部王国に習って、いつぞやのリョウマのような恰好をして、腰には打ち直した<寒鉄刀>と<裂刃刀>、今や名を<凍命刀>と<裂命刀>という二つの刀を差しておいた。
「まさかゲーム内で茶が飲めるとは」
リアル世界でも最後に茶を飲んだのは出張で京都に行ったときだったか、もういつかは覚えてないが、この味はなんとなく覚えている。クロウはコクと苦みのある茶を飲みながら、甘い三色団子を一つ一つ丁寧に食べた。店の外、大通りを見渡しながら、クロウがのほほんとしていると、一人の男が急に店の中に投げ込まれた。周囲からは悲鳴が上がり、平和だった大通りはクロウが大事に食べていた三色団子の残りの二本と共にどこかへ消えてしまった。なぜ彼らが戦闘禁止区域である街中で暴力を振るえるのかはわからないし、なぜ投げ飛ばされた百姓のような一般市民と投げ飛ばした大柄なごろつき三人が争っているのかもわからない。わからないがクロウはこいつらのもめ事によって楽しい気持ちが全て台無しになったことだけはわかる。
「へへへ、貸した金は利子もつけて返すもんだぜ?」
「うぅ...そんな法外な利子、払えないよ...」
「そこに直れ、外道ども」
クロウが投げ飛ばされた百姓の前に立ち、大柄な金貸し達にそういった。
「この***共が、お前らの****を****して****するぞこの*****」
ゲーム内で規制のかかるような事を言いながら、クロウは腰から<凍命刀>を抜いた。
「な!お前、野武士か?だがいいかよく聞け、俺たちは上田将軍の息子に仕える...」
言葉も言い終えぬまま、クロウは綺麗に二人の首を刎ねた。傷口はすぐさま凍り、そのまま全身が凍ったかと思うと、全身氷漬けになり、砕け散った。それから店の店主には多めに金を代金を払い、店が直ったころにまた来ると言い、残り少ない茶を飲み干し、手に持っていた三色団子の最後を飲み込むと、大通りの方へと歩き出した。暫く大通りを散歩し、ベルアルへのお土産をいくつか買って、時間もいい感じになったので、食事処を探すことにした。大通りのはずれ、町の細道から香ばしい鍋の匂いが漂ってきた。匂いにつられて歩いていくと、普通の民家の中に小さな食堂があった。中に入ってみると、既に白髪老年の剣士が酒を飲んでおり、クロウはその剣士と一席の距離を開けて座った。ご注文は?と聞かれたので、あん肝鍋と熱燗をくださいとクロウは言った。数分後、小さな卓上囲炉裏と共にあん肝鍋が出された。そしてすぐその後に熱燗が出された。
クロウはあん肝を一口食べてみると、想像より数倍の濃厚さとうまみにびっくりし、ゆっくりと味わいながら黙々と食べ続けた。途中、横を見てみると、隣の老人がこちらを見ていたので、けちけちせずに新しい器にあん肝と野菜を入れ、老人にそっと渡した。老人は感謝し、おいしそうに食べだした。そうして二人で話をしながら食べ終えると、今回はクロウがまとめて払い、また今度会ったら今度は老人が払うと約束し、それぞれ違う道に行った。それから数日、東部王国の東部でウニやカニを食べ、中部で高級牛を食べ、南部で馬肉などを満足のいくまで食べつくした。だがある日、上田将軍の息子を名乗る人が6人ほど家来の侍を連れてクロウの前に立ちはだかった。
「野武士風情が、殺せ」
後ろで控えていた侍が問答無用で刀を抜く。それを見たクロウも<凍命刀>と<裂命刀>を抜く。
そして双方ともに一触即発の状況になった時、横から落ち着いた老人の声が聞こえた。
「久しぶりだな、上田のせがれよ」
クロウが声のした方を見ると、老人は胸から<開国将軍>との告示の入った玉符を取り出した。
「あ、ああああなたは!?」
「俺の名、忘れたわけではあるまいな?」
「めめめめめっそうもおごごございません!」
刀を抜いていた武士含め、その場に土下座した。
「俺の友人に剣を抜いた事、後でお前の親父に聞いておこう」
そういって、旅の友のあの老人は戦うことなく全員帰らせた。確かに老人は東部王国の開国将軍という身分だが、クロウは特に気にすることなく旅をつづけた。旅の終わり、初めてクロウが茶を飲んだ茶屋で、二人は別れの挨拶をしていた。男同士、長話はせず、手短にまた会おうとだけ言って、クロウは老人を見送ると、自分も専用機に乗ってようやく北国に帰った。




